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ライラと『私』の物語【年内完結】  作者: GiGi
最終部 第六章
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決戦[crescendo] 03 —予感—






 ——『砂』の戦場。




 その地で『砂の天使像』の本体を特定するために観測を続けているグリムの端末は、先ほどのことについて考えていた。


(……莉奈を攻撃した『砂の天使像』の分身体は、砂嵐に乗っていた。つまり、分身体も『砂嵐』を操れるということだ。この今やっている本体の炙り出し方法も、いつまで通用するか分からないな……)


 砂嵐の中心部を探り、本体の位置を特定する。


 現状、その作戦は上手く嵌まっている。メルコレディの作り続ける氷を足掛かりに放たれる、セレスの銃弾、マッケマッケの魔法。それらが次々と現れる天使像を掻き消していく。


 その中で、要として奮闘しているのがポラナ。彼女の活躍は目覚ましいものがある。サンドブラストを避け、かわしながら、天使像本体にピンポイントで攻撃を加え続けている。


 その身を紅く染めながら駆け続ける彼女。隙を見てセレスから受け取った回復薬を掛けてはいるが、『再生阻害』、それのせいで完全に傷が塞がることはない。


 ただその天使像本体も、斬られることはよしとしても、セレスたちの魔法は絶対に喰らわないように狡猾に動いていた。魔法が放たれた瞬間、砂の中に潜ってしまうのだ。



 ——とにかく、やりづらい。



 狡猾さを見せる天使像相手に、『魔素切れ』の不安はあるとはいえ、今はただ、耐えるしかない。


 地中に潜る相手に有効なのは、エリスの『空間を削る魔法』。


(……はは。誠司、すまないね。キミの妻には、まだまだ頑張ってもらう必要がありそうだ)


 『土』の戦場さえ片付けることができれば、『砂』、『炎』、ひいては『氷』の戦場にも人員を割り振ることができる。


(……頼んだぞ、エリス)


 グリムは『土』の戦場に配置している端末と、意識を共有する——。






 ——『土』の戦場。



「そおら、どうした!」


 飛び上がり振り下ろされた彗丈の戦鎚が、地中に潜った天使像を地面ごと粉砕する。


『……ゥゥゥ……ァァッ……!』


 天使像は呻きながら、ひしゃげた身体を再生させ浮上してくる。


 彗丈の足元の地面がぬかるむ。だがそれよりも早く、彗丈はマルテディの作り上げた石英の足場へと飛び乗った。


 地面から土が、手の形を作り上げ這い上がってくる。それをつまらなさそうに一蹴した彗丈は、肩をすくめた。


「……ほんと、やんなっちゃうねえ。もぐら叩きをしにきたわけじゃないんだけど」



 ——圧倒。



 身軽に動ける機動力と戦鎚を易々と振るう破壊力、そして何より『無機物』で構成され腐敗の心配のないヘザー人形は、『土の天使像』にとってまさに天敵とも呼べる存在だった。


 だが、いくら完全に天使像を翻弄しているとは言っても、物理的な攻撃だけではその先がない。


 彗丈の度重なる攻撃により天使像の再生能力を奪いつつはあるが、消滅させるには一気に粉微塵にする手段が必要だ。


 ノクスは彗丈が天使像を引きつけている間に、腐敗した身体の応急手当てを行っている。ヴァナルガンドは身体中が腐敗しており、今はピクリとも動かない。魔素には還っていないから、かろうじて生きてはいるのだろうが——。


 未だ怪我らしい怪我を負ってないジュリアマリアは、戦場を注視し、異変を感じ取ることに神経を集中させている。


 そして今、その彼女の心は——ジワジワと迫り来る『嫌な予感』を感じ取っていた。


(……この戦場……? では、ないっすね。何か、こう、もっと戦局全体を揺るがしそうな『嫌な予感』が……)


