集えよ、冒険者たち 11 —決戦前夜—
翌日。ついに明日が『渡り火竜』襲来予定日だ。
事前にやれる事はやった。
だが——相手の数が数だ。いくら準備したとしても、決して足りることはないだろう。
そして夜。彼らは最後の打ち合わせに臨む——。
「さて、諸君。集まって頂き、ありがとう。改めまして、僭越ながら私がキミ達を指揮するグリムだ。よろしく頼むよ」
グリムはこの期間、皆とコミュニケーションをとることを重点的に動いていた。ひとえに、皆から最低限の信頼を得るためだ。
その甲斐あってか、冒険者たちとグリムはそこそこ良い関係性を築けている。これも、彼女の頭脳と会話術があってのものだろう。
「では、参加者をおさらいしておこうか。物理攻撃担当は誠司、ボッズ、キミ達二人だ。かなり負担が大きいが、よろしく頼む」
「仕方あるまいよ。せいぜい、暴れさせてもらうさ」
「ああ。オレは斧を振るうのみ、だ」
近接戦闘を主軸に行えるのは、この二人だけだ。圧倒的に負担が大きいが、腕前は確かな二人である。彼らには頑張ってもらうしかない。
「あーあ。『義足の剣士』さんが来てくれれば良かったんっすけどね」
ジュリアマリアの言葉に、莉奈はうつむく。言いたい。が、言ったところで、『義足の剣士』は参加出来ないという事実を突きつけるだけだ。莉奈は開きかけた口を、噤む。
「まあ、居ない者のことを考えてもしょうがないだろう。それで、ジュリ。キミは自由枠だ。とはいえ、戦場を駆け回ってもらうことになる。言ってみれば私の手足だ。頼りにしてるよ」
「はいはーい。まあ、頑張るっすよ! ちゃちゃっと終わらせて、祝杯あげちゃいまいしょ!」
軽口を叩くジュリアマリア。ちゃちゃっと終わらせることは不可能であろうが、彼女は酒のためなら全力を尽くしてくれるであろう。
「次に、魔法攻撃担当。セレス嬢にマッケマッケ。この戦いにおいての主力だ。特にセレス嬢には色々と負担を強いてしまうが……期待しているよ」
「ええ、任せてちょうだい。私の国の問題だもの。みんな、ありがとうね」
「あーしからも感謝を述べさせてもらいます。誠にありがとうございます」
セレスとマッケマッケは、皆に向かって頭を下げる。魔人セレスに、その右腕マッケマッケ。彼女達の攻撃力が、戦闘の成果に直結するであろう。
「次、魔法支援担当。ヒイアカ、ナマカ、来てくれてありがとう。キミ達の力、存分に使わせてもらうぞ」
「任せてちょうだい、せっかく来たんだしさ。頑張ろうね、ナマカ」
「うん。頑張ろうね、ヒイアカ」
彼女達の存在は、大きい。支援役の存在は、グリムも頭を悩ませていた部分だからだ。この土壇場で彼女達が来てくれて、本当に良かった。
そして、土壇場で参加した切り札がもう一人——。
「さあ、クラリス。どうだい、この面々は。新しい英雄譚は生まれそうかい?」
「うふふ。今から楽しみです! 私、全力で歌いますので!」
二つ星冒険者、吟遊詩人クラリス。自称『場末の歌姫』だ。彼女の歌声が届く者は、常に最高のコンディションで戦えるという、チートにも近い能力。その歌声は、通信魔法ごしでも効果があるとのことだ。
——後から来るという反動には、皆には目を瞑ってもらおう。
「では、キミは後方で耐久配信をしていてくれ。そして、最後に——」
皆の視線が莉奈に集まる。「うっ」と呻く莉奈。グリムは目を細め、続けた。
「——莉奈。キミは遊撃部隊だ。とは言っても一人だけどね。この戦いの行方は、全てキミにかかっている。責任重大だ。まあ、気を引き締めて、気楽に頑張ってくれよ」
「どっちだよ!……うぅ……頑張ります……」
そう、この戦いは、空を自由に飛べる莉奈の働き具合により大きく左右される。周りもそれを分かっているのだ。否が応でも期待は集まる。
これで、グリムを入れ十人。少数精鋭としてはまずまずの頭数が揃った。グリムは皆を見渡す。
「さて。これだけの人物が揃った訳だ。まず、我々の勝利条件について話しておこうか」
一同は静かにうなずく。
「まず、住民を含めた全員生還を目指す。当たり前だ。そして、渡り火竜の殲滅。ケルワンで食い止められなければ、各地に散って行ってしまうだろうからね。最後に、街への被害を最小限に抑えること。これも、国としての勝利条件に含まれると思うが、そうだよね、セレス嬢」
「……ええ。街には避難出来なかった者もいるし、避難した皆の帰る場所を守ってあげたいわ」
「うん。そこまで出来たら、我々の『完全勝利』と言っても過言ではないだろう。そこで、私の見込みだが——」
そこまで言って、グリムは目を瞑り、鼻で息を吐いた。
「——全部どころか何か一つだけをとってみても、現状、達成出来る可能性は『0%』だ」
——沈黙。
反論の声は上がらない。皆、分かっているのだ。頭でも、心でも。これがいかに無謀な戦いなのかを。
だが、今その事実をはっきりと言葉に出されて、全員が顔を歪める。
その皆の反応を見て、更にグリムは続けた。
「まあ、そう悲嘆するな。私達に出来ることは、とにかく『0%』を確定せないことだ。厳しい戦いになるだろう。しかし、信じて欲しい。『0%』を確定させなければ、その先に待つのは『100%』の完全勝利だということを」
「……どういう……こと?」
セレスが目に涙を浮かべて、グリムに問う。
「なに、ただの言葉遊びさ。言い換えれば、実に陳腐な言葉ではあるが『奇跡を信じましょう』という感じか。いずれにせよ、私達はやることをやるだけさ——」
その後も、打ち合わせは進む。配置、作戦、と言っても特別な秘策がある訳ではない。竜の動きに合わせ、リアルタイムで動きを変えるだけだ。
打ち合わせも終わり、グリムと莉奈は窓の外を見上げながら密談をする。
後はもう、頑張るしかない。
そして翌日。ついに『渡り火竜』襲来の日を迎えるのだった——。
お読み頂きありがとうございます。
これにて第四章完。次章より総力戦、始まります。
引き続きお楽しみ頂けると幸いです。よろしくお願いします。




