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25 若江の戦い(粉砕)

-玉串川(菱江川)対岸に敵、伏兵有りっ!-

-我が軍先鋒、庵原(いはら)朝昌(ともまさ)様、敵と接触、苦戦の模様-

-て、敵は後藤又兵衛!後藤又兵衛なり~~-


「な、なに、大坂方が迎撃に出てきている?だと………」


-庵原隊、立て直せません、突破されますっ!-

-く、くるぞ、後藤又兵衛つっこんできますっ!-


「い、いかん、康実(やすざね)!(中野康実)左右脇備えの木俣(きまた)守勝(もりかつ)近藤(こんどう)秀用(ひでもち)を急ぎ川沿いに展開!横陣を作り対峙(たいじ)させろ。大坂方が迎撃に出張ってきたようだ!」

「間に合いません!、しかも直孝(井伊直孝)様!あれは迎撃ではなく、逆撃ですぞっ!すでに後藤又兵衛は川に突入して居ますっ!」

「なに?逆撃だ?」


-庵原隊壊滅!後藤又兵衛が此方岸を上がってきます!-

-後藤又兵衛、我が本陣に間もなく突入!-


「直孝様っ!」

「くっ、仕方ない……ここは撤退……」

「何を呑気な!逃げますぞっ、さあ、早くっ!」

「に、逃げ……る…だと……」

「逃げるのです!それとも又兵衛と一騎打ちでもなさいますかっ!」

「わ、判った。どっちだ?」

「南に逃げては迷いましょう。村も多く点在しており落ち武者狩りも…。北東ですな。大和側沿いに深野池を回り込み京へ走れば道に迷わず、水も確保出来ます。」

「京へ………か。」

「さあ、できるだけ身軽にして走りますぞ。」

「ああ。しかし無念だ。後藤又兵衛とはいえ、こうも一方的に………」

「又兵衛だけでは有りませぬ。六文銭も見受けました。後続に真田幸村も居る筈。」

「なに!又兵衛に幸村だと!それでは一万近くは居るか………六千程の我が軍では敗れて当然か………」

「はい。されば此処での敗走も恥じる事は御座らん。直ちに出立致しましょう。」


/////////////////////////


-このような様子で慌てて深野池目指して退去して御座います、秀頼様-


戦地に散らしてあった伊賀者の報告が次々と届く。


「そうか、逃げたか。井伊直孝にも良い家臣がついているな。そのまま今暫し踏みとどまって居れば又兵衛がついでに討ち取って居たであろうが………。」

「追撃の一手を差し向けますか?」

「無用だろう。秀範(仙石秀範)は井伊直孝を討ち取っておきたいか?」

「特には………。」


頷いて


「儂も特段、井伊直孝には興味も無い。それにできるだけこのまま突き進みたい。北東に逃げるなら放置で良かろう。」


とは言ったが、幕府軍総先鋒である井伊勢の当主である直孝を討ち取って世に喧伝できれば、幕府側の士気を大きく挫くことが出来たのだが………。北………北には………だがそれは望みすぎというものか。


「では又兵衛達は今頃は井伊勢を打ち捨て、第二陣の松平忠直勢へ突入を始めているのだな?」


-松平忠直勢と、その南側に進出しつつある藤堂高虎勢の右備え、藤堂良勝勢も射程に入る模様-


藤堂高虎の軍勢はこの若江方面と長宗我部盛親が配置についている八尾方面の中程に出てきているのだな。そのため、右翼が後藤又兵衛と接触しかけている………そうか!そこまで読んで真田は又兵衛の僅かに右後ろを進撃しているのか!


「秀頼様。我が第二陣の木村重成殿、塙直之殿の隊も玉串川(菱江川)を渡りきりましたぞ。」

「よし、第三陣の浅井井頼、野々村幸成、中島氏種、の三隊の渡河を待って我らもすぐに追撃だ。」


第三陣は、中央に嵌り込んだ浅井井頼の隊を挟むように、本陣両脇の備えだった野々村幸成・中島氏種の隊が前進して三隊並列のちょっとした横陣になっている。恐らく後続の本陣に間違っても敵兵が接触しないようにとの配慮なのだろう。


-後藤又兵衛様、松平忠直勢に突入!-

-真田幸村様、藤堂良勝勢と接触するも、藤堂勢戦意乏しく撤退の模様。真田様は藤堂勢を無視して直進!-


次々と引きも切らず連続して知らせが届く。


-後藤又兵衛隊、松平忠直勢の先鋒、多賀谷泰経隊に突入、混戦の模様!-

-真田幸村様、多賀谷泰経隊の左翼より突入、多賀谷泰経隊乱れます!-


上手い……期せずして波状攻撃の形を造ったか。松平忠直勢約一万五千と言えども先鋒はせいぜいが五千だろう。後藤又兵衛隊単独なら支えられようが、脇からさらに幸村の強襲を受けては耐えられまい。


