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処刑から始まる神殺しの起源  作者: イズシロ
第2章 「物語る素性」
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一方通行の知人

「なっ!!」



 剣先を見切った完璧なかわし。

 オウレンは振り切ったまま固まっていた。まるで時間がシオンだけを早巻きにしたように感じたからだ。胴体を分断する一閃は残像だけを切り一瞬にして数歩分後退した標的は無傷なまま。

 実戦で研鑽してきた技が服すら切り裂いていない現状にオウレンは目を疑った。



「馬鹿な――!!」



 そう吠えてしまうほどだ。

 たまたま回避できたなんて運が介在する余地がない回避行動。この一太刀で分かってしまう程にオウレンは刀の道を究めてきた。

 天賦と言わしめた才能が決壊する音が聞こえる。居合の速度は疾うに人間の領域を超えていると誰もが認めた。27という若さで武器の実戦ではオウレンの相手になる者はいないと。

 周囲が認めオウレン自身も負ける気がしなかった。だから一つの国に留まらず新たな強敵を探し求めてきたのだ。



 シオンと出会ったのは粗方腕に覚えのある相手を倒した時だった。そう、いつの間にか人を――生ある者を殺すことにどうしようない高揚が湧くのだ。

 命の奪い合いは中毒のような蜜をオウレンに思わせた。命のやり取りでしか見えない真価が確かにある。それはどんな弱者でも己の腕に誇りある者ならば相応の力を以て応えたものだ。



 だからシオンに勧誘を受けた時善行であれ悪行であれ、力を振るうことができるのであれば何も問題はなかった。しかし、やはり面白くはない。相手にするのはチンケな賊や裏でこそこそ動き回る悪役のような権力者。



 シオンのやり方は徹底した情報収集から始まり、自軍の兵とを引き算する卓上の戦闘だ。裏を読んで先を見据える。確実性を重視する意義は十分だ。それを組み立てるシオンの頭脳もまた一級品、しかし戦地でこそ意義を見いだすオウレンにとっては戦略を称賛しても無為な時間を過ごしていると感じていた。



 オウレンは心底気に喰わなかったが、他に行く当てもなかったので一先ずは身を置くことにした。しかし、その当人が捕まってしまえばなんてことはない……頃合いだというようにあっさりと見限ったのだ。

 確かに切れ者ではあったがオウレンからすれば小手先だけの戦い。見出す物は何もなかったのだ。気付けば長いことあの狂ったような……血の滾る戦いをしていなかった。



 もう一度……と願っては見たが気付けば憂さを晴らすように冒険者へとなっている有様。腕に覚えがあるだけでこんな狂人を雇うような好事家はいまい。

 シオンの元へ転がり込む前にしていた傭兵でもやろうと考えていたが、戦争のような大きな戦いは早々起こるようなものじゃない。

 それだったら魔物だろうと何かぶった斬れるほうがいい。



 そう思っていた冒険者もそろそろ退屈になってきていた。

 だから今回も簡単な仕事だろうと以前の仲間を斬ってみようと思いたったが一太刀をかわされる始末だ。



「はっはっはっは……笑えてくるぜ。こんな近くにいたとはな」



 傍にこんな達人がいる。強敵がいる。ただそれだけが可笑しくて滑稽だった。

 だが、ふと以前シオンに剣を教えた時はずぶの素人も同然だったのだ。それでも訓練の成果もあり、少しは見られるようになったが、所詮は素人に毛が生えた程度。



 剣技と向きあって来た自分だからあの時の稽古が遊びでないこともわかる。

 一層深まる疑問、オウレンはそれならばいっそ考えることをやめた。忘れてしまえと。



 今ある現状が全てで、それでいいのだ。



「はあ、これだ」



 ゾクリと肌を逆撫でる感覚はいつ以来だろうか。

 本当に久しぶりだった。体内を巡る血が沸騰していく感覚は、全身に行き渡っていく感覚は。



「どうしたもう終わりか」



 シオンが一歩踏み出し二歩目で止まる。

 すうっと研ぎ澄まされた眼が注がれ、刃が翻った。



 そんな姿――いや、この場合はそんな緊張感というべきだろう。不思議とシオンの身体が浮ついていくのがわかる。

 そのまま身を任せるように周は口で弧を作った。



「強いなオウレン」



 そう発してしまうほどに称賛が込み上げた。

 身体は正直ということなのだろう。今の一太刀も選択できる手段が格段に少なかった。それでもまだ余裕があるのだからシオンの身体は底が知れない。




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