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1話 初めての仲間

 更新再開です。

 二章の一話目は途中までは問題ないですが、途中から、ね←苦笑

 まぶたを開くと、見慣れた天井だった。


 まりもはVRメットを外しながら、ゆっくりと体を起こす。


 ぼんやりと壁を眺めながら、再び後ろへと倒れ込んだ。


 ぽすんと柔らかな音を立てながら、ベッドが全身を包み込んでくれる。


 まりもは頭の下にあった枕を無意識に抱き締めると、ぽつりと呟いた。


「……仲間、ですかぁ」


 頭に浮かぶのはほんの少し前まで一緒にいた「仲間」であるレンとヒナギクのことだ。


 まさか生産仲間であるデントに食い掛かるとは思っていなかったが、本気でまりもを「仲間」だと考えてくれている証拠だった。


「……アリア以外で初めてなのです」


 まりもは自身が人見知りであると思っている。


 実際いままで学校という空間以外では、家族以外で心を開いたのは幼なじみの莉亜しかいなかった。


 ……一名例外はいるけれど、親戚であるから家族の括りとして入れても問題ない、はずだ。


 とにかく、まりもにとって胸襟を開いて話せる相手というのは、家族以外では莉亜しかいなかった。


 休日でも遊ぶのは莉亜とだけ。莉亜がほかの友人と用事が入っているときは、思う存分部屋の中に閉じこもり、大好きなアニメやライトノベルないしは漫画やゲームに浸っていた。


 しかしそんなまりもの気質を理解している莉亜だから、ほかの友人との用事だというのにも関わらず、無理やり連行してくるのだから困ったものだった。


 ……中には学校でも人気者だった莉亜とデートするために気合を入れていた男子との待ち合わせに連れて行かれてしまったこともある。


 あのときは男子ともども気まずかった。


 相手の男子としては莉亜とのデートのはずなのに、なぜかまりもが付属しているのだから。戸惑うのも無理はない。


 そしてそれをわかったうえで莉亜はまりもを引っ張ってきたのだから、確信犯としか言いようがない。


 待ち合わせの相手が複数の女子であれば歓迎はされていたが、男子相手だととたんに変わってしまうのだ。


 やはり男はケダモノであると思う。


 そんなケダモノどもに莉亜を渡す気などまりもには毛頭ないので、莉亜のデートを潰す手伝いをするのは大いに歓迎した。


 もっともその後にデートを潰された男子たちからは、恨めしい目で見つめてきたものだったが、まりもにはさほど気にはしなかった。


 莉亜を欲するのであれば、まず自分という障壁を乗り越えていけと思っていたからだ。


 そしてその障壁を乗り越えた勇者はいなかったのである。


 だから恨まれたとしても、それはお門違いとしか言いようがない。


 第一莉亜自身乗り気ではないからこそ、まりもを連行したのである。


 そのことに気付かないケダモノなど問題外としか言いようがない。


「……アリア」


 いままでまりもには莉亜しかいなかった。莉亜だけがまりもにとっての支えだった。


「ボクにはアリアがいる。後ろにアリアがいてくれる」


 言葉にすればたったそれだけのこと。


 しかしそれだけのことがまりもを、「玉森まりも」にしてくれていた。「完全無欠の姫」にしてくれていた。


 莉亜がいれば、莉亜さえいてくれれば、なんだってできるし、してみせると思っていた。


 そう、莉亜さえいてくれれば。


「……アリアぁ」


 涙がほろりとこぼれていく。


 一度こぼれた涙は止めどなく溢れていく。


 大切な友達だった莉亜。その莉亜はいまはそばにいない。後ろにもいない。左右を見回しても、正面をどれほど見つめようとそこに莉亜はいなかった。どこにも莉亜はいない。


 庇護下から出た雛鳥の気分だ。


 莉亜がいないだけで、こんなにも心細い。こんなにも悲しい。こんなにも胸が痛い。


「ごめん。ごめんね、アリアぁ」


 気づいたときには、莉亜に謝っていた。あんなにもわからなかった謝罪が、すんなりとできてしまった。そしてその謝罪を莉亜は扉越しに聞いていた。


(……本当に効き目抜群だったなぁ)


