ライラと私の物語 06 —ライラと私の物語—
それは、リナとライラが初めて出会った日に約束した魔法。その約束は、忘れていない。
——リナに見せて、ビックリさせるんだあ。
その想いで、今日までこっそり練習してきた。
最近はエリスやジョヴェディの力も借りて、ライラはいっぱいいっぱい練習をした。
そして、この戦いが終わったら、リナと一緒に空を飛ぼうと思っていたのに——。
遥か上空まで昇ったライラは地表を見つめ、深呼吸をした。
もう、その約束を、果たすことはできないけど——
『——すごいね、ライラ。びっくりしちゃったよ』
——声が、聴こえた気がした。
ライラは驚いて周りを見回すが、誰もいない。
いや——
感じる。見えないけど、確かにリナが、ここにいるのが。
『——じゃ、ライラ。行こっか』
「……うん!」
背中を、押されたような気がした。
ライラは下降を始める。
その速度は重力を味方につけ、いや、それすらをも凌駕し、ひと筋の白い光となって地表へと向かっていく——。
(……莉奈……)
誠司は見る。ライラに寄り添っている、リナの『魂』を。
赤い宝石に向かって、真っ直ぐに降下してくるライラ。
そして、その隣には——
——ライラと手を繋ぐように寄り添っているリナの『魂』が、確かにあった。
誠司は残りの『トキノシズク』を赤い宝石に全部振りかけ、離れた場所へと退避する。
ぐんぐんと迫ってくるライラ。その速さは、なおも加速してゆく。
(……行け……)
誠司は願う。この戦いの決着を。そして、娘の無事を。
「……行け」
歪な空の赤は、薄まってきていた。白い光だけが、眩ゆい光を放ち迫ってくる。
誠司は胸に手を当て、心の限り叫んだ。
「……行け!……ライラ……莉奈!!」
直後、白い光は、地表に衝突した——。
激しい衝突音。舞い上がる土煙。
誠司は薄目を開け、何とか状況を確認しようとする。
「……ライ、ラ……?」
土煙の向こうに、砕けた『赤い宝石』が散らばっているのが見えた。
そして、ライラは——
「……ライラ……!」
「……ケホッ……ただいま、お父さん……」
——砕けた『赤い宝石』の中から立ち上がる、少女の姿があった。
誠司は駆け寄る。見事に成し遂げた、娘の元へと。
抱きしめようとする誠司を手で制して、ライラは誠司を見つめた。
「……お父さん。早く、ドメーニカの……『魂』を……」
「……あ、ああ……」
視線を向けると、ドメーニカの『魂』は、破壊された赤い宝石の中に鎮座していた。
誠司は空を見上げる。リナの『魂』は——
——既に彼の手の届かない場所まで、昇っていってしまっていた。
「……………………」
誠司は静かに、リナの残した小太刀を抜いた。
ドメーニカの『魂』は——まるでその刃を受け入れるかのように、手を広げているように感じられた。
「……くっ……」
逡巡する誠司。ここでドメーニカを斬って、いいのだろうか。皆の想い、ドメーニカを救いたいという『願い』を考えると——
——だが。
燻っている女神像の破片が、蠢いている様子が視界に入った。
この状態でもなお、女神像は再生しようというのか。
誠司は唇を強く噛み締め、ドメーニカに小太刀を向けた。
「……すまないね、ドメーニカ。斬られて……くれるかね」
ドメーニカの『魂』は、変わらずに手を広げて佇んでいた。そして、誠司には——その『魂』が小さく頷いたように見えた。
「………………」
誠司は、目を閉じる。そして、深く息を吐き——
—— 斬
小太刀は、ドメーニカの『魂』を斬り裂いた。
霧散するように消滅するドメーニカの『魂』。同時に、蠢いていた女神像の破片も、全てが消え去っていった。
誠司は小太刀を納め、ポツリとつぶやいた。
「……失ったものが、多すぎたんだ。彼らの繋いできた道を、無駄にはできない」
静かな、静かな荒野。
今やビオラが戦場に咲かせた照明魔法も、淡い輝きを残すだけになった。
誠司は力なく座って、娘を抱きしめた。
「……ライラ……」
「……お父さん……」
全てが、失われた。
誠司は思う。この戦いに勝ち、何を得たのだろうと。
(……家族を失い、友を失い……私に残されたのは……)
私には、もはやライラしか残されていない。
愛する妻は、もういない。
変に意地っ張りな押しかけ娘も、もういない。
ライラは私の胸の中で、嗚咽を漏らしながら肩を揺らしている。
私はそっと、娘を抱きしめることしかできなかった。
「……私はね……世界なんて、どうでもよかったんだ。ただ、家族たちを、守りたかっただけなんだ……」
「……お父、さん……」
風が、吹く。勝者のいない、この戦場に。
こうして、ライラと私だけが残された物語は——
静かに、幕を閉じるのだった。
終章、完。
明日、明後日の更新をもちまして、本作は完結となります。
最後までお付き合いの程、よろしくお願いします。




