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処刑から始まる神殺しの起源  作者: イズシロ
第3章 「断面の再構築」
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共犯

 オウレンの案内を受け、裏通りでの買い物を済ませる。



 そこは表と違い客層も一風変わっていた。シオンが雑木林で命を奪った者たちのように冒険者とすぐに予想がつく。

 そのどれも腕に巻いたプレートはBランクを示す【翡翠】以下だ。

 EランクのクリスタルやDランクのマルカイドが多い。それでも全体的に見渡せば数は少ないのだろう。

 これだけの出店やショップがある中でどこも閑古鳥が鳴いているような状況だった。



 すれ違う冒険者たちから訝しい視線はない。それもここならば外套を着込み、フードを被っていようと見立つことはないからだ。

 それよりも魔法師と見受けられる冒険者のほうがよっぽど派手だ。自己主張が強いとさえ思える。



 オウレンは着いた途端にすぐ戻ると言い残してどこかへ去って行った。

 そして彼が戻り、いざ出発となると、持っていなかったはずの麻袋――手荷物は疑問を残す。



 何気なく訊いたシオンに対してオウレンはニカッと笑い、麻袋から響くような音とともに一本の瓶を取り出した。

 要は酒だ。

 彼の行きつけの店にキープしておいた酒を回収して回ったらしい。



 金には執着しないのに酒には並々ならぬ情熱があるのだろう。

 シオンは呆れながら肩を竦めた。



 【フィンテル】を出る為にユイネに冒険者を証明するプレートを渡す。

 その際、猜疑心に満ち溢れた視線が「これ、どうしたんですか?」と問い掛けてくるがシオンは苦い顔を背けて難を逃れた。



 軽装の一団ではあったが、冒険者が街を出る為に一々引き止める検問所は稀だ。

 しかし、この時は違った。



 というのも国境を越えさせないために指名手配書が出回ったからだ。



「ちょっと待て!」



 そう検問所から門を通り抜けようとしたシオンたちに声が飛んでくる。顔を向けずにピタリと制止した。

 横を歩かせていたユイネが身体をビクッと跳ねさせる。

 それを隠すようにシオンは移動し、フードの下で平然と返す。



「何か?」

「悪いな、王都から冒険者も含めた検査をするよう指令が来ているんだ」



 明らかにシオンたちを訝しんで声を掛けたのは間違いない。今朝には何もなかったはずだ。

 やはり長居し過ぎたのだろうか。



 「悪いな、これから急ぎの依頼なんだ」とオウレンが背後でドスの利いた声を発する。しかし、検問員も仕事とあってただでは引かなかった。

 さすがにここで殺意が混入すればたとえ兵だろうと首を縦に振らざるを得ない。だが、のちのち面倒なことになるはずだ。



 シオンたちの背後では検査を受けずに通り過ぎて行く人々がいる。



「安心しな、あそこでプレートを確認させてもらえればいい」



 これは冒険者を証明する石が嵌められている。

 冒険者組合で登録する際に魔法で情報を記憶させる――血を含ませる――ことで本当に冒険者組合で発行したものなのか、はたまた登録者と着用者を一致させることができるのだ。



 それをされてはオウレン以外はすぐにバレてしまうだろう。



 シオンは俯き気味に近寄ってくる検問員の足を見る。

 それを緊迫感に包まれて静観するユイネとオウレン。彼女はずっと震えながら神にでも祈っていたことだろう。



 オウレンは静観している。焦りは見られず腕の見せ所だと言いたげにシオンの対応を見ていた。



「どうした……」



 検問員がシオンの顔を覗き込むように腰を曲げた瞬間――。

 


「――!!」



 バッと突き出されたシオンの手が顔を包み込むように男の眼前で広げられた。

 慌てた男はシオンの掌を見つめながら……眼を虚ろにさせていく。



「俺たちを通せ!」

「あ、あ、あぁ、わかった」



 手を突き出した直後にオウレンがやばいと見て一歩踏み出したが、検問員の言葉に身体を硬直させた。

 あまりにも不自然、検問員は洗脳されたように頷くばかりだ。



 無論、シオンにも自分が何故そうしたのか理解できない。

 しかし、絶対に成功するという確信と最も効率の良い選択であると身体が判断したのだ。だからシオンは検問員が拒めないことを知っていてもその理由までは知らない。わからなかった。



