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ライラと『私』の物語【年内完結】  作者: GiGi
最終部 第六章
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決戦[crescendo] 07 —友—







 ノクスは再び、前線へと駆け戻った。そして天使像に向かって大声を上げた。


「こらぁ、天使像! もうお前さんの好きにゃあさせねえ。この俺の大剣が、お前らのボス、女神像をぶった斬るからなあ!」


 天使像の微笑みが、消えた。地面から土の手が一斉に生えてきて、ノクスを狙う。


 挑発に乗った天使像を見て、ノクスは髭面を吊り上げる。そんな彼の様子を眺め、彗丈は怪訝な表情を浮かべた。


「……何を考えてる、『友人A』。死にたいのか?」


「……協力しろよ、『友人B』。俺が何とかする。隙ができたらさっきの再現、よろしく頼むぜ」


「……さっきの……再現……?」


「……ああ——」


 彗丈に手早く狙いを伝えたノクスは、天使像に向かって駆け出して行った。




 ノクスの大剣が、迫り来る土の手を次々と斬り落とす。だが、淡々と土の手を展開していく天使像の攻撃に——ノクスの身体は掴み取られた。


 握っていた大剣は、カランと地に落ちる。ノクスは圧迫される身体に力を入れて踏ん張り、天使像を見据えた。


「……言っとくがなあ……俺の身体は強靭だぜ? お前さんの『抱擁』に、耐えてみせっからよお……」


 土の手は、天使像の前にノクスを突き出した。天使像は両手を広げて、ノクスを迎え入れる。


(……サラ……すまねえな……)


 ノクスは自らの王に、心の中で謝罪をした。







「——わかったわ、ノクス。存分にあなたの力、奮ってきなさい」


 旅立ちの前、サランディアの避難場所。


 最後にサラ王との謁見をしたノクスは、彼女からの言葉を受け止める。


「おうよ。まあ俺がいなくても、サラ、お前さんがいてアレンやグリーシアもいる。この国は大丈夫だ。後のことは任せたぜ」


 ノクスはサラに背を向け、戦いに向かうために歩き始めた。その彼の背中に、サラの震える声が掛けられた。


「ノクス。言うまでもないけど……必ず生きて帰ってくること。いいわね?」


 彼の足は、止まった。その王の言葉にノクスは——無言で右手を上げ、再び歩き始めたのだった。







 天使像はノクスを抱擁する。触れた部分からジワジワと腐っていく彼の身体。ノクスは呻きながらも、筋肉を膨張させて耐えていた。


「……ほら、どうした……手こずっているようだな……」


 天使像は一瞬、表情をなくしたが——次の瞬間には微笑みを浮かべ、ノクスを抱く腕に力を込めた。


 ズブズブと彼の身体が腐り落ちていく。



 だが。



 その音に混じり、別の音が聴こえてきた。



 ズブリ



「……なあ、お前さんは痛みを感じるのかなあ……いつまでその、薄ら笑いを続けてられるのかなあ……」



 ズブ、ズブ……



 ノクス自慢の筋肉は、見るも無惨に腐り落ちていっている。しかし彼の膂力は、それすらをも凌駕し彼の腕を動かしていた。


 天使像の叫び声が、響き始める。


『…………ァァァ……アアアッッッ…………!』


「……うるせえなあ……ほれ、終わりだ」


 ノクスは一気に、小さな刃を振り上げた。天使像の肉体に奥深くまで刺さっていたソレは、天使像を両断した。


「……対リナちゃん用の投げナイフだ……リナちゃんには、内緒な……」


 呻き叫ぶ天使像。再生能力は、完全には復活していない。


 それでもなお、傷口を結合しつつある天使像を——足場を渡ってきた人影が抱きかかえた。


「油断したな、天使像。今度こそ幕引きの時間だ」


「……ケイジョウ……あとは、頼んだ、ぜ……」


「……ああ、ノクスウェル。あとは僕に任せろ」


 そう言い残して彗丈は、天使像を抱えたまま、エリスたちの方へと大きく跳躍した——。




 残されたノクスは、土の足場から落ちていく。



(……ミラ……アナ……愛してる……ぜ……)



 彼は残してきた妻と娘に別れを告げ、地へと還っていった——。








 彗丈が天使像を抱えて飛んでくる。


 言の葉を紡ぎ終えたエリスは、真っ直ぐに杖を構えた。その隣では、マルテディが並び立ち手を上空へと向けている。


「……マルティ、合わせるよ」


「……はい」


 彼女たちの背後では、その命を終え魔素に還っているヴァナルガンドの姿があった。



 ——魔物はその命尽きる時、肉体は魔素へと還ってゆく——



 彗丈は天使像をしっかりと抱え、放物線を描きながら目前まで迫ってきていた。彼はエリスの目を真っ直ぐに見て叫んだ。


「いけ、エリスさん!」


 魔力が高まる。ヴァナルガンドの魔素が収束していく。


 ヴァナルガンドの命を受け取ったエリスは、今、彼の想いと魔素を、魔法へと乗せて解き放った。



「——『空間を削る魔法』!!」



 ——削り取る、削り取る、削り取る——



 天使像を中心に巻き起こる、断裂の空刃。


 更にはその魔法に合わせて、マルテディの砂嵐が乗せられる。


 擬似的なサンドブラスト——。


 砂の粒子を乗せたエリスの空間魔法は、天使像と彗丈の肉体を容赦なく削り取っていく。



『…………ァァァアアアァァァアアアーーッッッッ!』



 飛び散る肉片すら、一片も残さず擦り切っていく。天使像の断末魔が、響き渡る。



 そして——



 『土の天使像』は完全に消滅し、ヘザー人形の骨組みだけがカランと地に落ち、バラバラになった。




 戦場に、静けさが、戻る。




 ——『土の天使像』、数多の犠牲の果てに、撃破。




 激闘を終えたエリスは目を伏せ、戦場に背を向けた。



「……急ぐよ、マルティ。『砂』の戦場に」


「……うん……いま行くから、メル……」



 死者を悼む時間さえ、許されない。


 生き残った二人は、次の戦場へと走り始めた。





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― 新着の感想 ―
難敵だったなあ「土」、何人死んだ? あと3体…
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