 それは、女神像の放つ『大厄災』だろうか。いや、先ほどの『大厄災』発生の時に『嫌な予感』はしなかった。結果、ファウスティの守りの結界で防がれて無事だったので、彼女が『嫌な予感』を感じなかったのは正しいと言える。


 なら、もしかすると、今、懸念すべきなのは——



「——お待たせ!」



 ジュリアマリアの思考を遮るかのように、後ろから声が聞こえてきた。ジュリアマリアは振り返り、顔を綻ばせる。


「エリスさん!」


「待たせちゃったね、ジュリ、ノクス……そして、ヴァナルガンド……」


 エリスは沈黙しながら地に伏せる神狼を見て、そっと目を伏せた。そして戦場に向き直る。


「……さて、ケイジョウさんが頑張ってくれてるんだってね。じゃあ、さっそく行ってくるよ」


「……待ってくださいっす、エリスさん」


 ジュリアマリアはエリスの腕をつかみ、引き止めた。そして、自身が感じている『嫌な予感』を告げる。


「——ということっす。ウチの予感が正しければ、もうすぐ……」


「なら、なおさら急がないとだね。ジュリ、みんなをよろしくね!」


「……エリスさん……」


 ジュリアマリアは駆け出していくエリスの背中を、見送ることしかできなかった。





「……エリスさん!」


 神経を集中させながら足場を作るマルテディは、その姿を見て安堵の表情を浮かべる。


 『西の魔女』、『白き魔人』、『救国の英雄』——様々な異称を持つエリスは、今、石英の足場に降り立った。


「ケイジョウさん、ありがと。私に『毒を無くす魔法』は掛かってるから、気にせずに思いっきりやっちゃって」


「フン。せっかく身体も無事に戻ったのに、僕としては君に危険を冒して欲しくないんだけどね」


 天使像を粉砕した彗丈はエリスの隣の足場に飛び乗り、戦鎚を肩に担ぐ。その姿を見てエリスは、ふふと笑った。


「……何がおかしい?」


「ううん。今の私と前の私の身体、こうして並び立っているのは不思議な感じがするなあって」


「ずいぶんと余裕だね」


 彗丈は飛び上がり、土の障壁を張った天使像を障壁ごと打ち砕く。少し離れた足場に乗った彗丈に、エリスは声を掛けた。


「ケイジョウさん、なんとか足止めして。私の特大の魔法、いくから」


「……土に潜るからな、ヤツは。そうだね、こういうのはどうかい?」


 そう言うなり彗丈は再び飛び上がって、再生途中の天使像を抱きかかえた。


 もがく天使像を抱きしめたまま、彗丈は別の足場に飛び乗る。


「僕の人形ごとやれ、エリスさん。馴染んできたところ勿体ないけど、ハッピーエンドのためだ、惜しくはないさ」


「……ケイジョウさん……」


「早く」


 エリスは頷き、言の葉を紡ぎ始めた。もがく天使像をしっかりと抱きしめ、彗丈は目を細める。


「……まあ、僕の人形が活躍できるのはここぐらいだろうからね。さあ、暴れるんじゃない。閉幕の時間だ」


 天使像は彗丈の腕の中で、もがき、暴れ、土の力を行使しようとする。


 だが。マルテディは彗丈の周囲の地面を完全に石英で抑え込んだ。


『……ゥ……ゥ……ァァ…………!』


 ヘザー人形の怪力に、潰されては再生を繰り返す天使像。彗丈は分断だけはしないよう注意しながら、エリスを見て頷いた。


 それを受け、頷き返すエリス。



 そして、言の葉は、紡がれた。




「——『空間を削る魔法』!」




 これで終わる、はずだった。






 ——静寂。何も、起こらない。






 いち早く状況を察知したエリス本人が、茫然としながら、ようやく呻き声を上げた。




「……魔素……切れ……?」




 天使像は彗丈の腕の中で、満面の『微笑み』を浮かべた。





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― 新着の感想 ―
魔素売り切れちゃいました? そこになければないですね〜
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