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45話 莉亜への想い

 二時間ほど遅くなりました←汗

 ファーマーたちと農業ギルドの職員たちに見送られながら、タマモはヒナギクとレンが待つ畑へと向かって行く。


 その道すがらもちょうど作業を終えたファーマーたちからも応援してもらえた。なかにはファーマーではないが、タマモ同様に農業ギルドに籍を置くプレイヤーたちからも声援を貰った。ファーマー以外にも応援してくれる人たちがいる。それがタマモには誇らしく思えていた。


(まだゲームを始めて二か月くらいですけど、すごく幸せな二か月だったのです)


 幼なじみであり、家族や早苗たち以外で唯一の理解者だった莉亜。その莉亜の面影を求めて「エターナルカイザーオンライン」を始めたのはちょうど夏が盛りの頃だった。結局まだ莉亜とは再会を果たせていない。だが、莉亜を追い求めて始めたばかりの頃とは、タマモの内面はだいぶ変わっていた。ほんの二か月で人は変われるものだと思うタマモ。


(アリアと会うことを諦めたわけではないですけど、このゲームをしていたらきっと出会うこともあるのです。そのときは胸を張って会えるのです)


 その気になれば、現実でも会うことはできる。タマモ自身はまだ知らないことだが、莉亜は毎日タマモの家に来ている。少し時間をずらすだけで莉亜には会える。だが、そのことを知らないタマモはまだ現実で莉亜に会うということが途方もない高いハードルのように思えていた。


(ボクは勇気もない、ただのヘタレですから。まずはゲーム内でアリアに会うのです。そしてこの「武闘大会」に出れば、それも本戦に出場できれば、きっとアリアの目にも止まるはずなのです)


 初イベントである「武闘大会」は、ほぼすべてのプレイヤーが注目している。時間が合わなかったということがない限りは、どういう形になるにせよ、莉亜も見ているだろう。そうすればいつか会いに来てくれるかもしれない。もしくは連絡をくれるかもしれない。どちらにせよ、莉亜との接点がわずかながらにもできるかもしれないのだ。


(……いままで考えたこともありませんでしたけど、「武闘大会」で頑張れば頑張るほど、アリアに会いやすくなるかもしれないのです)


 いままでは特訓のことばかりを考えていたので、莉亜についてのことを考えるのはこれが初めてだった。考えれば考えるほど、これからの頑張りが莉亜との再会に直結すると思えてくる。いや、実際に直結するのだ。


「アリア」


 最後に会ったのは三月ごろ。まだ桜が満開になる少し前のことだった。あれからもう半年も経っていた。たった半年。だが、その半年間一度も莉亜に会ったことなんていままで一度もなかった。莉亜が風邪を引いて学校を休んだときはお見舞いに行ったし、タマモが風邪を引いたときは莉亜がお見舞いに来てくれたものだ。


「あんたがいないと退屈なのよね。面倒を看なきゃいけないバカがいないと張り合いがないの。だから早く治ってね、まりも」


 風邪の熱でうなされていると莉亜はいつもそう言って手を握ってくれた。タマモの両親はそれぞれに仕事があり、家にいないことが多い。早苗たちメイドたちもやはり仕事がある。それでもメイドたちは仕事の合間に看病してくれたものだ。だが、看病できてもせいぜい十分もあればいい方だった。したがって長時間タマモの看病をできたのは、子供の頃から莉亜だけだった。


 タマモは上流階級に属する玉森家の長女であり跡取りだ。子供の頃から欲しいと思うものは大抵手に入れることはできた。だが、一番欲しかったのは、「本当の友達」だった。友達はそれなりにはいた。しかし大抵はタマモの財力を目当てにしているだけか、親から言われて仲良くしてくれているだけ。その中で莉亜だけは違っていた。タマモに付随する要素を目当てではなく、「玉森まりも」ではなく、「ただのまりも」のそばにずっといてくれた。そうずっとそばにい続けてくれた。どんなときでも莉亜はタマモの一番の理解者だった。その莉亜とつまらないことで疎遠になってしまった。


(子供だったなぁ)


半年前の自分は、見た目通りのようなことを、子供のようなわがままを口にしていた。そのせいで莉亜を失った。「本当の友達」を手放してしまった。


(……いまなら謝れそうです。いまならアリアに、ううん、莉亜に謝れるよね)


 いなくなってしまった莉亜に会いたい。できることならいますぐに。いますぐに謝りたい。バカなことを言ってごめんね、と。傷つけてしまってごめんね、と。頭を下げたい。許してもらえるかはわからないけれど、それでもタマモは、いや、まりもは莉亜に謝りたいと心の底から思っていた。思えるようになっていた。


(そのためにもボクは頑張るのです)


 徐々に近づいてくる小川。その先にいる仲間の元へとタマモは向かって行く。踏み出す一歩はいままでになく力強い。そして胸に宿る想いはとても熱い。


(この熱を、この想いを止められるなら止めてみろ、なのです!)


 厨二臭いなぁ、と思いながらもタマモは小川を超えた。そして──。


「お待たせしました」


 すでに準備を終えていたヒナギクとレンの元へとたどり着いたのだった。

 次回で第二章はおしまいとなります。

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