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ライラと『私』の物語【完結】  作者: GiGi
最終部 終章
628/642

ライラと私の物語 01 —奇跡—






 見上げれば、渦巻く『色彩』。



 破滅、破壊、終焉へと誘う、人智を超えた最後の芸術。



 この戦場に起こったそれは、すぐに収まりを見せた。



 だが、皆を『色彩』から守ったファウスティは——



 ——険しい表情を浮かべていた。






「……ドメーニカ……」


 『色彩』は防がれた。戦場全体に張られた、ファウスティの守りの力によって。


 しかし、依然として渦巻いている炎。グリムは彼の隣に立ち、苦しげに女神像を見上げる。


「……助かった、ファウスティ。大丈夫か?」


「……ああ。ドメーニカが『大厄災』の力を抑えつけてくれているからな。だが——」


 ファウスティは腕を下ろし、眉をしかめる。


「——千年前に起こった全力の『大厄災』を、俺は防ぎきることはできなかった。この手応え……もし断続的に起こるようなら、少し厳しいかもな」


「……そうか」


 グリムたちの周りには炎を防ぐ結界。更には『大厄災』を防ぐための大結界をファウスティは張っている。だが彼の弁を聞く限り、いつまでも防ぎ切れるという保証はない。


 時間との勝負だ。グリムは続けざまに指示を出す。


「メルコレディ、キミの氷の力がどこまで炎に対抗できるか、試してくれ。レザリア、キミはどこでもいい、女神像に矢を放て」


「うん!」


「承知いたしました」


 グリムの指示を受け、メルコレディは改めて氷の力を解放する。


 吹き荒ぶ、極寒の冷気。地面を覆い始める氷の足場。そこから氷柱が、次々と生えてくる。


 しかし——それは女神像の放つ渦巻く炎の前に、やがて溶けて消えていった。


 一方でレザリアは女神像に向けて矢を放つ。



 ——トスッ



 女神像には確かに矢が刺さった。その軽い金属で造られている矢は、やがて熱に溶けていくが——


 観測を終えたグリムは、情報を共有する。


「……レザリアの矢を見る限り、予測通り女神像は実体化を果たしている。そして氷の力は、ある程度は有効。炎の色と現象から推測するに、地表付近は1000℃未満といったところか……なあ、マルテディ。キミはこの炎を石英の壁で防いでいたが、その時の感触は?」


「あ、はい! なんとか、といった感じで……」


「石英の耐熱性は高い。しかし——」


 地表付近では赤々と燃え盛る炎。だが上に行くほどに輝きは増し、その中心——『赤い宝石』のある胸部は、白く眩しい閃光に包まれていた。


「——肝心の胸部は、2000℃近くになっていると推定される。石英ですら溶かされる温度だ。メルコレディの力や、ルーのブレス、氷の魔法でも、干渉することはできないだろうね」