「問題ない。と、と、通れ」



 その台詞にシオンは腕を降ろし、ユイネの背中を押して歩き出した。

 一拍してオウレンも後に続く。

 足取りは少し早く、門を抜ける時にはシオンの隣にいた。



「何をしやがった」

「さぁな、俺にもわからない」

「んなわきゃあるか!」



 真っ正面を向きながらオウレンは断固抗議した。魔法にしろ能力アビリティにしろ他人に教えてやる必要はないが、今のはあまりに不自然で不可解過ぎる。



 シオンは自分の手を見降ろし小首を傾げた。



「できるような気がしたんだ。オウレンにもわからないか?」

「わかったら訊かねえ」



 オウレンもおかしなこと続きに考えるしかなかった。以前のシオンほど頭の回転は速くないが、それでも経験で培った知識はある。

 それでもまったく見当が付かない。魔法ではない証拠にシオンは魔法を使うための魔法具を持っていない。

 では、能力アビリティだろうか。

 これもないなと思考を霧散させた。能力アビリティなら尚更人には教えられないのだが、シオンが検査した時に立ち会ったのだから間違いない。

 シオンの能力をオウレンは知っている。【盤上の操作】それがシオンの能力アビリティだ。後天的に取得したもののはずだ。計略に関してはシオンの知識と相まっているはずなのだから。



 【盤上の操作】はシオンの知識を元に並列的な考えが同時にできる。能力アビリティというほどのことでもないのだが。要は作戦、策略に関して同時に何パターンもの思考が並列的に行われる。だからこそシオンは一度として敗北したことがない。

 無論戦力差による撤退はあるが、準備期間さえ設けられれば安心して命を預けられるのだ。調査で徹底的に情報を集め、それを総括して精査できる頭が必要ということになる。



「仮に能力アビリティだとしたらアジトで検査できるはずだ」

「ほう、便利だな」

「アジトには【ギフトの写実】って魔法具があるからな」



 これはたまたま取得出来た魔法具だ。賊を壊滅させた時の盗品に紛れ込んでいた。魔法具にも様々なランク分けがされている。

 普通に出回っている魔法具を低具【ビギナ】、一般的に売られていることもあり使い捨ての物が多い。

 ユイネが救出に使った【閃光:フラッシュ】は低具ビギナに当たる。


 

 これ以外にも秘物【マーキス】、英望【デューク】、王宝【レガリア】、伝説【レジェンド】、星具【アストラル】、神器【ラグナロク】がある。人間の手で生み出せる魔法具は王宝【レガリア】までが限界とされ、それ以上は元々世界にある強力な魔法具であり神【クルストゥエリア】の恩恵と言われている。

 無論、その中には使い手を間違った不出の悪器も存在した。



 人ゴミに紛れながら三人は街道を歩き始める。

 外套を着込み、フードを目深に被っているのがシオンとユイネだ。オウレンは体躯の引き締まり方からして一目で冒険者だとわかる。

 布を一枚使ったような外套を着てはいてもフードは被っていない。胸元で締めた外套は風を巻き込み颯爽とはためく。



 だからユイネの言葉たまたま、偶然目に付いたからだった。



「オウレンさん、腕に怪我されてるんですか?」

「これか……」



 そこで意地悪く「シオンにやられた」とでも言えば面白そうだ。

 しかし、ちょっとした違和感から止血のために撒いていた布切れを取る。痛みはもう感じないが、どこかむず痒さのようなものを感じたのだ。



「…………!!」



 自分の腕を見てオウレンは言葉を失い。同時にシオンは軽く振り返り眼を剥く。

 そこには彼が深々と裂いたはずの傷がきれいさっぱり消え失せていた。微かに傷痕が残っているもののほぼ完治している。



「どういうこった!」



 驚愕の声をシオンに向けた。

 が、彼も状況の説明ができない。何故治癒しているのか……。

 思い当たる節と言えば……シオンの言わんとしていることを逸早く察してオウレンは腰に手を回す。



「いや、回復薬は持ってる」



 そう、回復薬を呑んだというのなら――治癒の程度はわからないが――理解することもできるのだ。

 しかし、オウレンが腰から引き抜いた瓶には回復薬独特の澄んだ液体が入っている。



「どうしたんですか?」



 ユイネが疑問を浮かべるのも、この傷が今朝方負ったものと知らないからだ。

 彼女に気付かれないようにシオンはオウレンに対して首を横に振った。



「いや、悪い何でもない」

「そ、そうですか……」



 一人だけ除者にされていることを機微に感じ取ったのだろう。少しムスッとした表情でユイネが先頭を歩きだす。

 その背後でオウレンはシオンに耳打ちした。



「心当たりは?」

「あるわけないだろ? そっちは」

「俺もだ。それに俺の持ってる回復薬でも治りが早過ぎる」



 シオンは不思議な現象に頭を悩ませる。

 これもシオンという人間の成せる力なのかもしれない。



「こういう能力アビリティもあったりするのか?」

「治癒のことか……俺の記憶では神官クラスでも稀だ。俺のいたチーム内にも神官はいたがここまでの回復力はない。あの傷なら完治までに2日以上は掛かるはずだ。それを数時間でとなると最高級の回復薬並みだぞ」

「なんにしても能力アビリティを検査しないことには見当もつかない、か」


 


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