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ライラと『私』の物語【完結】  作者: GiGi
第四部 第一章
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崩れゆく歯車 06 —不可能な要求—





「……エリス……様をだと?」


「ああ、そうだ。知っているなら話が早い。エリスを、連れてこい」


 アレンは歯軋りする。


 かつてサランディアを、そして世界を救った『白き魔人』エリスの話は当然知っている。


 それが『救国の英雄』誠司の妻であることも、彼女はもういないということも。


 何と返答しようか迷いながら、目の前の老人を睨み続けるアレン。しかし先に、グリーシアが口を開いた。


「……ええ、わかったわ」


「……グリーシア」


 困惑するアレンを横目で見て、グリーシアは続ける。


「でもね、少し時間がかかると思うの。あなたはどのくらい、待ってくれるのかしら」


 その言葉に、グリーシアの瞳をじっと覗き込むジョヴェディ。彼女はその視線を、真っ直ぐに見つめ返す。


 沈黙。ややあって、ジョヴェディは口角を上げた。


「フン。本当に来るのなら、いくらでも待つぞ」


「そう。それはありが——」


 そうグリーシアが返そうとした時だった。ジョヴェディの方から、先程の光弾が飛んでくる。その光弾は、彼女の太ももを貫いた。


(……バカ……な。無詠唱……?)


 たまらず膝をつくグリーシア。それを見たアレンはたまらず叫んだ。


「……きさまぁ……ぐっ!」


 続け様飛んで来た光弾が、今度はアレンの脚を撃つ。そしてジョヴェディは——


「——『火弾の魔法』」


 ——先程の火球を一発、アレン達目掛けて放ってきた。反射的にグリーシアを庇うアレン。


 しかしその火球は、グリーシアの張った障壁に阻まれ霧散して消えていった。


 杖を構えながら、ジョヴェディはつまらなそうに言う。


たばかるなよ、小娘が」


 アレン達への回復魔法が飛び交う中、ジョヴェディは淡々と続けた。


「ワシを騙そうとするな。目を見ればわかる」


 その言葉に唇を噛むグリーシア。全部、見透かされていた。何も言い返せない。


 睨み合う二人。だが、ジョヴェディは深く息を吐き視線を外した。


「……まあいい。ひと月だ。ひと月だけ待ってやる。その間に何の進展も得られない様であれば——」


 ジョヴェディの顔が、醜く歪んだ。


「——この地方、全てが塵に還ると知れ」


 そう言って、彼は再び姿を消した。空からジョヴェディの声が響き渡る。


「——進展があり次第、ここに来い。期待しないで、待っているぞ——」


 来た時同様、吹き抜く一陣の風。アレンとグリーシアは、念の為に王国の手信号で兵達に『余計な会話をするな』との意思を伝える。


(……ほう、なかなかしっかりしとるのう)


 その様子を彼らの背後から眺めていたジョヴェディは感心し、今度こそ空へと飛び立った。


 こうして負傷者を治療したアレン達は、重い足取りでサランディア王国へと悲報を持ち帰るのであった——。








 誠司さんとライラが出会えたあの日から、二週間近く経った。


 その間の私はというと——暇を持て余していた。しかも今日は、いつも話し相手をしてくれるレザリアが、月の集落に帰ってしまっている。


 なので午前中は、グリムに模擬戦に付き合ってもらっていた。


 彼女の能力、『再生能力』と『感覚遮断』。そのおかげで彼女には寸止めをしなくてもいいので、いつもよりも踏み込んだ稽古が出来ていた。


 最初は抵抗があったが——彼女はそんな私を気遣ってか、自分から当たりにきて無事を証明する。


 しまいにゃ私に小太刀を投げ渡して、『色々と確認したいから、切り刻んでくれ』とか言ってくる始末だ。うー。


 まあ、慣れとは怖いものである。


 嫌々ながらも、散々グリムの『実験』に付き合わされた私。詳しくは表現出来ないが、これ、人の心を失うぞ、おい。



 こうして実験——もとい、稽古を終えた私達は温泉で汗を流す。


 そして、昼食もとり終えたその日の午後——


 私はテーブルに頬っぺたを付けながら、ソファーで本を読んでいるグリムに声を掛けた。



「ねーグリムー、暇だよー、話し相手になってよー、こっち来てよー」


「……まったく、ライラみたいなことを。私が本を読んでいても、話しかけてくれて構わないと言ってるだろう」


「えー。でも、それじゃあ私が話した気になんないじゃんかー」


「……ふう。難儀なものだな、人間も」


 グリムはため息をつきながら本を閉じ、渋々といった感じで立ち上がった。よっしゃ。レザリアがいない時は、君が私の相手をしてくれたまえよ。


 彼女は、テーブルの席に座る。そして、私も感じている思いを口にした。


「……しかし、誠司とライラ、長過ぎはしないか。もう、半月近くになるだろう?」


「あー。まあ、積もる話もあるだろうしね……」


 そうなのだ。誠司さんとライラはあの日以来、必要最低限しかこちらに戻ってこない。


 私が捕まえようとしても、「すまない、ライラのそばに居てやりたいんだ」と言って、そそくさと空間に戻っていってしまうのだ。


 この世界に来てから今まで、誠司さんかライラのどちらかは私の側にいた。それが急にいなくなって、物足りなくて、まるで心に穴があいた様な気分を感じてしまう。


 でも、あの幸せそうな顔を見たら——何も言えない。


 なにしろ、お互いを想いながら十七年間、やっとの思いで会うことが出来たのだ。今は幸せな時間を満喫して欲しい、心からそう思う。


 そんなことをボンヤリ考えていると、グリムが顔を寄せ、私に話しかけてきた。


「なあ、莉奈」


「ん、なあに?……って、ごめん。呼んでおいてボーっとしちゃってたや」


「いや、それはいいんだが——」


 グリムは視線を落として、私に問いかける。


「——カルデネの懸念は、もしかしてこれのことだったのだろうか」

 

 そうなのだ。あの日からカルデネは、書庫に空いた穴を横目に鬼気迫る勢いで魔法の最適化に臨んでいる。


 グリムも手伝いを申し出ようとしたが、思いとどまってしまった。


 一つは、自身の発言を未だに気にしている点。もう一つは、彼女曰く『AIの苦手な分野』とのこと。


 確かに魔法は『心を込めて、言の葉を紡ぐ』というのが非常に難しい所ではあるのだが——なんか意外だ。


「うーん。私に迷惑が掛かるかも、って言ってたけど……」


「やはり、カルデネに聞いてみるか——」


 と、その時、外から馬車が近づいてくる音がした。聞き慣れた音。ノクスさんだ。


「あれ? 今日来る日じゃないよね……? ちょっと行ってくる」


「ああ、私も行く」


 私達はノクスさんを迎え入れるために玄関へと向かう。


 そして彼の持ってきた知らせは、カルデネの見えているものが私達にも見え始める、そんな知らせだったのだ——。





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