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ライラと『私』の物語【年内完結】  作者: GiGi
第三部 第四章
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集えよ、冒険者たち 11 —決戦前夜—






 翌日。ついに明日が『渡り火竜』襲来予定日だ。


 事前にやれる事はやった。


 だが——相手の数が数だ。いくら準備したとしても、決して足りることはないだろう。


 そして夜。彼らは最後の打ち合わせに臨む——。





「さて、諸君。集まって頂き、ありがとう。改めまして、僭越せんえつながら私がキミ達を指揮するグリムだ。よろしく頼むよ」


 グリムはこの期間、皆とコミュニケーションをとることを重点的に動いていた。ひとえに、皆から最低限の信頼を得るためだ。


 その甲斐あってか、冒険者たちとグリムはそこそこ良い関係性を築けている。これも、彼女の頭脳と会話術があってのものだろう。


「では、参加者をおさらいしておこうか。物理攻撃担当は誠司、ボッズ、キミ達二人だ。かなり負担が大きいが、よろしく頼む」


「仕方あるまいよ。せいぜい、暴れさせてもらうさ」


「ああ。オレは斧を振るうのみ、だ」


 近接戦闘を主軸に行えるのは、この二人だけだ。圧倒的に負担が大きいが、腕前は確かな二人である。彼らには頑張ってもらうしかない。


「あーあ。『義足の剣士』さんが来てくれれば良かったんっすけどね」


 ジュリアマリアの言葉に、莉奈はうつむく。言いたい。が、言ったところで、『義足の剣士』は参加出来ないという事実を突きつけるだけだ。莉奈は開きかけた口を、つぐむ。


「まあ、居ない者のことを考えてもしょうがないだろう。それで、ジュリ。キミは自由枠だ。とはいえ、戦場を駆け回ってもらうことになる。言ってみれば私の手足だ。頼りにしてるよ」


「はいはーい。まあ、頑張るっすよ! ちゃちゃっと終わらせて、祝杯あげちゃいまいしょ!」


 軽口を叩くジュリアマリア。ちゃちゃっと終わらせることは不可能であろうが、彼女は酒のためなら全力を尽くしてくれるであろう。


「次に、魔法攻撃担当。セレス嬢にマッケマッケ。この戦いにおいての主力だ。特にセレス嬢には色々と負担を強いてしまうが……期待しているよ」


「ええ、任せてちょうだい。私の国の問題だもの。みんな、ありがとうね」


「あーしからも感謝を述べさせてもらいます。誠にありがとうございます」


 セレスとマッケマッケは、皆に向かって頭を下げる。魔人セレスに、その右腕マッケマッケ。彼女達の攻撃力が、戦闘の成果に直結するであろう。


「次、魔法支援担当。ヒイアカ、ナマカ、来てくれてありがとう。キミ達の力、存分に使わせてもらうぞ」


「任せてちょうだい、せっかく来たんだしさ。頑張ろうね、ナマカ」


「うん。頑張ろうね、ヒイアカ」


 彼女達の存在は、大きい。支援役の存在は、グリムも頭を悩ませていた部分だからだ。この土壇場で彼女達が来てくれて、本当に良かった。


 そして、土壇場で参加した切り札がもう一人——。


「さあ、クラリス。どうだい、この面々は。新しい英雄譚は生まれそうかい?」


「うふふ。今から楽しみです! 私、全力で歌いますので!」


 二つ星冒険者、吟遊詩人クラリス。自称『場末の歌姫』だ。彼女の歌声が届く者は、常に最高のコンディションで戦えるという、チートにも近い能力。その歌声は、通信魔法ごしでも効果があるとのことだ。


 ——後から来るという反動には、皆には目を瞑ってもらおう。


「では、キミは後方で耐久配信をしていてくれ。そして、最後に——」


 皆の視線が莉奈に集まる。「うっ」と呻く莉奈。グリムは目を細め、続けた。


「——莉奈。キミは遊撃部隊だ。とは言っても一人だけどね。この戦いの行方は、全てキミにかかっている。責任重大だ。まあ、気を引き締めて、気楽に頑張ってくれよ」


「どっちだよ!……うぅ……頑張ります……」


 そう、この戦いは、空を自由に飛べる莉奈の働き具合により大きく左右される。周りもそれを分かっているのだ。否が応でも期待は集まる。


 これで、グリムを入れ十人。少数精鋭としてはまずまずの頭数が揃った。グリムは皆を見渡す。


「さて。これだけの人物が揃った訳だ。まず、我々の勝利条件について話しておこうか」


 一同は静かにうなずく。


「まず、住民を含めた全員生還を目指す。当たり前だ。そして、渡り火竜の殲滅せんめつ。ケルワンで食い止められなければ、各地に散って行ってしまうだろうからね。最後に、街への被害を最小限に抑えること。これも、国としての勝利条件に含まれると思うが、そうだよね、セレス嬢」


「……ええ。街には避難出来なかった者もいるし、避難した皆の帰る場所を守ってあげたいわ」


「うん。そこまで出来たら、我々の『完全勝利』と言っても過言ではないだろう。そこで、私の見込みだが——」


 そこまで言って、グリムは目を瞑り、鼻で息を吐いた。


「——全部どころか何か一つだけをとってみても、現状、達成出来る可能性は『0%』だ」



 ——沈黙。



 反論の声は上がらない。皆、分かっているのだ。頭でも、心でも。これがいかに無謀な戦いなのかを。


 だが、今その事実をはっきりと言葉に出されて、全員が顔を歪める。


 その皆の反応を見て、更にグリムは続けた。


「まあ、そう悲嘆するな。私達に出来ることは、とにかく『0%』を確定せないことだ。厳しい戦いになるだろう。しかし、信じて欲しい。『0%』を確定させなければ、その先に待つのは『100%』の完全勝利だということを」


「……どういう……こと?」


 セレスが目に涙を浮かべて、グリムに問う。


「なに、ただの言葉遊びさ。言い換えれば、実に陳腐ちんぷな言葉ではあるが『奇跡を信じましょう』という感じか。いずれにせよ、私達はやることをやるだけさ——」




 その後も、打ち合わせは進む。配置、作戦、と言っても特別な秘策がある訳ではない。竜の動きに合わせ、リアルタイムで動きを変えるだけだ。


 打ち合わせも終わり、グリムと莉奈は窓の外を見上げながら密談をする。


 後はもう、頑張るしかない。




 そして翌日。ついに『渡り火竜』襲来の日を迎えるのだった——。





お読み頂きありがとうございます。


これにて第四章完。次章より総力戦、始まります。


引き続きお楽しみ頂けると幸いです。よろしくお願いします。

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