「そんな……ねえ、グリム。何か手はないの?」


 リナの問い掛けに、グリムは顔を歪める。


 無論、現状では何も打てる手はない。


 ただ、グリムは見る。かつて『厄災』と呼ばれた、彼女たち二人を。


 メルコレディとマルテディ、この状況を覆すことができる可能性を持つのは、彼女たち二人だ。


 だが——それでも足りていない。


 彼女たちだけでは、グリムの導き出した作戦を実行するのは不可能だろう。


 グリムは、リナを真っ直ぐに見た。


「……莉奈……お願いがあるんだ」


「……なに、グリム。何でも言って」


 その真っ直ぐな視線を受けて——グリムは、自嘲気味に笑った。


「……願ってくれ、莉奈。この状況を『何とかしたい』と。元AIとしては失格だが……神頼み、いや、『運命』頼みだ」







 熱波は、渦巻き続けていた。


 眼下で広がる炎を高台から見ながら、誠司はグリムに話しかけた。


「……グリム君……莉奈たちは、本当に無事なんだろうな……?」


 重傷を負ったセレスは、眠りについている。傍らには彼女を見守るマッケマッケと、回復魔法を唱え続けているライラ。


 その様子を見ていた高台のグリムは、女神像に視線を移して答えた。


「ああ。メルコレディが冷気を供給してくれているからね。そうでなければ私たちは、今頃蒸し焼きだ」


「……打つ手は……ないのかね?」


 グリムは目を伏せ、息を吐く。


「残念ながら、ね。今の私たちに、打てる手はない。誠司も奇跡が起きるよう、祈ってくれ」


「……奇跡だと?……なあ、グリム君……」


 誠司は肩を震わせ、拳を握りしめた。


「……君が最善を尽くしたのは分かる。この戦い、君がいなければ天使像の撃破まで、とてもではないが辿り着けなかっただろう……だがな、諦めてどうする」


 誠司は眼鏡の奥で、まぶたを震わせた。


「……たくさんの者が死んでいったんだぞ……? 今だって……私の家族たちが死に瀕している……なあ、お願いだから、何とかしようとしてくれよ……」


「ああ。だから私は、奇跡を本気で願っている」


 あまりにも平坦なその物言いに——誠司はグリムの胸ぐらをつかんだ。


「……すまない、グリム君。この戦いが終わったら……本気で一発、殴らせてくれ……」


 震える拳を離して、誠司は肩を落とした。グリムは変わらず女神像を見据え、感情を込めずに答えた。


「もちろんだ。好きなだけ……なんなら、死ぬまで殴ってもらっても構わない」


 グリムは眺め続ける。熱波にさらされながら、奇跡を期待する、その空を——。







「ええい、青髪! ワシが分身体を動かす、それなら問題ないじゃろ!」


 ジョヴェディは苛立った様子でグリムに詰め寄った。


 このままここでこうしていても、未来はない。とにかく動かなければ——


 ——だがそのジョヴェディの言葉に、グリムは冷ややかに答えた。


「別に構わないよ。ただ、女神像を中途半端に刺激するのは得策ではないけどね」


「……ぬ……う……」


 先ほどからこの調子だ。グリムが『大厄災』を警戒しているのは分かる。しかし、このままだと座して死ぬのを待つだけではないのか。


 肩をいからすジョヴェディを横目に、ファウスティがグリムに声を掛けた。


「なあ、グリム。『運命』頼みと言っていたな。聞かせてくれ。その『運命』とは……奇跡とは、偶然を期待しているのか? それならそれは、戦いにおいて最も俺が軽蔑する行為だが……」


「——安心しろ、ファウスティ。私の期待している『運命』は、必然の積み重ねだ。オルレアンの乙女は滅びの『運命』さえ覆してみせた、そうだろう?」


 その言葉を受けたファウスティは——リナを見てフッと笑った。


「……そうだな。俺が今ここにいるのも、全ては『運命』による必然の結果なんだろう。なら、何かあるんだな?」


「え、えっ、なにっ?」


 話を振られたリナは、慌てた様子で反応する。無論、リナに何か考えがあるわけではない。


 でも——


「うん。私はグリムを、信じているから」


「はは。私も莉奈を信じているよ——」




 その時。ルーが、つぶやいた。




「…………来る…………」




 無言で皆は、ルーの方を見る。高台の端末と意識を共有しているグリムは、その空を見て——



 ——高らかに、笑い出した。



「……ふふ……あはは……あーはっはっ、すごいぞ、莉奈!  想像以上だ! キミの紡いできた、絆の勝利だ!!」


「え、えっ、だからなに!?」


 グリムのそんな様子を初めて見たリナは、呆然とした。グリムは目を拭いながら、リナに告げた。


「見てみろ、莉奈。北の空を」


「…………あっ!!」


 グリムに言われるがままに北の空へと意識を飛ばしたリナは、驚愕する。




 そこに在るのは、圧倒的な『氷の暴力』——




 ——数多の氷竜を従え、氷の息を漏らす女王竜が、悠々と翼を広げていた。





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― 新着の感想 ―
数の暴力で冷やすんだよォ〜 これで誠司が動ける状況を作らないとね 得物をリナに持ってかれたから代わりの小太刀で頑張ってもらおう …ここまでライラの影がちょっと薄いけど アンカーの影響受けてたみたいに…
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