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ライラと『私』の物語【完結】  作者: GiGi
第五部 第四章
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眠れる氷の女王竜 06 —撤退戦—





「そんなあ!」


 私は悲痛な叫び声を漏らす。女王竜が起きちゃうだって? ダメだって、そんなの!


「リナ、行くよ!」


 半ば混乱する私に声をかけ、ライラは階段を駆け上り始めた。彼女は状況を把握しきれていないなりに、分かっているのだろう。今、自分がすべき事、しなくてはならない事を。


 その姿を見て思う。取り乱してしまった自分が恥ずかしい。私は冷静さを取り戻し、意識を女王竜の方へと飛ばした。


 そこには——グリムの言う通り、振動に反応して身じろぎする女王竜の姿があった。私は身体を宙に少し浮かせ、グリムに確認する。


「グリム、崖の上にあなたはいる?」


「ああ、抜かりないよ」


 彼女は口角を上げ、答えた。なら大丈夫だ。私はマルティの手を取る。


「グリム、ここは任せるね。マルティ、壁を解除!」


「……はいっ!」


 私の言葉に返事をし、砂の壁を解除するマルティ。


 ここからは撤退戦だ。とりあえずの目標は、ライラが階段を上り切り、無事に崖の上までたどり着くこと。


 そして、宙を浮ける私とマルティがライラの安全を確保しつつ、私達も崖の上までたどり着くことだ。


 無事に逃げ切れたら、入り口をマルティの砂で塞いでしまえばいい。


 ライラは今、パタパタと階段を駆け上っていっている。女王竜もまだ完全に起きた様子はない。


 これならグリムが氷竜達を上手く引きつけてくれれば、問題はない——はずだった。


 


 

 私はライラに追いつき、並走する。マルティの飛び方はちょっと特殊で、ホバリングしながら空中を渡り歩く感じだ。階段の横の宙を、跳ねるようについてきている。


 もう、階段も中ほどまで来た。これなら——。



「——莉奈!」



 階下からグリムの声が聞こえた。私は嫌な予感がし、視界を俯瞰ふかん視点へと移す。そこには——。


「ライラ、伏せて!」


 私は叫び、ライラを抱きしめ身体を倒す。直後、その真上を通り過ぎる氷竜。


「なんで……」


「リナ……」


 身体を起こし、呻き声を上げる私とライラ。私達の頭上を通り過ぎた氷竜は、悠々と翼をはためかせ、私達の行手を遮るように階段へと降り立つ。



 ——そう。まるで私達の目的が分かっているかのように。



 私はライラをかばう様に立ち、その一匹の氷竜と睨み合うのだった。







 グリムは歯噛みをする。


 三匹の氷竜を、皆が逃げ切るまで引きつける、そのはずだった。


 しかし、二匹の氷竜は砂の壁が解除された瞬間、グリムの挑発に乗ることなく真っ直ぐと崖の方へ飛び向かってしまったのだ。


 そして今——女王竜に乗っていた氷竜がその背から降り立ち、グリム隊の前に立ちはだかる。


 逆鱗は傷つけられない。それをしてしまうと、暴れて女王竜を完全に起こしてしまうかもしれないから。


「……さて、どうしたものかな」


 グリムは腕を斬り落とし、端末を増やしながら考える。


 階段も崖の上も、足場は狭い。地形上、こちらが不利だ。



 ——だから、この目の前の一匹は、絶対に逃せない。



 端末を増やしながらそのように考え込むグリムのことを、目の前の氷竜は興味深そうに眺めるのだった——。







 崖の上では、残されたグリムから状況を聞かされたハウメア達が、苦しい表情で戦況を見下ろしていた。


 助勢に行くか待機するか、判断に迷う場面。


 そんな中、レザリアが階段を駆け下りようと飛び出そうとする。その動きに気づいたクラリスが、彼女を羽交締めにして必死に止めた。


「離して下さい! 早く行かないと、リナが、リナがあっ!」


「危ないですって!『白い燕』さんを信じましょう!」


 ジタバタするレザリア、引きずられていくクラリス。


 そんな彼女達の元に、グリムは近づいて言った。


「レザリア。キミは莉奈を守りたい、そうなんだろう?」


 その言葉を聞き、動きを止めて力強く頷くレザリア。ホッとするクラリス。グリムはレザリアの肩に手を置く。


「なら、ここは待機だ。キミが莉奈を守る、最後の鍵となるのだからな」


「……私が……最後の鍵……?」


 神妙な顔をして尋ね返すレザリアに向かって、グリムは頷いてみせた。


「ああ。だからキミは集中していてくれ。私達で莉奈を、守るぞ」


「……はい……はいっ!」


 グリムの言葉を聞き、真剣な表情になって矢をつがえるレザリア。ちょろい。グリムは彼女に見えないよう、肩をすくめる。


 その様子を見たクラリスは、レザリアに聞こえないようにグリムに耳打ちをした。


「……扱いが上手いですね」


「……まあ、ね。予断を許さない状況だからな」


 そう言って戦況を見据えるグリムの視線には——こちらに向かって真っ直ぐに飛んでくる一匹の氷竜の姿が映っていたのだった。


 ハウメアが眉をしかめながら、杖を構える。


「さーて。わたしは氷竜にかろうじて有効とされる火属性の魔法は使えないんだ。どうしたもんかなー……」


「エンプレス・ハウメア。あなたは下がっていてくれ」


 前に出ようとするハウメアを手で遮り、クレーメンスが前に出る。


 そして彼は、魔剣を、抜いた。


「大丈夫ー? クレーメンス。氷竜は並の個体でも強いって聞くけど」


「ああ、安心してくれ。あなたは俺が守る。この魔剣に誓ってな」


 そう言って彼は魔剣の刀身を押さえ——詠唱を始めた。


 その行動を見たハウメアは、察する。


「まさか、クレーメンス。『魔剣』っていうのは……」


 ハウメアの言葉に応じることなく詠唱を続けるクレーメンス。そして言の葉は、紡がれた。



「——『火弾の魔法』」



 彼が魔法を唱えると、一瞬にして刀身が炎をまとった。燃え盛る赤。クレーメンスは目前まで迫り来る氷竜を見据えながら答えた。


「ああ。俺の剣は、魔法を宿し留めておくことが出来る、魔法の剣だ。面倒くさいので『魔剣』と呼んでいるがな」



 ハウメアは見る。無表情だったはずの彼の横顔を。


 今や目前に降り立った氷竜と対峙している、その赤い刀身に照らされた彼の表情は——



「……では、行くぞ!」



 ——笑みをたたえていた。



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