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ライラと『私』の物語【年内完結】  作者: GiGi
最終部 第五章
612/623

決戦[development] 16 —,hello—







「……馬鹿な……『砂の天使像』だと……?」


 グリムは呻く。莉奈がおこなった、再三による『赤い宝石』への接近。考えられる結論は、一つ。



 ——『砂の天使像』は、『女神像』にたびたび接近する者を落とすために、分身体をこの場に寄越していた——



 グリムは駆け出した。地に落ちた莉奈は、今はアオカゲの背に乗せられてこちらに駆け向かってきている。


 その背後から迫りくる天使像。砂嵐に乗り、その風に乗って手を向け、アオカゲと莉奈の方に手を——



「……ヒヒーン!」



 ——発射されたサンドブラストを、アオカゲは両方の後脚を跳ね上げて受け止めた。


 その背に乗せている莉奈を、庇うかのように。


 アオカゲの後ろ半身が、削れていく。それでもアオカゲは、莉奈を落とさないようにヨロヨロと前脚だけで前に進んでいた。


 天使像が、迫り来る。発射されるサンドブラスト。


 だが、アオカゲは——莉奈を背中からずりおろし、横向きで攻撃をその身で受け止めた。


「——アオカゲーーッ!」


 グリムは名を呼びながら走る。傷つきながらも莉奈を守り切ろうとする強い意志。無表情で手を向ける天使像。


 アオカゲは、もはや物言わぬ存在となって莉奈を守るように座っていた。だが、そのアオカゲの最後の抵抗は——


 ——彼を、間に合わせた。



「——『光弾の魔法』」



 空を飛び駆けつけたジョヴェディ本体の魔法が、天使像を穿つ。かき消えていく『砂の天使像』の分身体。


 ジョヴェディは無言で、地表近くまで降りてきた。


「……ジョヴェディ……」


 駆けつけたグリムに、ジョヴェディは鼻を鳴らす。


「……ほれ、燕を連れて行け。まだ息はあるじゃろ」


「……すまない、わかった」


 ジョヴェディは無言で、莉奈を庇い散っていった二頭の馬に目をやる。


 そして彼は、『赤い宝石』を見上げてつぶやいた。



「……なんで、どいつもこいつも……簡単に命を投げ出してしまうんじゃ……」



 ジョヴェディはこの後現れるであろう『敵』に備えて、精神を集中させた——。







「——誠司、ライラ、戻ってきてくれ。莉奈が意識を失っている」


 手早く通信を入れたグリムは地表の待機場所へと莉奈を連れて戻り、地面に寝かせた。その元にエリスが駆け寄ってくる。


「グリム、リナは!?」


「……外見上、問題は見られないが……こめかみを強く打ちつけているようだ。彼女の世話は誠司とライラに任せる。エリス、キミは控えていてくれ」


「……どこかの戦場に行かなくていいの……?」


「ああ。事情があって、少し様子見を——」


『——きたぞい、青髪』


 ジョヴェディから、通信が入った。グリムが苦しそうな表情で『赤い宝石』の方に目を向ける。


 そこには——



 ——空中から炎の竜巻に乗り、ゆっくりと降りてくる、一体の天使像の姿があった。



「……えっ、グリム、なに、あれ……」


 エリスの問いかけに、グリムは立ち上がって答えた。


「……『オペレーション・F』は、()()失敗に終わった。奴が、先ほど言った七体目の天使像……『炎の天使像』だ。エリス。ジョヴェディと協力して、なんとか奴を食い止めてくれ……」







 グリムをただ、底知れぬ無力感だけが襲う。


 次々と失われていく命。それでも、最初の三体の天使像の撃破までは、目的に向かって進んではいた。グリムの思惑を超えて。


 だが、それ以降、進化する敵を前に対応は後手に回っている。魔素切れも心配だ。切り札である『オペレーション・F』も失敗に終わった。新たな天使像も呼び込んでしまった。


 そして更に、この状況を一瞬で終わらせる可能性のある、一つの懸念——それがまさに今、起ころうとしていた。





 ——そう、『大厄災』はいつだって、突然やってくる。








 突如として、この戦場にいる全員の脳裏に、『女神像』の顔が映し出された。



「………………!!」



 『大厄災』の前触れだ。本来、それが起こるまでに決着、あるいは、『厄災』たちを固めて配置する必要があった。


 だが、現状では防ぎようがない。恐らくは持続時間の短い小規模の『大厄災』だろうが——この場の皆の命を刈り取るには、充分過ぎるだろう。


 それでも皆は、最後の瞬間まで自分の役割をこなすと心に決めている。



 メルコレディが氷を張る。


 マルテディが砂の障壁で辺りを包む。


 ジョヴェディが土壁を作り上げる。




 ——だが『女神像』は無慈悲に、その顔に『微笑み』を浮かべた——








 色彩が戦場に渦巻く。反射的に土壁を張ったジョヴェディだったが、『大厄災』の前では彼一人の障壁など簡単に崩されてしまうだろう。


 地面から振動が伝わってくる。一度目の『大厄災』と同じ感触。



 しかし——その後に訪れるはずの衝撃は、襲ってはこなかった。



「……ぬう?」



 ジョヴェディは慎重に障壁を解除する。天には渦巻く『色彩』。しかしそれは、まるで何かに守られているかのように、こちらまで届くことはなかった。



 気づくと、彼の視線の先には、大地を踏みしめ、片手をかかげている男がいた。



 その男は、つぶやく。



「……カルデネに、アカシア……か。すまない、俺なんて、救われる価値のない男だというのに……」



「……お主は……」



 ジョヴェディの呼びかけに、軍服をまとっている男性は振り返らずに答えた。



「……君は『木曜の子(ジョヴェディ)』だな。グリムから記憶はある程度引き継いでいる。なあ、お願いがあるんだ」



 その男は、地面に残されたグリムの短刀を手にとり、自身の指先を傷つけた。そして目の下に、一本の赤い線を引いた。



 ——まるで、血の涙を流しているかのように。



 精悍な顔つきをした男性は、ジョヴェディに振り返った。




「——俺が皆を『大厄災』から守る。だから、頼む……どうか彼女を……ドメーニカの『魂』を、楽にしてやってくれ」




 ——千年前の因果を持つ男性、イタリアからの『転移者』、軍人ファウスティ。



 彼の望んだ姿は、『前線に立つ自分』。



 彼は、彼の物語に終止符を打つために、あの時守れなかった少女を今度こそ救うために——




 ——今、戦場へと降り立った。







第五章 決戦[development] 完。


第六章 決戦[crescendo] に続きます。


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― 新着の感想 ―
え、これ詰んでない?からの ファウスううう……!(語彙力消失)
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