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11話 喜び勇んだら、お約束が待っている。

 サブタイがとても不吉ですが、まぁ、そういうことです。

「──少し騒がせちゃったね、ごめんなさい」


 しばらくして、レンが立ち直った。立ち直ったが、まだ若干顔が青かった。


「れ、レンさん。大丈夫ですか?」


「……大丈夫だよ。大丈夫だから、あまり聞かないで。フラッシュバックする」


「あ。はい」


 フラッシュバックすると言ったレンはわずかに体をぶるりと震わせた。


 ……相当の恐怖を味わったことが伺える。


 実際タマモも気絶するほどにあのヒナギクは恐ろしかった。


鬼屠女おとめ」の称号はたしかにヒナギクに相応しいものなのだというのがしみじみと理解できた。


 その当のヒナギクは再び「調理」を始めていた。


 よく見ると、ヒナギクの隣には虫系モンスターたちが一列に並んでいる。


 みなひと口分ずつつ、キャベベを貰ってご満悦だった。


(あれってサボりじゃないんですかね?)


 タマモの目から見ても完全にサボりのように見えるのだが、現場監督であるクーみずからがヒナギクの肩に乗って「きゅ、きゅ」と嬉しそうに鳴いている以上、誰も文句は言えない。


 むしろ進んでサボタージュしているのだから、誰が意見を言えるものだろうか。


「……笑っているときれいなんですけどねぇ」


「……うん。笑っていると、ね」


 ははは、と力なく笑うレン。そんなレンにタマモは同情した。


 ヒナギクはたしかに美人さんだが、時折あんな恐ろしくなるとしたら、幼なじみであるレンはいままで何度あんな恐怖体験をしてきたのだろうか。


 ヒナギクの幼なじみというのは、なかなかに苦行だったのだなというのがよくわかった。


「まぁ、ヒナギクのことはいいよ。それよりも、無職か。どうしたものかな?」


「あぅ」


 ヒナギクの話は切り上げ、レンは困ったように腕を組む。


 その際に口にした「無職」という言葉が地味にダメージを与えてくれる。


 まさかゲームの中でもニートになるとは思ってもいなかった。


「そもそもキャラメイクのときだけなんて聞いていないのですよ」


「いや、普通そうじゃない? ほかのネットゲームだって最初に職業を選ぶって多いよ?」


 ぐうの音も出ないことだった。たしかにタマモも以前プレイしていたVRMMOでも最初のキャラメイクの際に、職業の選択をしていた記憶がある。


 ……ほぼまともにプレイしていなかったから、完全に忘却の彼方へと飛んで行ってしまっていたが。


 しかし「EKO」のキャラメイクの際には、職業の選択などは一切表示されていなかったのだ。


 だからゲーム内で選べるものだと思っていたのだが、その機会がなかなか訪れないから「おかしいな」とはタマモも思っていた。


 思っていたのだが、まさかこんな地雷が隠されていたとは考えてもいなかった。


「ちなみに、無職だとダメなんですか?」


「ダメってわけじゃないと思うけれど、ただ職業専用のスキルとかは使えないと──」


「あ、それボク使えますよ? ボクのおたまとフライパンにそれぞれスキルセットできますので」


「……そうだったね。それ見た目は調理器具だけど、完全にチート装備だったもんね。ちょっと見せてもらっていい?」


「もちろんですよ」


 いまさらなことではあるが、タマモのEKは最高ランクのEKであり、その能力はセットできる数に限りはあるが、自由自在にほぼすべてのスキルを組み合わせることできるというものだった。


 それだけでも十分チートと言える性能だが、まだほかに隠された能力はあるだろうとタマモは思っているし、レンも同じ意見のようだった。


「でも、まぁ、使えるのはその職業の専用のものの中でも汎用性のあるものだけみたいだけど。その職業には必須なものだったり、その職業以外では無用のものだったりとかはセットできそうにないね」


 セットできるスキルの一覧を表示させ、一通り確認するとレンが言った。


「汎用性ですか?」


「うん。たとえば、タマちゃんがセットしている「鷹の目」はDexを倍にする効果があるよね?」


「はい。おかげで生産にとっても助かっています」


 生産活動にはDexの数値が直結していることもあり、タマモは「鷹の目」を外したことがない。それにDexの数値を倍にするというのは、腐る場面が一切ないのでかなり有用な効果だった。


「それと同じような効果がほかの一次職にもあるんだよ。たとえば、俺の「剣士」なら「名剣」と言うのがあるんだけど、効果は一時的にDexとAglの数値を1.5倍にするんだよ」