 まりもは莉亜が扉の向こうにいることは知らない。


 莉亜の隣で扉に寄りかかっている早苗が首を振っているので、早苗は本当にまりもには伝えていなかったようだ。


「……まりものこと、大切にしているんじゃないんですか?」


 小声で早苗に尋ねると、早苗は意地の悪そうな笑みを浮かべた。


「お嬢様にはいいお薬ですから。大切なものほど、すぐになくしちゃうんです。物であれば買い直せばいいですが、人はそう簡単にはいかない。あたりまえであってあたりまえとは思われないことを知るにはいい機会でしたので」


 ふふふと早苗は笑った。提案した莉亜も莉亜であるが、それを受けた早苗も早苗だ。


「……早苗さんって本当に意地悪ですね」


「あら、いまさらお気づきで?」


「いいえ。子供の頃から知っていますよ」


「であればおわかりですよね? 私にとって、まりもお嬢様以上に優先すべきことなどなにもない、ということが」


 早苗は笑顔で言いきった。それが早苗にとっての忠誠の証なのか、それとも別の要因によるものなのかは莉亜にはわからなかった。わからないが、まりもを害するものではないことだけはわかっていた。


「……じゃあ私は仲直りしますね。「害悪」だと判断される前に」


「ふふふ、まさか。莉亜様はまりもお嬢様になくてはならない方ですから。害悪になどなりませんよ。いままでも、そしてこれからも」


 早苗は笑っていた。目をすっと細めながら。


 細められた目からはなんの温度も感じられない。昔から時折早苗にはこういう目を向けられることがあった。そのたびに背筋が寒くなったものだ。


 とはいえさすがに慣れた。慣れたが、いくら慣れたところで恐ろしいものは恐ろしい。


 しかし、その恐怖に顔を染めるつもりは子供の頃からなかった。だからいくら脅されようが恐怖に怯えるつもりはない。


「……念押しで脅さなくても害悪にはなりませんから」


「ですね。莉亜様はそうならないと信じておりますゆえ」


 ふふふと早苗は笑った。普段通りの早苗の笑み。まりもに向けられる笑み。まりもはこの笑顔しか知らない。


 まりもの友達が莉亜だけなのは、早苗の笑顔に耐えられたのが莉亜しかいなかったからだが、そのことをまりもは知らない。知ることもない。


「それじゃあ、そろそろ──」


 莉亜は寄りかかっていた扉から背を離し、扉越しからまりもに声を掛けようとした、そのとき。


 ──タタター、タタタタター、タタター、タタタタター。


 扉越しから、まりもの大好きなシリーズの、某隠れんぼと書いてステルスと読むシリーズの疾走感溢れるBGMが流れてくる。


 それはまりものスマートフォンの着信音だった。ちなみにまりもの自作である。才能の無駄遣いと言った記憶は新しい。


「……あいつ、相変わらず好きなんですね?」


「ええ、それはもう。時折私たちの控え室のロッカーに忍びこまれますからね」


「……」 


 早苗の頬が赤く染まる。それがどういう理由からのものなのか、そしてロッカーに忍びこんでまりもがなにをしているのかはあえて考えないことにした。


「誰かから電話があったみたいなので、後にします」


「それがよろしいかと」


 ニコニコと早苗が笑う。笑うのだが、その笑顔がやけに迫力がある。


 そもそもまりもに電話をする相手など、家族と莉亜以外にはひとりしかいなかった。


(あの子も本当にまりものことが好きだよねぇ。……あのバカ、不意討ちで素を出さなきゃいいんだけど)


 どうなることやら。莉亜は扉に再び寄りかかりながら、若干の胸騒ぎを感じていた。

 わりと病んでる人に好かれやすいタマモでした。

 やっぱりメイドさんは病んでこそだと思うのです←

 次回は明日の正午となります。

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