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ライラと『私』の物語【年内完結】  作者: GiGi
最終部 第六章
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決戦[crescendo] 06 —腐敗の抱擁—






 ——『土』の戦場。




 彗丈の腕の中で微笑む『土』の天使像。同時に起こり始める、地響き。


 そして突如、彗丈の乗っている石英の足場が、割れた。


「……くっ!」


 体勢を崩しながらも、足場を蹴り避難する彗丈。その一瞬の隙をつき、天使像は彗丈の束縛から逃れた。


「……ちっ」


 天使像は土の柱に乗り、両手を広げて厳かに微笑んでいた。ジュリアマリアが冷や汗を流しながら呻き声をあげる。


「……この先、『嫌な予感』しかしないっす。どこへ逃れても……」


 突然、彼女の足元の石英の床を突き破って土柱が噴き上げた。倒れるジュリアマリア。土柱は手の形を作り、倒れ込んでいる彼女を掴み取り——


「……くそっ、だらあっ!」


 ——ノクスの大剣が、ジュリアマリアを掴んだ土の手を斬り落とした。マルテディが割れた石英の足場を補修する。だが、次から次へと石英の足場は割れ、無数の土の手がジュリアマリアを襲う。


 彼女は天性の直感でその攻撃をかわしながら、叫んだ。


「腐敗はなし! 完全にウチ狙い! なんとか引きつけるんで、その間に!」


 この戦い、天使像の思惑は彼女が崩してきた。彼女の持つ特別な能力『嫌な予感』。事前に危険を察知し、仲間が致命的な状況に陥ることを、彼女は幾度となく防いできた。


 天使像にとって、今、一番の脅威は。物理的な力を持つ彗丈やノクス、魔法の使えなくなったエリス、足場を作ることしかできないマルテディ、沈黙を続けるヴァナルガンドなどではない。


 ジュリアマリア——彼女が真っ先に排除すべき障害として、認定された。


「ジュリ!」


 エリスは叫び、彼女の元へと向かう。それを見たジュリアマリアは、手を広げて止めた。


 彼女は何とか猛攻をかわしながら、エリスに声を届ける。


「……エリスさん。恐らくヤツの『腐敗』は魔素使用っす。もしウチが腐り始めたら……それは大気中の『魔素』が供給されたってことなんで……あなたはその時のために控えて欲しいっす」


「……ジュリ……」


 土飛沫はジュリアマリアに掛かっていた。しかし、新たな『腐敗』の兆候は見られない。それを横目で見た彗丈は、戦鎚を振り上げて天使像に飛びかかった。


「……調子に乗るなよ……端役がぁっ!」


 彗丈の攻撃を、天使像は土壁を張り防いだ。崩れた土壁は意思を持ったかのように彗丈の周囲を包み——彼を土の球体へと閉じ込めようとする。


 それを空中で戦鎚を続けざまに振り、破壊する彗丈。一方でノクスは、大剣を構えながらジュリアマリアへと駆け寄る。


「ジュリ、いま助けるからなっ!」


「……ノクスさん。ウチよりも、天使像を」


「馬鹿やろう! 放っとけるかよっ!」


 腐敗なき今、ノクスは鬼人の如く大剣を振り続けて土の手を破壊していく。マルテディは崩れた足場をすぐに塞ぐ。



 だが——



 ついに一本の土の手が、ジュリアマリアを捕らえた。



「……ぐっ!」


「ジュリ!」


 ノクスは駆け寄り、土の手を斬り裂く。しかし土の手はジュリアマリアを離すことなく、天使像の元へと移動を開始した。


 彗丈は飛び、土の手に向かって戦鎚を振り下ろした。


「……させるかよ」


 爆砕。辺りに飛び散る土飛沫。


 しかしその土の手は——



 ——彗丈に破壊されるよりも前に、ジュリアマリアを天使像へと投げていた。



 両手を広げてジュリアマリアを受け止める天使像。その抱擁を受けたジュリアマリアの身体は、やがて腐敗し、呆気なく崩れ落ちていった。


 腐り落ちたジュリアマリアを解放し、天使像は微笑みを浮かべる。茫然とその様子を見る、戦場にいる者たち。ノクスの隣に降り立った彗丈が、忌々しい目つきで声を漏らした。


「……直接触れれば魔素が枯渇していようが関係ない、か。奴は一人ずつ確実に排除しようとしているみたいだね。悪趣味だな、僕以上に」


「……エリスさんたちが危ねえ。俺は戻る」


「……フン」


 彗丈は戦鎚を構え、再び天使像に向かって駆け出した。








(……ジュリ……)


 エリスは杖を構えて、その光景を見ていた。ジュリアマリアの狙っていた『魔素の復活』。それを待たずして、彼女は散ってしまった。


 マルテディがエリスを守るように立ち、辺りを警戒する。ノクスが戻ってきて、大剣を握りしめる。


 天使像は彗丈の相手をしながら、変わらず、微笑みながらこちらを見ていた。まるで、次の獲物を選別するかのように。


 その様子を唇を噛み締めながら見るエリスの背後から、声が聞こえてきた。


「……魔素が切れたのか、エリスよ……」


「……ヴァナルガンド……」


 エリスが振り返ると、石英の床に横たわっているヴァナルガンドは弱々しく目を開けていた。ところどころが腐敗している彼の身体。それでもゆっくりと顔を上げ、ヴァナルガンドはエリスに告げた。



「……我は、もう駄目だ。だから、我の身体を使え、エリスよ……セイジに、よろしくな……」





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