「へぇ、2つのステータスの数値が」


「その分「鷹の目」ほどの上昇量ではないけどね」


「ボクも使えますかね? えっと、あ、ありました!」


 レンが教えてくれたスキル「名剣」は、セットスキルの一覧に載っていた。即座にセットし、「鷹の目」と同時に使用できるかを確かめると、問題なく使用できた。


「Dexが14になりました」


「へぇ。同時使用できるんだね。でも14ってことは、加算処理ってことか」


「みたいですね」


 Dexを2倍にする「鷹の目」と1.5倍にする「名剣」──。


 ステータスに影響を与えるスキルは軒並み加算処理になってしまうようだ。


 もっとも同時使用できるだけでも十分有用なのだから、これ以上を求めたら完全に壊れになるので致し方ない。


「話は戻るけど、「鷹の目」や「名剣」みたく、戦闘以外にも使えるスキルを汎用スキルというんだ。逆に戦闘以外は使用できないものは専用スキルと言われているんだ。剣士なら「剣擊強化」でハンターなら「精密射撃」とかだね」


 補足をすると剣士の「剣擊強化」は名の通り剣での攻撃の威力を高めるもので、ハンターの「精密射撃」は弓での攻撃でクリティカルの確率が跳ね上がるというものだった。


 どちらもほかの職業でも習得はできる。しかし剣士やハンター系統でなければ、スキルレベルがアップしないので、実質専用スキルとなっていた。


 そのほかの職業でも習得はできてもその職業でなければ効果の上昇は見込めないスキル群は専用スキルと言われていた。


「むぅ。似たようなスキルはありますけど、専用スキルはたしかにないのです」


 スキル一覧を見ても、レンが言ったスキルはたしかに存在していない。


「斬擊強化」という「剣擊強化」に近いものはあるのだが、レン曰く上昇量が段違いらしい。


 斬撃は「斬る」という行為自体に補正値が乗るため、剣だけではなく、斧やそれこそハサミや包丁にまで適応される。その分上昇率は抑えめである。


 逆に「剣撃強化」は剣での攻撃に特化している分、補正値は大きくなる。


「まぁ、凡庸スキルがそれだけあれば、いろいろと応用が──ん?」


 タマモのステータスを覗いていたレンが訝しむような顔をしていた。なんだろうとタマモが思っているとレンはおもむろにタマモの種族欄を指差した。


「ねぇ、タマちゃん? タマちゃんの種族欄、おかしくない?」


「なにがです?」


「なんかクリックできそうなんだけど?」


「え?」


 レンに言われた通り、よく見るとカーソルが合った。本当にクリックできそうだった。なんだろうと思いつつ、クリックすると──。


「剣士、戦士、魔導師、狩人、料理人……」


 ──なんか出た。


 もとい、一次職だけだが、職業が表示されていく。


 そしてその隣にはEKにあるような、スキルをセットするためのような空欄が3つあった。


「……もしかしてタマちゃんって、タマちゃんのアバターって複数の職業を選べるのかな?」


「……かもしれないです」


 実際に試したところ、剣士と狩人、そして料理人をセットできた。そしてスキル欄には「剣擊強化」と「精密射撃」に、「味覚強化」の3つの専用スキルが新しく生えていた。


「なんだそれ?」


 レンはがっくりと肩を落とした。


 無職だと思っていたのに、まさかすべての職を選べるようになるとは考えてもいなかった。


 そんなレンとは対照的に「これでよりナビアバターが言っていた、「最強」という言葉が現実味になった」とタマモは思った。三本ある尻尾が自動的に動いていくのがわかる。


「……ちょっと「鑑定」してみようか」


「あ、そうですね。試しにしてみましょう」


 思えば、自分自身に「鑑定」をしてもらったことはなかったのだ。


 レンはだいぶ疲れているようだっだが、もうこれ以上の爆弾が出てほしくないと思っているのか、あきらめた様子で「鑑定」を使ってくれた。どんな結果になるだろうと胸をときめかせていたタマモだったが──。


「……え? 経験値通常の3倍必要?」


 レンが漏らした一言で現実に引き戻らされてしまった。


 レンの後ろに回り、鑑定結果を見ると──。


 金毛の妖狐 最強の妖狐となれるが、成長には通常の妖狐よりも3倍の経験値が必要となる。


 ──という無慈悲な一言が書かれていた。

 徹底的にタマモに対しては鬼畜な運営でした。


 P.S.計算間違いをしていたので、一部の文章に手を加えました。意味わからない計算をしてしまい、申し訳ありません←汗

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