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ライラと『私』の物語【完結】  作者: GiGi
最終部 最終章
636/642

『』の物語 03






 [『グリム』の物語 03 —『リ(・)バース』—]





 グリムが宣言すると、荒野を埋め尽くしている端末が倒れ始めた。


 だが、その倒れゆく速度を凌駕するように、端末たちはなおもその数を増やしていく。



 誠司は見る、その光景を。



 女神像が失われたと同時に、赤が払拭された空。


 ビオラの残した照明魔法が淡く辺りを照らす中で。


 倒れたグリムたちから抜け出た、無数の『魂』が天へと昇ってゆく——。



 幻想的な、光景。無言でそれを見守っていた誠司は、空を見て呻いた。



「……あれは……まさか……」



 上空五百メートル。誠司の探知範囲内。



 そこから——



 ——無数の『魂』が、まるでグリムの『魂』と入れ替わるように舞い降りてきていた。



「キミなら見えるかい、誠司。私のチートスキル、『1か0かの再構築(リ(・)バース)』はね、私の『魂』と引き換えに、失われた『魂』を呼び戻す能力だ。この戦いで失われた『魂』、全てをね」


「……グリム君……」


「さあ、まずはキミの家族たちだ。見ていてくれ」


 誠司は、注目する。あれは、リナの『魂』だ。


 その『魂』は、まるで導かれるかのように一体のグリムの端末の中へと入っていき——



 ——やがてその端末は、一瞬の光に包まれる。



「……リナ!!」


 ライラが叫び、駆け出した。誠司は茫然と目を見開く。


 リナの『魂』を受け入れた、グリムの端末は——



 ——光が収まったあと、リナの身体となって蘇っていた。



「このスキルはね、『魂』の入った器を、その『魂』の本来の器へと書き換える。まあ、私がファウスティにやったのと同じような原理だ」



「リナ、リナ!!」


 ライラがリナの身体を揺らす。そのリナは——



「……う……ん……」



 ——頭を振りながら、起き上がった。



「……あ、れ……?……私は……」


「リナ!」


「……ふぐっ!?」


 ライラは涙を流しながら、リナに全力で飛び込んだ。呻き声を上げながらもリナは受け止め、ライラの背中を撫でる。


「……ただいま、ライラ……って、待って。ここってもしかして死後の世界!? ライラ、あなたも死んじゃったとか!?」


「……バカ、違うよ、リナ……ちゃんと、生きてる……」


「……うーん……よくわかんないけど……そっか、ただいま」



 その周りでは、次々と『魂』がグリムの端末に入り込み、失われたはずの家族の皆の姿を形成していた。


 エリス、レザリア、カルデネ——茫然とした様子を見せながらも、皆が次々と上体を起こしていた。


「……生き返った……のか?」


 未だ状況が信じられずに呻く誠司に、グリムは答える。


「そうだね。病気などの寿命で失われた者は無理だが、彼らは皆、戦いにより命を失っていった。対象範囲は一日程度だが、皆を復活させるには充分過ぎる猶予だ」


 次々と『魂』が降りてくる。


 ジョヴェディ、セレス、ハウメア、クラリス——


 誠司はグリムの隣に並び、彼女に尋ねた。


「……なあ、こんな奇跡……『代償』は、どうなっている……?」


「……『代償』はね……まず、私がこの奇跡を最後まで完遂すること。もしも途中で終わってしまったら、全てが瓦解して『0』になってしまう。その対象は、人はもちろん、動物や草木、『魂』が宿るもの全てが含まれる。だからまだ安心はするな。応援してやってくれ」


 誠司が彼女の横顔を見ると、その顔は真っ青になっていた。絶大な力を行使しているのだ。その上でDNAの塩基配列操作なども行っているのだろう。その負担は計り知れない。


 その時、グリムの足が限界を迎えたかのように崩れ落ちた。誠司は彼女を支えて呼びかける。


「……グリム君!」


「……心配には及ばない。少しフラついただけさ」


「ライラ、エリス! 彼女に回復魔法を! そして……そうだ、クラリス君も来てくれ!」




 ——『魂』が、降り注ぐ。




 人や氷竜たちと並行して、この戦いで失われた自然——草木や動物、昆虫、果ては魔物までもが再生されてゆく。



 グリムの周りには、再生を終えた者、皆が集まってきていた。


 癒やしの魔法を使える者は彼女に魔法を唱え続け、


 歌姫は歌を唄い彼女の疲労を軽減し、


 彼女を見守る視線は、彼女に勇気を与えていた。



 今や倒れ込み、誠司の腕に抱えられている彼女に、彼は尋ねた。


「……なあ。これだけの力を行使したら……君は、どうなる?」


「……そうだね。それがもう一つの『代償』だ。なに、アルフの言葉を借りて言わせてもらうならば、非常にささやかなものさ」


「……それは……」


「……私の存在の『消失デリート』。どれだけ端末を増やしておこうが、この力を発動した時点で全ての私の消失は決定されている。なに、消失とはいってもキミたちの記憶には残るさ、安心してくれ」


 グリムの、消失。誠司はグリムを支える腕に力を込め、泣き出しそうな顔で彼女を見つめた。



「……グリム君……すまない……」



「……そんな顔をするな、誠司。私一人の命と、この戦いで失われた命全てだ。考えるまでもないさ。『世界で一番易しい、トロッコ問題』だろう?」


「……ああ……」



 誠司は無理やり笑顔を作って、彼女に答えた。



「……そうだな。世界で一番『優しい』、トロッコ問題だよ……」





 儀式は、続く。




 静謐に『魂』の降り注ぎ続ける儀式は、




 明け方まで続いた——。





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