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処刑から始まる神殺しの起源  作者: イズシロ
第3章 「断面の再構築」
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アセンブリーの欠片Ⅱ

 珍しく考え込むシオン。

 もちろん考え込む仕草に違和感を感じるのはこれを見ていたのがオウレンだからだ。



 しかし、シオンは決意したように口を開く。

 ただ、言葉の端々に不承不承が付きそうな気がするのは気のせいではないだろう。



「一先ずは静観するか。本当にやばいようなら何か手を打とう。こっちの情報も集める必要があるか」

「まぁ、解呪師なんかは法国に多いが、王国だろうといないわけじゃない、と思う。急ぐ必要はないが気にかけてはおこう」

「頼む。それと言っておくがユイネは俺の恩人だ。それも忘れるな、彼女に何かあれば……」

「わかってる。それをお前の口から聞いてホッとしたぐらいだ」



 人間らしい感情の一端。

 果たしてそれが正しいのかはオウレンにはわからない。しかし……全てを壊し、殺し尽くすためには人間では不可能だ……悪魔でも不可能だ。悪魔的な中にほんの一部だけ人間であらねばならない。人間を相手にするのであれば尚更だろう。

 少しだけ面白くなってきたと頬を持ち上げるのだった。



 ふんっと鼻で息を吐きだしたオウレンは一転して話題を変える。



「それにしてもあんな嬢ちゃんがお前を助けたなんて俄には信じられんな」

「本当に奇跡だな」



 そういうシオンの顔は渋面を作っている。

 きっかけを作ったのはユイネだが、実際はシオンの身体能力だけで切り抜けたようなものだ。

 無論、そのきっかけこそが全ての始まりで、運命の歯車に挟まった異物でもあるのだが。



 今思い返しても良く助かったものだ。シオンの力が常人程度ならば確実に二人とも死んでいただろう。



「せっかく助かった命だ。盛大なショーを披露してやるさ」

「初めが肝心だな、予定は……」



 そう問う直後に部屋からユイネの入室を許可する声が響いた。

 それを受けてシオンは「続きは中で……」と親指を立てて部屋を指差す。



 二人して入ると、そこにはユイネが濡れそぼった髪の毛を吸収性の悪い布で挟んで叩いていた。

 栗色の髪は水分を含み、少し焦げ茶に変色して見える。

 髪型が違うせいかシオンは一瞬立ち止まってしまった。すぐに背後から巨漢がぶつかってくる。



「おいっ!」

「悪い悪い」

「――!! へぇ~……」



 そう唸るようにオウレンがユイネの全体を見る。どこか関心しているふうだ。



「嬢ちゃんとは言ったが、こりゃ将来美人になるな」

「親父臭いことを言うから、おやじって呼ばれるんじゃないのか」

「むっ!!」



 一理あると思ったのか、渋い顔でオウレンは威厳を再起させた表情でシーツの下に藁を敷いたようなベッドに腰を降ろす。

 ギシギシと悲鳴がベッドからでるがお構いなしだ。



 簡単な自己紹介をお互い済ませる。とは言えユイネとオウレンのだが。

 彼女は最初巨漢の男に威圧感を感じていたが、意外に気さくな性格なのを短い時間で覚ったのだろう。

 あっさりとお互いの顔合わせは終わった。



 彼女からしてみればシオンの仲間だったというだけで信頼に足りるのかもしれないが。



 一段落したと見てシオンは神妙な顔付きで口を開く。

 この場においては会議然とする厳粛な空気が漂い始める。



「一先ず、早くこの街を出たいんだが……」



 というのはあれだけの冒険者を殺めたのだ、騒ぎが大きくなれば戒厳令が敷かれることも考えられる。そうなれば法国どころか【フィンテル】から出るのも難しいだろう。

 一応、オウレンには血生臭い話はユイネの前では禁句としている。とはいえこれは自重するように程度のことだが。



「その先だな」