そうこうするうちにも、本陣部隊も玉串川(菱江川)を渡り終える。我々も早く追いついて隙間を作らないようにせねばならぬ。


-多賀谷泰経隊になにか異変があった模様、(にわか)に崩れます!-

-多賀谷泰経隊!潰走!急に潰走し始めました!-


真田に押し潰されのではなく、潰走?もしや………


-た、多賀谷泰経討ち死に!敵先鋒大将多賀谷泰経を後藤隊が乱戦の中、打ち取りました~!-

-多賀谷泰経隊四散して消滅!、多賀谷泰経隊消滅ですっ!-


やったかっ。多賀谷氏は越前松平家の宿将だ。だが、結城秀康時代以来の歴戦の多賀谷三経はすでに亡く、代替わりして泰経になっている。戦国乱世未経験の泰経では後藤又兵衛・真田幸村の猛撃を凌ぐには無理が有りすぎたようだ。だが、多賀谷家は結城秀康が関東結城家に入って以来の重臣の家系だから討ち死にの衝撃は大きいぞ!


-木村重成様、塙直之様、急進して松平忠直勢の左右備えに突入します!-.

-後藤又兵衛隊、突撃再開!松平忠直勢中軍に突っ込みますっ!-

-真田幸村様、後藤隊の右後方を並走!松平忠直勢中軍の左脇に回り込む構えっ-


皆動きが早いっ!


「秀範(仙石秀範)!我が本陣も遅れてはならぬ、歩を早めるぞ!」

「承知っ!速足(はやあし)!速足で前進だっ!」


うずうずしていたのか、本陣の将兵も号令一下、急速前進を始める。もう、この勢いは止まらないな………


-松平忠直勢中軍撤退します!、後軍を殿(しんがり)に残し北西方向に離脱する模様-

-松平忠直勢後軍、円陣を組み死守する構え-

-お味方、松平忠直勢後軍を半包囲、殲滅戦に入りますっ!-


松平忠直も北西に逃げたか。そうか、真田は敗残兵の逃げ道を北西に限定する狙いもあって、あの位置取りをしていたのか。南西に逃げられ再編されて八尾や道明寺付近の戦線に割り込まれると厄介だからな。


-松平忠直勢後軍粘ります!-

-真田様、敵左をすりぬけ、直進!-

-後藤又兵衛隊、真田隊の後方を追随、松平忠直勢後軍は木村重成様、塙直之様に任せる模様-

-浅井井頼様、前進して松平忠直勢後軍の正面に突入します!-

-野々村幸成様、中島氏種様、松平忠直勢後軍の両側面に進出!木村重成様、塙直之様と入れ替わりますっ!-

-木村重成様、塙直之様、松平忠直勢後軍を放置して、後藤又兵衛様を追いかけましたっ!-

-北方、松平忠直勢の右遠くに位置していた丹羽長重・榊原康勝の小勢、北西に撤退してゆきます!-


見事だ………皆何も指示せずともこの戦の戦術展開を理解してひたすら前に進み敵陣を刳り抜いてゆく………

松平忠直勢後軍の壊滅は時間の問題だろう。真田幸村達はそろそろ生駒山の麓近くに到達する頃だが、幕府方も異変に気付き、誰かが抑えに出張ってきている可能性が有るが………付近に展開している敵将でそこそこの兵力を抱えている者となると………


-真田幸村様、吉田川を前に停止、横陣展開しますっ!-

-後藤又兵衛様、真田様の左に到着、横陣展開っ!-

-真田・後藤両隊正面に、佐竹義宣・蜂須賀至鎮の両隊、約一万二千有りっ!-


佐竹はともかく、蜂須賀至鎮が居たか………領国も四国の阿波で近く、ざっと一万は動員してきているだろう。連戦で疲労が蓄積している後藤・真田は勝ちきれぬと判断して進撃を停止したようだ。


「秀頼様………」

「うむ。秀範(仙石秀範)、戦線を整理にかかれ。この方面の戦いは此処までのようだ。遠く北に遊撃にでている渡辺糺の部隊への繋も忘れるな。」


-松平忠直勢後軍、消滅しました。敗残兵の収容にかかります。-


敗残兵………そうだ!


「待て、その敗残兵を利用するぞ。」






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