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ライラと『私』の物語【完結】  作者: GiGi
第五部 第三章
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『北の魔女』 08 —風は吹いているか—





「……ふう。なるほどな。君が他国のことで動かないのは、そういう思惑があったのか」


 誠司さんは腕を組み、深く息を吐く。ハウメアさんはゆっくり目を閉じて、静かに首を横に振った。


「いや、わたしが『動くのがめんどい』と思っているのは本当さー。それに、火竜襲撃の時は魔物の戦力を見誤ってしまった。彼女達がいなければ、この地方は最悪の結末を迎えていたかもしれない。ありがとねー、君たち」


 ハウメアさんは『厄災』達の方を見て微笑ほほえんだ。その視線を受け、ルネディは肩をすくめる。


「そ。まあ、もし感謝していると言うのなら、万年氷穴の件、力を貸してくれると嬉しいのだけれど」


「……万年……氷穴……?」


 その言葉を聞いたハウメアさんの顔が、一瞬にして強張った。そうだ、確かさっきヒイアカやナマカが言っていた。彼女は、『万年氷穴』のことを気にしていると——。


 そんなハウメアさんの様子を気にすることなく、誠司さんはクレーメンスさんに話を振る。


「ちょうどいい。待たせてしまったね、クレーメンス君。私の方の用事は済んだ。君の用件に移ろうか」


「うむ。聞いてくれ、エンプレス・ハウメア。俺が『万年氷穴』の調査で見たものを——」




 ——クレーメンスさんは語る。先ほど私たちに話した、『万年氷穴』で目撃した氷竜の特殊個体と思わしき存在のことを——。




 ハウメアさんは黙って聞き入る。そして、全てを聞いた彼女は静かに口を開いた。


「……わかった。わたしが行くよ」


「ハウメア!?」


 その返事に声を上げて驚くヒイアカ。ナマカも信じられないといった様子で、ハウメアさんの頭をポカポカ叩く。


「どうしたの、ハウメア! いつもは私たちに任せっぱなしなのに!」


「……痛い、痛い。なんで叩くの?」


 うん、確かに動きたくない人なんだろうけど、彼女らの反応を見るにそれは別に他国に限った話ではないらしい。ヒイアカが申し訳なさそうな顔で頭を下げる。


「……ごめん、みんな。調査段階でハウメアが動くなんて……もしかしたら天変地異の前触れかもしれない。ね、ナマカ……」


「……うん。ハウメアのせいで世界が滅んじゃうかも……。そうなったらみんな、ごめんね……」


「いやー、あなた達だいぶ失礼だねー。まあ……万年氷穴はわたしの故郷だ。様子は気になるでしょ。それに——」


 ハウメアさんはメルのことを優しく見つめる。


「——メルちゃん。あなたも付いて来てくれるんでしょ? なら、暑さ対策もばっちりだ」


「うん、もちろん!」


 メルは元気に応え、指をくるくる回した。彼女の頭に更に雪が降り積もる。


「おー、いいねー。ありがとー。そんな訳でクレーメンス、セイジ。わたしも行く。もし本当に『女王竜』だとしたら、一大事だからねー」


 肩をすくめ、飄々(ひょうひょう)と語るハウメアさん。未だ目を丸くしているヒイアカ達と同様に、誠司さんも驚いた調子で尋ねた。


「……本当にいいのかね、ハウメア……君が動くなんて……しかも、この暑さの中……」


「……あなたも、わたしを何だと思ってるのかなー?」


 ハウメアさんは息を吐き、誠司さんのことを呆れた目で眺めた。誠司さんは苦笑する。


「いや、助かるよ。ありがとう、ハウメア。それで、だ。どうだいクレーメンス君。ここにいる面子だけでどうにかなりそうかね?」


「そうだな。俺は皆の実力を知らないので、何とも言えないな……とりあえず現地に行って皆の判断を聞きたい」


 クレーメンスさんは話しながら、無表情で皆をぐりんと見回す。それを受け、ハウメアさんは手をひらひらとさせた。


「いーよー。ま、何はともあれ、まずは調査だねー。そこでわたしが大まかな方針を決定する。それでいーかな?」


「無論だ。この国を統治するあなたに決定権を委ねる。感謝する、エンプレス・ハウメア」


「おーけー、おーけー。んじゃ、明日にでも向かおうか。ヒイアカ、ナマカ、国のことよろしくねー」


 そう言って、にへらーと笑いながらハウメアさんは二人を見た。彼女達はため息をつく。


「ハウメア、ちゃんと日傘をさすんだよ?」


「うん。ハウメア、倒れてみんなに迷惑をかけないようにね?」


「……うー、気をつけるー」

 

 真剣な表情で語り合うハウメアさん達。子供か。話に区切りのついた所で、誠司さんが私達のもう一つの用件を口にする。


「では、詳細は後ですり合わせるとして……ハウメア、君に聞いておきたいことがある」


「んー? なんだい?」


 微笑むハウメアさんのことを、誠司さんは真剣な表情で見据えて問う。



「——この地に、風は吹いているか?」



 ——言うまでもない。風の『厄災』、ヴェネルディが出現していないかどうかの確認だ。


『厄災』は名付けられた名前の順に、当時それぞれが脅威を振り撒いた場所で復活してきている。


 次はここ、ブリクセン国だ。



 その質問で察したのか、ハウメアさんも真剣な表情で誠司さんを見つめ返した。


「……セイジ。今のところ、吹いてない。ただ……今までの『厄災』の出現タイミングから見るに、いつ現れてもおかしくないだろうね」


「……そうか」


 短く返事をし、目を瞑る誠司さん。そんな誠司さんに、ハウメアさんは微笑みかける。


「安心しなー。ヤツが出てきたら、わたしが動く。だからセイジ、もしヤツが『厄災』の力を振り撒いた場合……その時はあなたの力を貸して欲しい」


「ああ、任せろ——」




 ——この後、軽く打ち合わせを行い、私達の会談は終わった。


 魔法国、氷竜、『厄災』ヴェネルディ——警戒しなければならないことは沢山ある。


 でも、今までもなんとかなったし、みんなで力を合わせればなんとかなるでしょ——この時の私は、気楽にそう考えてしまっていたのだった。




 お読みいただきありがとうございます。


 これにて第三章完。次回より氷穴が舞台となる第四章が始まります。


 引き続きお楽しみいただけると幸いです。よろしくお願いします。


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