表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ライラと『私』の物語【年内完結】  作者: GiGi
最終部 第六章
616/623

決戦[crescendo] 04 —枯渇—







 無慈悲にも訪れた、大気中の『魔素切れ』。



 それは各所でも、同時に起きていた。







 ——『砂』の戦場。



「……ぐっ……!」


 ポラナの足が、もつれて転ぶ。


 天使像の注意を一身に引きつけているポラナ。自らの出血で身を紅く染めている彼女の体力の消耗は、激しかった。


 アルフレードの『祝福』とクラリスの『歌』がなければ、彼女は二度と立ち上がることは叶わなかっただろう。


 近づく天使像の分身体に向かって、マッケマッケの魔法が飛ぶ。



「——『旋風の刃の魔法』!」



 これで幾度目だろう。彼女、マッケマッケのサポートにより、その場にいる皆の命が救われるのは。


 彼女は突出した、いわゆる『超上級魔法』と呼ばれるような魔法は扱えない。だが、戦場を冷静に観察している彼女は、自分の引き出しを全開に開けて、ピンポイントで必要とされる魔法を放ち続けている。



 ——自称、『魔法の量販店』マッケマッケ。サポートこそが彼女の真価。



 彼女は観察する、次なる天使像の動きを。



 が、その時。突然、『砂の天使像』の分身体の姿が掻き消えた。


「……なっ」


 呻き声を漏らしたのも束の間、彼女は氷の足場を駆けながら冷静に言の葉を紡いだ。


「——『暗き刃の魔法』……」


 詠唱最短を誇るその攻撃魔法が完成することは、なかった。彼女の中で、一つの仮説が成り立った。


(……再三、グリムさんが言っていた『魔素切れ』……それが本当に、起こってしまったみたいですね……)


 恐らく、天使像の分身体も『魔素』が関係していたのだろう。魔法でのサポートはできなくなったが、分身体も消えた今、考えようによってはここ『砂』の戦場では有利に働く可能性が——



 ——一瞬にして、『砂の天使像』は姿を消した。直後、背後から悲鳴が上がる。



「……きゃっ!」



 マッケマッケが振り向くと——そこには砂場から伸びてきた手に、左足を掴まれているメルコレディの姿があった。


 みるみる内に干からびていくメルコレディの左足。彼女は自身の足を凍らせ、砕き、その場を逃れた。


「……メルさん!」


 彼女は氷の足を作り上げ、立ち上がり、皆がいる足場を広げた。警戒する一同。



 ——速い。ジョヴェディの『時止め』から解放された天使像は、こんなにも速いものなのか。



 足場の外、周囲には流砂が渦巻いている。次に奴が使ってくる一手は、果たして——



 その時、一段と強い砂嵐が吹いた。


(……グリムさんへの通信は……途切れている、か)


 魔素切れによる、通信障害。額に汗を流しながら、ゴーグル越しにマッケマッケが戦場を観察していると——



 ——砂嵐に紛れ、セレスの背後に影が浮かび上がってきた。



「……セレス様、避けてぇっ!」


「……えっ?」


 セレスが振り返った時にはもう、天使像はセレスの右肩を掴んでいた。


 干からびていく、彼女の肩。セレスは振りほどこうとするが、天使像はしっかりとセレスの肩を掴んで離さない。


 やがて、抱擁を——



「……セレス様、失礼」



 ——マッケマッケは駆けながら、自身の杖を抜き放った。



 杖に覆われていた白刃が露わになる。彼女の隠し玉、護身用の仕込み杖。その煌めく刃の軌跡は——躊躇なく、セレスの右肩を斬り落とした。


 飛び散る鮮血。マッケマッケはセレスを庇うように立ち塞がり、返す刃で天使像を斬り払った。


 再生をしながら砂嵐にまぎれて、再び消える天使像の姿。


 マッケマッケは注意を怠らず、セレスに回復薬を振りかけた。


「……お許しください、セレス様。お叱りはあとで、いくらでも受けますので」


「……いいえ、マッケマッケ……助かった……わ……」


 苦悶の表情を浮かべながら、セレスは右肩を押さえてしゃがみ込んでいた。乾燥の影響からか、かろうじて出血は止まったみたいだが——『再生阻害』。アルフレードの『祝福』があるとはいえ、セレスの戦線復帰は厳しいだろう。


(……ポラナさんは左手消失に加え満身創痍、メルさんは左足消失、そしてセレス様は……無事なのは、魔法の使えなくなった役立たずのあーしだけですか……)


 マッケマッケは絶望の中、抗う盾となることを決意した。







 ——『氷』の戦場。



「——『闇深き鋭刃の魔法』!」


 ハウメアの魔法を氷の障壁で防ぐ天使像。だがその魔法によって削られた氷壁から姿を現した天使像は、全身を切り裂かれドス黒い血を流していた。


『…………ァァァアアアァァァ…………』


 嘆きにも似た叫び声を上げながら、天使像は身悶える。


「……ちっ。あと一歩足りなかったか……」


 決着を狙って放たれたハウメアの魔法だったが、消滅には至っていない。ハウメアは畳みかけるように次の言の葉を紡ぎ始める。


 よろめいている天使像は身体を再生させながら、片腕をハウメアへと向けた。


「ハウメア、下がって!」


 言の葉を紡ぎ終えたナマカが、ハウメアを守るように前に立った。天使像の周りに氷柱が浮かび上がる。それを防がんと、ナマカの魔法は解き放たれた。



「——『大水海の障壁魔法』!」



 氷柱が飛んでくる。ナマカの水魔法最強の障壁魔法は——



 ——張られることは、なかった。



「……なっ……」



 ハウメアは、絶句する。



 目の前には、氷柱に貫かれたナマカの姿。



 ——『魔素切れ』。



 血を噴きながら倒れゆくナマカを見ながら、ハウメアの脳裏にその言葉が浮かび上がった。


「……そ、んな」


 ナマカはアルフレードと『えん』を結んでいない。致命傷、イコール、死。


 当たり前の自然の摂理。吹雪の中、その光景が、まるでスローモーションのように流れていった。



「……ナマカ!」


 ヒイアカの叫び声が響く。ハウメアが茫然としながらヒイアカに目をやると——



 ——次の瞬間、彼女の首が、氷の刃によって地に転がり落ちた。


 見ると、天使像は片手を横に広げて微笑んでいた。


 魔素切れ。時止めからの解放。勝利の微笑み。


 一瞬にして訪れた惨状に、ハウメアの頭の中が空白になる。


 天使像は改めてハウメアに手を向ける。



 ——敗北



 虚ろな視線で天使像を眺めながら、その二文字だけがハウメアの脳裏を埋め尽くした、



 その時だった。



 嬉々とした笑みを浮かべる天使像は、瞬時にして『影』に束縛された。


 ハウメアは見る。暴れる天使像に手を向け、影を伸ばし、しっかりと抑えつけている彼女の姿を。



「…………ずいぶんと……好き勝手……やってくれるわね……」



 頭を押さえ、ふらつきながらも赤い双眸でしっかりと天使像を睨む、影の使い手——



 ——ルネディだ。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
増え続ける犠牲者 チーム厄災だけが頼りになってしまった…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