『』の物語 01
何も無くなった荒野。
照明魔法の淡い光だけが辺りを照らす中、抱き合う親子二人。
しばらくして——
背後から、足音が近づいてきた。ゆっくりとした、落ち着いた足取りで。
「——終わったな。誠司、ライラ」
「……グリム君……」
青髪の女性グリムは、二人の背後で立ち止まった。
誠司は『魂』の探知により、彼女の接近に気づいていたが——
「……どうやってあの『大厄災』を、凌いだのかね」
「ああ。私の端末を一つ、魔法国のあった地下に待機させていたからね。それ以外は、全滅してしまったが」
ライラが顔を上げる。少女は縋るようにグリムに尋ねた。
「……ねえ、グリム。もしかしたら、お母さんも……」
「……いや。ジョヴェディたちはよく耐えてくれた。だが、最後にはあの『大厄災』に全員飲み込まれてしまったよ」
ライラは無言で顔を埋めた。誠司には分かっていた。最後にリナを支えた『魂』たち。その中に、この戦いに参加した者は全員いた。
つまりその状況でも生き残っている可能性があったのは、端末の生成で『魂』が複数存在するグリム——彼女だけだ。
彼女は戦場を見ながら、つぶやく。
「ともあれ、私たちの勝利だ。ありがとう、誠司。キミのおかげだ」
「……何が……勝利なものかね……」
誠司はライラを離し、立ち上がる。そしてグリムを睨みつけた。
「……みんな……死んだんだぞ。君や世界にとっては、確かに勝利かもしれない。ただ、その結果がこれだ。こんなのが勝利と呼べるかよ」
「ふむ。つまりこの状況は、キミにとっては敗北だと」
「……そうだよ! クソッ、よくも冷静でいられるな。君には感情というものがないのかね……!」
「ああ。私はAIだったからな。人より感情は薄いよ」
「……黙れよ!」
「お父さん、やめて!」
殴り掛かろうとする誠司の前に、ライラが割って入る。誠司は歯を食い縛り、その場に座った。
「……すまないね。ただ……君ももう少し、人間らしく振る舞ってくれ。私たちの感情を、逆撫でしないくらいにはな」
「努力するよ、誠司。それで、私は見ていないので、念の為の確認だが——」
グリムは顎に手を当て、戦場を見据えた。
「——キミは『ドメーニカの魂を斬って、女神像の消滅を確認した』。間違いないね?」
「……ああ、そうだよ。皆の命を犠牲にしてな」
「そうか。勝利条件は、完全に達成されたな」
「……おい……頼むから、何度も言わせるなよ……」
誠司はグリムを、憎悪を持った視線で睨みつけた。父の心配をしているライラも、グリムに非難めいた視線を送っている。
それを全く意にも介さず、グリムは前に歩み出た。
「そして、度々訊いて悪いが……誠司、キミの願っていた勝利条件を教えてくれ」
「……うるさい。言っただろう? 私にとっての勝利はね……家族全員が、無事に家に帰ることだったんだ」
「ちなみに、ライラ。キミの勝利条件は?」
「おい、いい加減に——」
再び立ち上がろうとする誠司を抑え、ライラは赤く腫らした目でグリムに答えた。
「……私は……みんなが無事で……きっと全部終わったら……そうなってるって」
「……そうか。ならまあ、少なくとも今のこの状況は、キミたちにとっての勝利とは、程遠いな」
「……なあ、さっきからおかしいぞ、グリム君。君は、何を……」
誠司は、グリムのいつもと違う様子に気づく。
確かに彼女は感情をあまり表に出さないが——少なくとも最近の彼女は、ここまで人の心を無視した、機械的な発言をする人物ではなかったはずだ。
誠司とライラは見る、グリムの背中を。
彼女は振り返らずに、答えた。
「別におかしくはない。勝利条件と敗北条件を確認しただけだ。私もね、今のこの状況は、とても『勝利』とは呼べない、そう思うよ」
「……グリム君……」
彼女は戦場を見据えながら、宣言を始めた。
「ならば、改めて言おう。何度でも言わせてもらおう。キミたちの提唱することが、勝利の条件だとするのならば……誠司、そしてライラ——」
グリムは左手を広げ、荒野へと向けた。
[ライラと『私』の物語 最終部]
[最終章 『グリム』の物語]
「——私たちの、勝利だ」
[01 —『私たちの勝利』—]
本日、四話投稿いたします。




