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14話 目指せ、庭付き一戸建ての道!

 サブタイがさっそくぶっ飛んでいますが、タマモらしい理由となります。

 初ログインから一週間が経った。


 タマモは今日も依頼された小川の先の荒地にいた。いや、すでに荒地とは言えない。なにせ一週間の成果が目の前には存在しているのだから。


「ふふふ、やってやりましたよ。ついにボクはやり遂げたのですよ!」


 思わず、「笑いの三段活用」をしそうなほどのテンションでタマモは不敵に笑っていた。タマモの目の前には一週間の成果である畑が存在していた。


 名称 畑 ランク1 効果 低級の野菜を育てられる畑。土は固く栄養もまばらではあるが、一応野菜を育てることはできる。


 目の前の畑を「鑑定」した結果はお世辞にも最高とは言えない。


 実際土は固い。小川の向こう側にある畑と比べると、ふかふかの土の畑と比べると悲しくなるレベルではあるが、それでもこの畑をタマモはひとりで耕したのである。


「初心者にしては上出来だと思うのです」


 胸を張れることではない。畑と言っても、どうにか畑と呼べる程度のものでしかない。この畑で作物を植えてもきっと大した作物は育たない。ゆえに胸を張れることではない。


 だが、自分一人でこの畑を作った。むろんネットを最大限に活用した。


 石灰や腐葉土等の土の栄養源となるものは欲しかったが、さすがに農業ギルドに貰うわけにはいかなかった。


 どちらも農業ギルド内の売店で販売しているものではあったが、それをただでくれとは言えない。


 一応腐葉土であれば、心当たりはあった。


 というか、腐葉土にするための材料はあった。木々を伐採するために出た枝葉はあった。


 半分くらいは食べられてしまっていたが、それでも半分は残っていた。その残った半分の枝葉は枝と葉で選別して、畑の近くに掘った穴の中に放り込んである。


 自家製の腐葉土となるには、かなり時間はかかるだろうが、いずれは用意できるはずだ。


 腐葉土を自家製で作るよりも買った方が速いとは思うが、ここまで自分だけの力で作ってきたのだから、腐葉土も手製のものを使いたかった。


 しかし頼りの掲示板でも、ゲーム内で腐葉土がどうすればできるかまではわからないようだった。


 というよりもまだ手製で腐葉土を作るという段階にまで至っているファーマーがいないのだ。


 つまりは先駆者としてひとりで頑張るしかない。


 もっとも生産関係の掲示板内では、みんな協力的なのは気にかかるが、大したことではないだろうとタマモは放っていた。


 いまはネットで調べたことやTVのバラエティー番組で見た内容を試してはいる。その方法が穴を掘って、その中に選別した葉を放ることだった。


幸いなことにこのあたりの木は広葉樹だけだったため、腐葉土に適していた。


 これが針葉樹だけだったら、広葉樹を見つけるところから始めなければならなかったので面倒だった。


「もしかしたらこの雑木林の中に腐葉土はあるかもしれないですけど」


 店売りしているような腐葉土ではなく、天然の腐葉土、らしきものは探せばあるのかもしれない。


 しかし雑木林はなかなかに広く、そして鬱蒼としていて、ひとりではなかなか奥まで入る勇気がなかった。


 仮にあったとしても、イベントリにどこまで入れることができるのかがわからない。そもそも天然の腐葉土を手に入れること自体がわからなかった。


 であれば自分で作るのが一番手っ取り早い。


 ただ発酵させるまでには少々時間がかかりそうだ。


 このあたりの土にミミズがいないようだった。


 ミミズは発酵させるのを手伝ってくれるのだが、そのミミズがいないのであれば、自然に発酵するのを待つしかなかった。


 日に一回水をかけているが、なかなか発酵してくれそうにはない。


 水はなんとなく掛けているだけだが、もしかしたら間違っているかもしれないが、それならそれでいい。とにかく諦める気はタマモには毛頭なかった。


「少しずつでいいのです。少しずつ前に進めればそれでいいのです」


 時間はかかったとしても、最終的に形を為せるのであればそれでいい。


 攻略組と言われるプレイヤーたちから見れば、まさに遊んでいるような状況ではあるが、これは現実ではなくゲームの世界なのだから、ゲームを楽しむために全力を尽くすことのなにが悪いというのだろうか。


「それにボクはひとりじゃないのです」


 作業もひと段落した。おそらくはそろそろ来るはずだと周囲を見渡していると、不意に後方からガサリという音が聞こえてきた。


「おー、来ましたね、クー」


 振り返ると以前からたびたび見かけていたクロウラーがいた。


 愛着を持ってしまったため、タマモは「クー」という名前を付けていた。


 由来は種族名を縮めただけである。もっともクー自身がその名前を気に入っているかはわからない。


 時折反応はするくらいだが、これと言ったアクションをクーからしてくれたことはなかった。


 そのうちほかのクロウラーと区別がつくようにリボンとかスカーフでも巻きたいところだが、それを買うためのお金もない現在では、当分先のことになりそうだ。


「それでは今日も葉っぱを食べて手伝ってくださいね」


「きゅー」


 畑から逸れてタマモは雑木林にと近づいていく。


 クーもその後を追うようにしてうねうねと移動していた。


 タマモはいまも雑木林の木を伐採していた。というのも開墾をするためではなく、別のものを作ろうと考えたからだった。


「目標は庭付き一戸建てのログハウスです!」


 生産職であるカーペンター(大工)がいたら、「おまえはなにを言っているんだ?」と言いたくなることではあるのだが、現在のタマモの目標は腐葉土作りと並行して、一戸建てのログハウス作りだった。


 畑のために木を伐採はしたが、その木を徒に放っておくのはなんとも具合が悪い。ただの自然破壊と言う風に見えてしまったのだ。


 だからこそ伐採した木の有効活用はなにかないかと考えたとき、思いついたのがログハウスを作ることだった。


 木造住宅を作るには木を乾燥させる必要があるのだが、そこはさすがにゲームだから、伐採した木はすぐに材料として利用可能となる。


 それは住宅の材料以外にも木工品でも同じことが言える。


 現実同様に木を乾燥させるのに何年も掛かっていたら、ウッドワーカーたちは数年先まで役立たずと言われかねないので、当然の措置とも言える。


 とにかく木材の入手は容易だが、それでも数は多いことに越したことはない。


 もっとも人手が足りないため、まだ木を伐採することと地ならしを並行して行っていた。


 それでも十分なほどにタマモはゲームを楽しんでいる。


 親から与えられるのではなく、みずから作り出す。その楽しさをタマモは感じていた。


「ふふふ、いつかアオイさんをお招きできるようにするのですよ!」


 だが一番の原動力はアオイとの一夜を過ごすためである。


 一夜と言っても変なことをすることわけではなく、ただ時間が許す限り、ログハウスの中でお話ができればいいなという程度のことだった。


 仮にアオイを招くことができなかったとしても、ログハウスができれば農業ギルド内の部屋で寝泊まりするのではなく、ホームとして利用できるかもしれない。そのためにもログハウス作りも並行して頑張ることに決めたである。


「さぁさぁ、残り時間も頑張りますよ、クー!」


「きゅー」


 相変わらず「きゅー」としか鳴いてくれないが、タマモには「頑張れ」と言われているように思えていた。頑張りますよぉと声を上げながら、タマモは元気に「大樹斬り」と叫ぶのだった。

 ブレつつも、芯はブレないタマモでした。

 続きは明日の正午になります。

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[一言] 腐「葉」土が欲しいのに「葉」を全部食べさせるのか...
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