決戦[crescendo] 15 —最終形態—
「——マッケマッケ。セレス嬢を連れ、後方待機箇所へ。彼女の治療に当たってくれ。莉奈はエリスを連れ、先行して『炎』の戦場へ。マルテディ、私たちも行くぞ」
復活した通信魔法で手早く指示を出したグリムは駆け出した。
残すは新たに現れた『炎』の天使像と、本丸である『女神像』のみ。
そして、六体の天使像を倒したことにより、『女神像』は実体化しているはずだ。
(……さあ、あの強大な敵を、どうやって打ち崩すか……)
多くの命を失った。だが彼らのおかげで、エリスとジョヴェディ、メルコレディとマルテディという強力な手札を残したまま、ここまで辿り着けた。
魔素は、満ちた。ファウスティのおかげで防御面の不安も最小限になっている。現状で懸念すべきは、『炎の天使像』の進化といったところか。
「……ドメーニカ、耐えてくれ。あと、少しだけ——」
グリムのつぶやきは風に乗り、荒野を吹き抜けた。
†
——いまや極寒に包まれた、『炎』の戦場。
「——『空を飛ぶ魔法』」
ジョヴェディの言の葉が紡がれると、彼の身体は宙へと浮かび上がった。
「……クク……どうやら魔素は、充分に満ちたようじゃのう」
結界の外は、猛烈な吹雪。抗いの炎が燻るのが見えるが、天使像の動きが封じられているのは傍目にも明らかだった。
そう。『時止め』を彷彿とさせるメルコレディの力によって、天使像の時間の流れは完全に制御されていた。
エリスを連れ『空間跳躍』をしてきたリナが、ジョヴェディの隣に降り立つ。
「ただいま、ジョヴ爺。あとはアイツだけだよ」
その姿を見たジョヴェディは、頬を緩ませて鼻を鳴らした。
「フン。燕にエリスよ、無事で何よりじゃ。さて、青髪よ。やってもよいか?」
『——ああ、待つ理由もない。ジョヴェディとエリス、キミたち二人の魔法を合わせてまずは天使像を排除してくれ』
通信で返答を受けたジョヴェディとエリスは、目を合わせて頷いた。
「——承知。エリス、もう少し近づくぞい。ファウスティよ、前進してくれ」
「ああ、了解した」
ファウスティの守りの結界に包まれながら、その場にいる皆は前進を始めた。
長かった。
多くの犠牲を払いながら、ここまで辿り着いた。
『炎の天使像』は無力化、女神像の『大厄災』も、ファウスティの防御によって防ぐことができる。
ジョヴェディとエリスは、詠唱をしながら進み続ける。後退の動きを見せる『炎の天使像』。
ただ、天使像の後ろには『女神像』がそびえ立っている。どこにも逃げ場は、ない。
迫り来る敵を認め、天使像は歪に微笑み、炎の竜巻に乗って上空へと逃げようとした。
だが。
——トスッ
—— 斬
レザリアの一矢が、リナの斬撃が、天使像を地に落とす。
リナはレザリアの元へと跳躍した。
「ありがと、レザリア。待ってたよ」
「ふふ、どういたしまして。リナは私が、守りますゆえ」
地に落ちた天使像。二人の魔術師の言の葉は、紡ぎ終わっている。
ジョヴェディとエリスは、天使像へと杖を向けた。
「——『爆ぜる……』」
「——『空間を……』」
異変が、起きた。
地に落ちたはずの天使像の姿は、炎となって女神像に吸い込まれていった。
詠唱を止め、状況を見るジョヴェディとエリス。
直後——
——『女神像』の身体は、大きく燃え上がった。
†
高台の上からその様子を見る誠司は、呻く。
「……なんだ、あれは……」
突如として、『女神像』は炎に包まれた。
——いや、炎を纏った、といった表現の方が正確だろうか。
そして、眼下には戦場全体を覆う炎の渦。セレスの治療を始めようとしていたライラも、その光景を見て不安な声を漏らす。
「……お父さん……」
「……莉奈……エリス……」
終焉の炎は、渦巻き始めた。
†
ファウスティの守りの結界内。
マルテディとグリムを連れたリナが、ドサッと転がり込んだ。
「……ふう、間に合った……」
——異変を感じ取ったリナは、すぐに行動に移した。
まずはレザリアを結界内へと運び入れる。そして意識を飛ばし、石英の防御で炎を防いでいたマルテディとグリムを見つけ、ここへと連れてきたのだ。
リナは冷や汗を拭いながら意識を飛ばして、改めて状況を確認した。
「……うん、高台の上は無事。でも、戦場全体が炎に包まれている。グリム、どうする? 時間掛かるけど、みんなをあっちに移動させる?」
「……そうだね。『女神像』の近くに陣取っている今、メルコレディの力しだいでどちらが最善か判断する。少し待って——」
その時、
皆の脳裏に『女神像』の顔が映し出された。
「ファウスティ!」
「ああ!」
——直後、『色彩』が、戦場を覆い尽くす——
——『大厄災』だ。
第六章「決戦[crescendo]」完。
終章「ライラと私の物語」に続きます。




