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ライラと『私』の物語【完結】  作者: GiGi
第四部 第五章
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序・対魔法攻略戦 08 —大剣砲台—








 次々と地面に積み上げられていく大剣。それを見ながら、グリムは彼に問う。


「大したものだな。無から有を生み出す力、何の制限もなしに使えるとは到底思えないが」


 その言葉にローブの男、エヌ・エーと呼ばれる人物はフッと息を吐いた。


「……相変わらず君は鋭いね、グリム。この力は、『変換魔法』に近しい性質を持っている。何かと引き換えに、僕は物を『作り』出せるのさ」


「何か、とは?」


「それに見合ったものなら何でもいい。そこで僕は、とあるささやかなものを差し出すことにした——」


 エヌ・エーは不敵に笑った。


「——それは『寿命』。僕は寿命と引き換えに物を作り出している。僕の体質なら、際限なく、いくらでも物を『作り』出せるのさ」






 激しい雷が莉奈目掛けてほとばしる。莉奈はそれを躱したものの、攻撃の余波で体勢を崩してしまった。


 そこを狙って、莉奈の周囲に浮かびあがる火球群。


(……きついなあ)


 その火球をなんとか避けつつ、莉奈は頭を振る——。


 戦闘の音を聞きつけ、ここには全力で飛んできた。そして本格的な戦闘開始以降、一瞬の気持ちの休まる間もないまま、最上級魔法を全力で躱し続けているのだ。



 ——莉奈に、疲労の色が見え始める——。



「……クックックッ……どうした? 動きが鈍くなってきておるぞい」


「……はは。全力を出すまでもない、からね」


「フン。ぬかせ」


 ジョヴェディが鼻を鳴らすのと同時に、周囲に魔力が満ち溢れていく。


 莉奈が周囲に気を配っていると——。


「……グオッ!」



 ——突然、何もない空間から悲鳴が上がった。



 見ると、そこには姿を現したジョヴェディが苦悶の表情で浮かんでおり——その胸には、大剣が突き刺さっていた。


「……グオッ!」


「……グヌッ!」


 次々と地上から放たれる大剣。それらは正確に、隠れたジョヴェディへと突き刺さっていく。


 その様子を見た莉奈は、ふうと息を吐いた。


(……まったく、馬鹿力なんだから)






「次だ、ノクス。距離、約七十」


「ふんっ!」


 ノクスはグリムの指差した方向へと大剣を投擲とうてきする。その大剣は寸分のたがいなく、姿を隠して詠唱をしているジョヴェディを穿うがった。



 グリムの、詠唱中の魔力を検知し正確に場所を把握する能力。


 ノクスの、大剣をまるで投げナイフの様に扱える膂力りょりょく


 そしてエヌ・エーの、物を作り出せる能力——。



 それら全てが噛み合って、ノクスの投擲の届く距離なら、長めの詠唱なら完成する前にジョヴェディを落とすことが出来る。


 グリムは投擲の合間に呆れた声で漏らした。


「しかし、すごいなノクス。これほどの力と正確さ、私達の元の世界中、どこを探しても見つからないぞ。次だ、約五十」


「ふんっ!……まあな。投げナイフの練習もしたことがあるが、どうもあれは軽すぎていけねえ。もし、武器が無制限なら——俺にはこっちの方がいい」


「……まったく、世の中は面白いな。簡単に私の常識を覆してくる。次、約三十」




 再び撃ち落とされるジョヴェディ。これで莉奈の負担はだいぶ軽くなるはずだ。


 その様子を上空から見下ろしているジョヴェディは、グリムの姿を見つけ眉をしかめる。


(……あれは、ワシと共に斬られた小童? 何故、生きておる……)


 ジョヴェディは分身体の一体を大剣の届かない上空まで移動させ、詠唱を始める。そして杖に魔力を収束し、急降下させた。


(……全く、邪魔なんじゃよ)



 グリムは気づいていた。射程外の上空から漂ってくる魔力を。それが自分達を狙ってくるであろうことを。


 グリムは手を上げ、振り返ることなく背後に合図を送る。


「通常の属性魔法だ。これは撃たせる。解き放て、グリーシア嬢」


 その合図に空間がめくれ上がり、また一人の人物が姿を現した。その現れた女性——グリーシアは、高らかにその魔法の名を叫ぶ。


「——『護りの魔法』!」


 上空から次々と火弾が襲ってくる。やがて着弾し、舞い上がる土煙。しかしグリム達の前に現れた護りの障壁は、その火弾を全て防ぎきっていた。


 息を吐くグリーシア。グリムは口元を緩ませ、彼女に声をかけた。


「見事なものだな、グリーシア嬢」


「ありがと。あの時の雪辱、晴らしてみせるわ。でも『光魔法』だけは防げないから、注意してね」





 ジョヴェディは苛立っていた。あの手この手と策を弄して渡り合ってくるのは見事だが——こんなのは、全然楽しくない。


 やはり、エリスだ。あの時のエリスと今の自分なら、ひりつく戦いが出来るだろうに——。


「……フン、もういいわい。終わりにしてくれるわ」


 そう呟きジョヴェディは、動かせる分身体を上空へと集め始めた——。





「グリム! みんな!」


 魔力の気配が引いたのを感じた莉奈は、皆の元へと降りたつ。グリムはグリーシアから疲労回復薬を受け取って、莉奈に手渡した。


 それを急いで飲み干した莉奈は、エヌ・エーに向かって満面の笑みを浮かべた。


「アルフさん、来てくれたんですね!」


「……い、いや? そんな人は知らないなあ」


「もう、またとぼけちゃっ……いてっ!」


 グリムが莉奈の後頭部に手刀を叩き込む。恨めしそうにグリムを睨む莉奈だったが、グリムの「しーっ」という仕草に事情を察し、慌てて口を塞いだ。



 莉奈とグリムは、あの日サランディアで別れて以来の再会だ。今日あたりジル村で落ち合う予定だったのだが、見事入れ違いで莉奈が飛び立ってしまい、事情を聞いたグリムが慌ててあとを追っかけて来た、という次第である。



 グリムは空を眺めながら皆に告げる。


「さて、私がジョヴェディだとしたら、今頃大量の『爆ぜる光炎の魔法』をストックしてかたをつけようとするだろう」


 そのグリムの言葉を肯定するかのように、遥か上空にはパチパチとした光が煌めいている様子が見てとれた。


「それで莉奈、『彼女達』は見つかったかい?」


「あー、ごめん……探したけど、見つかんなかったや……」


 そう。莉奈は『厄災』達——ルネディ達と接触するために、先行して中央南部に出向いていたのだ。


 もし、ルネディの助力を得ることが出来れば——彼女の『影の力』ならば、『光属性』魔法に対抗することが出来たかもしれないから。


 しかし結果は、空振りだった。新月に近いとはいえ、是非とも彼女の力を借りたかった。


 莉奈の返答を聞いたグリムは、空から目を逸らさずに答える。


「まあどちらにせよ、今、月は沈みかけているからね。仕方あるまい」


 そう言っている間にも、上空の魔力は膨れ上がっていく。間もなく、大爆撃が行われるだろう。


 グリムはインカムを外し、莉奈に放り投げた。


「……わっ……ってグリム!?」


「時間がない。私に任せてくれ」


 そう言い残してグリムは覚悟を決め——荒野の中央部へと向かい、駆け出していった。




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