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ライラと『私』の物語【年内完結】  作者: GiGi
第三部 第六章
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『0%』 02 —迫り来る絶望—






「『義足の剣士』……彼が来ているのかね?」


 その人物の名を聞いた周囲がざわつく。


『義足の剣士』。トロア地方の最大戦力。最強の三つ星冒険者。竜の単独討伐を成功した者。


「うん。彼が言ってたの。『女王竜』が来るって。それで街の近くでは戦えないから、砂漠までおびき寄せてくれって」


 ——確かに聞いた限りの巨体であるならば、この辺りで戦えば攻撃の余波で街が危険に晒されるだろう。


 それにマルテディも戦ってくれるというのなら、むざむざ彼女を人前に晒すのは心配である。


 現に——


「……ねえ、マルティって言ってたけど、それって『厄災』マルテディのこと? 砂漠だとかなんとか言ってたし」


「……うん。私も同じこと思った、ヒイアカ」


 ——ヒイアカとナマカに緊張が走る。


 その様子を感じ取った誠司は、二人に頷いた。


「ああ。詳しくは全て終わったら話すが、彼女は取りあえず味方と考えて差し支えない……今はそれで納得してくれるかな?」


 ヒイアカとナマカは顔を見合わせた。


「いいけど……ハウメアには報告するよ?」


「うん。言わない訳にはいかないよね、ヒイアカ……」


「構わない。ブリクセン国に危害が加わることはないよ、とも付け加えておいてくれ」


 その言葉を聞き、ヒイアカとナマカの肩から緊張が抜ける。誠司は頷き、皆を見回した。


「さて、それで『義足の剣士』とやらはどのくらいの実力なのかな。誰か面識のある者はいるかな?」


 誠司の問いかけに、ボッズが目を開けた。


「オレは一緒に戦ったことがある。ヤツは『竜殺し』として名高いが、火竜ならソロ討伐どころか三頭ぐらい相手しても一人で勝つだろうよ」


 ボッズは世辞を言うような男ではない。その彼がそう言うのだ、相当な実力の持ち主であることは間違いないだろう。


 しかし、何やら誠司の歯切れが悪い。


「……そうか、信じていいのかね? 人柄は?」


「うむ。間違いなくヤツは強い。そして、少なくとも悪いヤツではないな」


「本当かね?」


「……どうした、くどいぞ」


 呆れ始めるボッズ。誠司は目を逸らし、頬をかいた。


「……いや、うちの莉奈を預けるんだ。信頼するに足る人物か、気になるのは当然だろう?」


 誠司の心の内がわかり、くねくねしだす莉奈。彼女は頬をピシャッと叩いて気を取り直し、皆に手を上げた。


「それじゃあ、私、そろそろ……」


「待ちなさい、莉奈」


 飛び立とうとする莉奈を呼び止め、誠司は近づいていく。そして、首を傾げる莉奈を誠司は軽く抱きしめ、背中を叩いた。


「ふひゃ!」


 変な声を上げる莉奈をすぐに解放し、誠司は莉奈の両肩に手を置く。


「この戦い、君には頼りっきりだな。いいか、危なく感じたり、無理だと思ったらすぐに引き返して来なさい。例えそうなっても、誰も文句は言わないし、言わせないから」


「……うん……うん、ありがとね、誠司さん。ま、やるだけやってみるよ!」


 少し顔を赤らめながらも、元気に返事をする莉奈。彼女は手を振り、今度こそ飛び立つ。


「じゃあ、みんなも頑張ってね! 行ってきまーす!」


 莉奈は瞬く間に上空へと飛び上がる。それを眺める誠司の横に、セレスが並んだ。


「……本当、すごいわね、あの娘。一番大変な役目を、ずっとこなしてるっていうのに……」


「……ああ。私の、自慢の『娘』だ」



 陽が地平に沈み始める。迫り来る絶望を打ち砕く為、冒険者達も最後の戦いに向けた準備を始めるのだった——。










『——こちら莉奈。女王竜と思われる影を確認。向かいます』


『——よろしく頼む。各自、最後の確認を。セレス嬢、疲労回復薬はすぐに取り出せるようにしてくれ』


「——わかったわ。とりあえず、今の内に皆に飲ませておくわね」


 通信が飛び交う。セレスはバッグの中から疲労回復薬を取り出し、皆に配り始めた。


 セレスのバッグは『203』号室に繋がっている。そこには大量の武器、魔道具、薬などが運び込まれていた。


 今はクラリスの歌は止まっている。その余韻のある内は効果を受けられているはずだが、それでも、身体に疲労が蓄積しているのは全員感じていた。


 マッケマッケが薬を飲み干し、遠くの空を睨む。


「……セレス様……あれ……ですよね……」


「……ええ。でしょうね」


 距離感がおかしくなる。あれが周囲の火竜達と同じ位置を飛んでいるのだとしたら——そう考えただけで身の毛がよだつ。




 そして、それはグリムも同じだった。


「でかいな……まったく、あんなのが飛ぶなんて物理法則を無視している」


「あー……アレっすね……大丈夫っすかね、リナさん……」


 ジュリアマリアも呆れた声を上げる中、休憩中のクラリスが寄ってきた。


「すごいですねー! 私、悲劇は歌にしたくないので、皆さま頑張って下さいね!」


「クラリス。先程も言ったが、全てはキミにかかっている。キミは悲劇と喜劇、果たしてどちらの英雄譚を紡ぐことになるのかな?」


「うふふ。脅したって無駄ですよー。私は歌を、歌って、唄って、謳うのみ、です!」


 トン、と得意げに胸を叩くクラリス。それをジュリアマリアがジト目で見る。


「……なんすか。流行ってるんっすか、その言い回し……」


「怖い人のモノマネは場をなごます常套手段だ。知らなかったのかい?」


 げっそりとした表情でつぶやくジュリアマリアに、グリムはさも当たり前の様に言う。それを見たクラリスはコロコロと笑った。


「それでは!『開拓者』さんも! どうぞ!」


「……あー、もうっ! ウチは、ただ、駆けるのみっす! いいっすか、これで!」


 おー、と拍手をしだすグリムとクラリス。くっ、とジュリアマリアは二人を睨む。


 だが——緊張は解けた。『嫌な予感』に押しつぶされそうな気持ちも持ち直した。


 ——やってやろうじゃないの。


 その様子を満足そうに見たグリムは、クラリスに告げる。


「さて、お遊びはここまでだ。歌を再開してくれ。そして、莉奈が『女王竜』を剥がし次第、動くぞ」





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