「その通り。記憶がないせいでまったくと言っていいほど世界情勢から何もかもわからない」



 これはシオンだからではなく、周だからだ。記憶喪失という免罪符は最初から記憶がないことを覚らせないために打ってつけの理由なだけ。

 身体の性能に関してもやはりこの世界のことを知ってからでないと何も結論を出せない。

 例えばアビリティや魔法具、そう言った不思議な力の影響とも考えられるからだ。



「まずは優先順位で考えよう。一先ずユイネを安全な場所に届ける。これは決定事項だ。だが、当然俺に当てや思い付く場所なんかない。オウレンは何かないか?」

「無理だな」

「…………!!」



 この言葉に対しての吃驚はシオンだけだった。

 ユイネは以前に聞かされたときから薄々気付いていたのだが、自分のために必死になるシオンに言葉を返すことができなかったのだ。



「どういうことだ」

「う~ん、まったくないわけじゃない。魔物が跋扈するような場所ならだが」

「却下だ」

「だろうな。そうなると難しい。国に属さない地域はそれこそ他種族しか存在しない。しかし、人間に対して感情的に受け入れるとは思えん。指名手配されているとなれば戦争の火種だ。王国の辺境だろうと、帝国だろうと監視下にある以上、いつまでも安全とは言えん。それに法国が裏で動いているのはどの国でも悩みの種だ。表だって動かないだけだしな」



 シオンが難しい顔で考える。いや、いくら考えても妙案なんて出てくるはずもない。知識もなければこの世界の地形すらわからないのだから。



 そんな時だった。ユイネがふと徐に挙手する。

 何も安宿の一室で開かれる話し合いでそこまで畏まる必要はないのだが、彼女なりの覚悟の表れ、もしくは言い辛いことだったのかもしれない。



「でしたら、もう少しだけ一緒にいさせていただけませんか?」



 栗色の髪の下でユイネの不安な眼が覗く。

 しかし、これは唯一の選択肢を述べたまでのことだった。



「まっ、そうなるわな」

「安全な場所が見つかる間はしかたないか。それまでは傷一つ付けさせない」

「はい、お願いしますねシオンさん」



 一変して破顔するユイネ。

 先ほどまでの体調不良が嘘のようでもあった。



「安全な場所か、そういう意味では以前のお前は上手いとこに作ったよな」

「何をだ?」

「アジトだよ。あそこは王国の国境沿いだが、正確には数十年前に起きた法国との戦いで荒れ地となった場所だ。あそこは不可侵的な側面がある。それに両国に睨みを利かせるようにリベリオ帝国があるからここ数年は不毛の地として誰も立ち入らないはずだ。誰も背中を刺されたくはないからな。俺の記憶が正しければ王国もあそこだけは強く領有権を主張しない、というかできないんだ」



 というのも法国との間で起きた争いで敗北した経緯があるからだ。戦勝国が侵略した領土という点では政治上法国の領土になるのだが、法国でさえここは野放しにしている。

 何か王国との間に問題が起きた時にあやふやにしたままのほうが何かと都合がいいこともあるからだが、それ以外にも近辺に巣食う凶暴な魔物が一帯に密集しているからでもある。



 通常の魔物は亜人種や植物種、無生物なんてものまである。だが、この辺りに広がる樹林は広大であり、そういった魔物の亜種が多い。

 ここに派遣する冒険者だけでもAランクは必須条件だろう。つまるところ整備するにも莫大な金額が必要なのだ。

 仮に資金を用意できたとしても場所が国境付近であり法国と王国の関係上、冒険者組合もかなり渋い顔をするのが現状だ。



「安全は確保されているのか?」

「まさかだ、あんな魔物が跋扈するような場所だぜ。警戒は怠れないが、お前はその中でも魔物の性質上比較的出現頻度の低い場所を見つけたからな」

「何故最初から言わない」

「いや、マジでいくのか? お前には応えるぞ、たぶん。俺はどっちでもいいがな」



 


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