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9話 再会

「勝者「フィオーレ」」


 アナウンスの勝ち名乗りを聞きながら、タマモはなにも言えずに唖然となっていた。


 会場内は騒然となっていた。圧倒的すぎる試合内容だったため、それも聞いたこともないクランである「フィオーレ」がそんな試合を行ったとなれば、騒然となるのも当然のことだ。


「フィオーレ」は完全にノーマークの存在だった。誰がどう見ても正式リリースから始めた初期組だというのは明らかであり、ベータテスターの祭典とも言える今回の「武闘大会」では敗北する側の存在のはず──だった。


 その敗者であるはずの「フィオーレ」が予選一回戦を突破した。それも圧倒的な内容で、ほかのクランたちに一切の行動をさせずに「フィオーレ」は19人のプレイヤーたちを蹂躙したのだった。


 そんなありえないはずの、起こった光景を現実として受け止められないプレイヤーは当の「フィオーレ」のマスターであるタマモも同じであった。


(……ヒナギクさんもレンさんも強いのは知っていましたけれど、ここまで強かったんですね)


 特訓を受けていた頃からわかっていた。いや、最初にふたりの戦いを、ここ「闘技場」であのベータテスター二人組を相手に倒したときからわかっていたことだった。


 だが、そのわかっていたと思っていたことは、実はわかっていなかったことだったのだろう。予選一回戦で戦ったクランたちは、おそらく全員がベータテスターだったと思う。


 そのベータテスター19人をヒナギクとレンは瞬く間に退場させてしまったのだ。あの二人組も含めたら、すでに21人のベータテスターをヒナギクとレンだけで倒したということになる。現時点では、「最強」の呼び声が高いベータテスターをだった。


「とんでもないルーキーがいるもんだ」


 誰かがぽつりと呟いた。その声とその言葉に騒然となっていた会場は、いつのまにか大きな歓声に変わっていた。その歓声はすべて「フィオーレ」へと注がれていく。


 主にヒナギクとレンになのだが、「フィオーレ」のマスターであるタマモにもその声援は注がれていく。なにも言えずただ押し黙るタマモ。


 当のヒナギクとレンは声援にと手を振って応えていた。特にヒナギクへの声援が大きいように思える。


 タマモ自身も見惚れていたことだったが、おそらくは男性プレイヤーはおろか女性プレイヤーでさえもあの舞うような姿には見惚れてしまったことだろう。


 その結果がヒナギクへの声援だった。そんなヒナギクとは裏腹にレンへの声援はいくらか少な目である。それどころか罵声さえ聞こえてくる。


 だいたいの罵声は「このリア充が!」とか「羨ましすぎんぞ、この野郎!」とか「爆発しろぉ!」などの怨嗟の声ばかりである。


 中には「レンさん、カッコいい!」とか「付き合って!」とか「メルアド教えて!」などの肉食系女子の声も大きい。その声がかえって怨嗟の声を増やしてしまっているうえに、ヒナギクの表情が徐々に笑顔へと変わっているのだ。その笑顔にレンの表情が明らかに強張った。


 しかしそのことには観戦していたプレイヤーたちは気付かないまま、それぞれの声援を「フィオーレ」たちへと注いでいった。


「では、これより予選最終試合の準備を始めます。舞台上のプレイヤーは降りてください。最終試合に参加するクランは舞台袖へとお願いします」


 アナウンスの声にタマモたちはそそくさと舞台を降りた。降りる直前に揃って一礼をすると、今度は拍手が聞こえた。その拍手とともに「フィオーレ」の予選一回戦は終了した。


「あっという間でしたね」


 舞台に降りてすぐにタマモはヒナギクとレンに声を掛けた。だが、ヒナギクとレンはすでに二人の世界である。それも羨ましくない意味でだった。


「鼻の下をあーんなに伸ばしちゃってさぁ~」


「の、伸ばしてないっすよ?」


「伸びていましたぁ~。私にはわかるんですぅ~」


「いや、だから、伸びて」


「伸びていましたぁ~」


 ずずい、と顔を近づけながら光のない瞳をレンに向けるヒナギク。そんなヒナギクにレンは涙目になっていた。関係ないはずなのに、タマモもまた涙目になった。ぶっちゃけ怖い。


 しかしそれほどの恐怖を振りまいているはずなのに、ほかのプレイヤーにとってみれば、レンがヒナギクとイチャイチャしているように見えたのだろう。どこからともなく舌打ちが、それこそ無数に聞こえてきたのだ。


 しかし恐怖と戦っているレンとついでにタマモには、そんな舌打ちは聞こえてこない。震えながら、目の前にいるヒナギクという悪鬼と対峙をしていた。そのときだった。


「おや、その愛らしい背中はタマモかえ?」


 不意に後ろから声が聞こえてきた。聞き間違えるはずのない声だった。タマモはどくんと胸を高鳴らせながら振り返った。


「やはりの。いやぁ、ひさしいな、タマモや」


 そこにはフードつきのマントを身に着けたアオイが立っていたのだった。

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