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第二十三話 グアラドラ 中編





──おかえりなさい


 その言葉を聞いた瞬間、オーリンは自らの内にある何かが騒がしく動くのを感じた。衝動的にオーリンの口をついて出ようとした言葉は、ただいまという言葉であった。思いもよらぬ言葉。だけれど、それを何処かで受け入れている自分がいることに、オーリンはさらに戸惑う。


「兄貴、ここに来たことあるのか?」

「いや、……無いはずだ。無いはずだというのに……この胸の奥をくすぐるような感覚は……何だ」


「クインもおかえりなさい。シュザ様も」

「ただいま。ナーニャ姉様」

「やはり様付けはやめては貰えんか。我輩のことも、もっと気軽に呼んで貰いたいものだがね」

 クインやシュザの会話を見て分かるのは、顔見知りのそれであったが、オーリンは何か大切なものが引っかかったままに、何処かに置いていきそうで、言葉の真意を探っていた。

 三人交わしている言葉を聞いてゆくと、クインとナーニャが姉妹であることも伺い知れる。


「シュザ様はシュザ様ですからね。ここで立ち話も何ですから、参りましょうか」

 ナーニャのにこやかな笑顔は眩しく、ただそこに在るだけで、何もかもを許してくれるような、そんな気分にさせてくれた。


 目をしばたかせながら、オーリンはナーニャという女性をまじまじと見つめる。長く伸びた黒髪は後ろで結われ、全身はゆったりとした白いローブに纏われている。翡翠に似た瞳は艶やかであり、彼女の持つ生命力で溢れている。

 クインと初めて出会った時には、穏やかに流れる清流のような柔らかい印象を感じたが、ナーニャの持つそれは、遥か遠い彼方までも包み込むような、大空に似た包容力を想起させる。そして気になる点はもう一つある。


「ナーニャ、さん? なぜ、貴女が俺の名を?」

「ふふ、貴方の中に在る魔導は、かつてはここにありましたから。どれほどの年月が経とうと、グアラドラとの関係が失われることはありません。それはとても特別なことですから」

 ナーニャは未だ呆けた顔をしているオーリンへと、にこりと微笑む。


 ナーニャの言葉を聞いてオーリンは僅かながらに理解する。同時に、自らの内でどんどんと熱くなってゆく胸を押さえる。オーリンの全身に循環している魔導。それが、グアラドラという大地に触れた事で共鳴をしている。故郷への帰郷。それ故の喜び……。


「ヤン導師は……魔導門の中で待っていると俺に言った」

「ヤン導師が……ですか。そうですね、ここの魔導門はグアラドラの奥にあります。みんなも首を長くして待っていますよ」

みんな……?」

「兄貴!」

 浮かんだ疑問を投げかける前に、マシューの声が掛かる。


 草原の向こうにぼんやりとした人影が見える。大人が一人に、その傍をはしゃぐようにかしましく声を上げるのは、幼い二人の子供達であった。まだ遠く離れたオーリン達の居るところにまで、風に乗って無邪気な声が届く。子供達は此方こちらに気付くと、物珍しそうに好奇心の視線を向ける。そしてすぐに、勢いよく走り出す。

「クイン姉だ!」

「シュザ様もいる!」

 顔の造りから、身に着けている衣服まで似通っている子供。双子に見える幼い子供達は、小さな身体に大きな瞳を輝かせながら、バタバタと音を立ててやってくる。年の頃としては十歳くらいか、眩いほどに満ち溢れる活力がちょっとした喧騒を生み出すと、小さな台風を巻き起こす。


「あーっ、ねぇねぇ、フー! 聞いてた通りだ! なぁなぁ、兄ちゃん強いんでしょ?」

「ばっか、エミリオ。あの子たちも言ってただろ、強いに決まってるじゃん。それにクイン姉ちゃんやシュザ様が連れてきたんだから、それはもうめちゃんこだよ」

 オーリンを取り囲むようにぐるぐると回りながら、二人の子供達は互いに身振り手振りで喜怒哀楽を表現する。

「こら! お客様の前でしょ」

「いてっ。なんだよナー姉」

「ナー姉のげんこつ。……痛い」

「もうっ、それはいいからっ。ごめんなさいねオーリン。エミリオとフーが失礼なことを」

「いや、それは大丈夫だ……。なぁ、マシュー」

「あー、まぁ……ねぇ」

 オーリンはその光景に、マシューと顔を見合わせる。

 マシューは普段の自分を思い出してか、少しばつの悪い顔をしている。クインはそれがおかしいのか、笑いをこらえるように口元を押さえる。


 その場所に遅れて一人の人物が追い付く。白い道衣を羽織り、鎧を着込んでいるその恰好は、かつてオーリンが出会ったことのあるサイ導師やヘムグランの恰好と同じで、今隣にいるクインとも同一の物であった。


 よく見ればその人物も若い。十を過ぎて後半に差し掛かるくらいか、丸みの残るあどけない顔立ちは、成熟には少しばかり遠く、十代特有の瑞々しさがある。前髪から覗く瞳は蒼く、髪は明るい茶色。目尻は垂れていて、今の状況が面白いのか、口元からは笑い声が漏れている。


みんなはいつも元気でいいね。はじめまして、オーリンさんにマシューさん。僕はハル・ニストリカ。今からナーニャ姉さんと一緒にグアラドラまでご案内します。そして今日はとてもめでたい記念日です。みんなで楽しくいきましょ」





いつもお読み頂きましてありがとうございます。


次回更新は木曜日夜の予定となります。

『魔導の果てにて、君を待つ 第二十三話 グアラドラ 後編』

乞うご期待!

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