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21 軍船建造計画

大阪方が急速に戦支度を整えていく最中、兵の調練を見守る俺(秀頼)に重成から声が掛かる。


「秀頼様、淡輪様がお願いが有るとの事で御座います。」

「淡輪殿が………よし、此処ですぐに会おう。お通ししてくれ。」


程なく淡輪重政がやってくる。すでに水軍大将の顔に戻ったのか、やや赤みが差した顔は海上での日焼けのようだ。


「淡輪殿、この数日でずいぶんと精悍なお顔になられましたな。」

「如何にも。造船となれば、屋内でじっとなどしておれませぬ。連日土佐堀砦の秘密造船所に出向き、まずは関船の建造にかかっておりまする。」

「如何にも、そうでありましょうな。で、この秀頼になにか出来る事が有ると?」

「はい。秀頼様には、島津様に掛け合って戴きたく。」

「………ほう?島津殿に………。」

「現在我らは土佐堀砦に新たに設けた造船所で豊臣水軍を再建しつつありますが、将来冬の陣のような包囲を大阪城が受けた場合、冬の陣同様に土佐堀砦は維持できぬと思いまする。」


冬の陣では総構えの外にある、博労渕砦、船場南方砦、木津川口砦は攻め落とされ、他の土佐堀砦と阿波座砦は放棄せざるを得なかった。大阪城と直接連結されていない孤塁では保たないのだ。


「ふむ。淡輪殿の申される通り、維持は難しいでしょうな………。」

「はい。その時完成している関船なら海上に逃がし、西国の友好的な外様大名の港に退避できますが、建造に時間が必要な南蛮船は未完成で奪われかねませぬ。」

「なるほど、やっとこの秀頼にも見えてきましたぞ。南蛮船の建造は徳川幕府が絶対手を出せぬ薩摩や大隅の港で建造したい………そういう事ですな。」

「はい。島津様は本質的に江戸幕府とは相いれぬお立場。冬の陣での兵糧搬入にも便宜を戴いておる事ですし、なにより、島津様自身も南蛮船をお求めで御座いましょう。」

「うむ。島津殿が積載量の多い南蛮船を運用するならば、西国を発展させたい儂の構想にも合致する。なにより、太い補給路が九州と大阪の間に生まれる。薩摩や大隅で建造するなら1隻づつ急いで造るのではなく、数隻をまとめて建造にかかれるので建造効率も良い………。お見事ですぞ淡輪殿。」


面目を施した淡輪重政が面映ゆそうな顔をしている。しかし、そうか。造船所までは気が回っていなかったな。戦略的な考察はできても、こういった現場に即した戦術的な問題となると、やはり歴戦の経験者には敵わぬ。独り善がりにならぬよう注意せねば。

書院に戻り、島津忠恒殿へ書面を(したた)める。


「さて………依頼するは良いが何処が良かろうか。大阪との距離も考慮すれば薩摩よりも大隅に利が有る。大隅なら志布志か。志布志なら平安の世から開かれた港町で人口も多い。南蛮船建造の人手の面でも有利だな。志布志に南蛮船建造の船台………いや待てよ、いっそ1つぐらいはドックも造るか。ドックがないと修理や整備の問題が出る。ドック1基、船台5つで並行して6隻建造すれば十分だろう。」


具体的な依頼内容を煮詰めつつ文面を造ってゆく。


「今、島津殿は領内の仕置に苦労されていると聞く。造船特需で景気が良くなればそれも解決するだろう………これも書き加えて………と。それから………将来島津氏が独自の水軍を再建する場合には船台をそのまま利用されたし………と。うむ。双方ともに利のある取引だな。これで良し。」


手紙を蝋で封じて花押で書き判を施す。


「!藤内!居るや!」

「藤内、御前に………。」

「この文を薩摩の島津忠恒殿へ。」

「御意。」

「それから………」

「?」

「良かったのか?八丈島は百地保武殿で。」

「元より、その積りにて。なまじ我らがお迎えに上がれば、昔の夢を追い続ける愚か者が独断で動いたと判断されかねませぬ。縁もゆかりも無い百地殿が行かれたならば、必ずや世の異変を察知され秀家様は起たれましょう。」

「ふむ。成る程のう………。百地殿のほうが話が早いか………。」


服部藤内が僅かに頷く。


「………どうした?なにか言いたそうだな。遠慮はいらぬ。未確定の噂の類でも遠慮せず申せ。」

「されば………。幕府軍の立ち上がりが遅れ気味に見受けられまする。」

「ほう、遅れていると感じたか。理由は?推察で良い。」

「やはり、兵糧に苦慮しているのでは………と。」

「それは、淀屋?か。」

「定かではありませぬが。」


淀屋とて露骨に幕府の足を引っ張っていると取られては不味かろう。ならば、伝手のある商人こぞって前金決済を根回ししたはずだ。前年の冬の陣での借財の返済もままならぬ中、前金決済を求められては幕府も動くに動けぬだろう。兵糧を上方で現地調達出来ぬとなると、領内各地から米を掻き集めねばならぬ。成る程、幕府軍主力の来寇は2週間は史実より遅れる見込みとなろうか。ふふ、これでより安全に藤堂や伊井を叩きやすく成ったな。


「念の為尋ねるが、井伊や藤堂は先発して居るのであろう?」

「御意。先鋒たる彼ら両名は予定通り出立しておりまする。」


関ヶ原でも抜け駆けした連中だ。本隊の遅れなど気にもせず、むしろ武功を挙げる良い機会ぐらいにしか考えて居るまいて。ならば、真田と又兵衛の追撃は予定より深めでも問題ないか。問題は現場で儂の目が届かぬ長宗我部殿。藤堂への逆撃をどこまで行うか?だが………。


「殿?」

「あ。いや、すまぬな。つい先のことを考え込んでしまう悪い癖が出た。儂の目が届かぬ戦場など、その戦場を任せた武将に一任するしか無いと云うのにのう。」

「殿はお優しゅう御座いまする故。」

「この年で老婆心が頻出するようでは、将来非常に面倒くさい主君に成ってしまいそうじゃ、はっはっつはっ。」


藤内は平伏したまま黙っている。だいぶ打ち解けてきたようにも思うが………さて、念の為頼んでおくか。


「老婆心ついでだ。この際頼んでおくか。金剛山の十三峠から河内へ至る地形を調べて長宗我部殿に伝えておいてくれぬか。」

「地形をお伝え致すだけで宜しいので?」

「うむ。その情報を如何様に用いるも用いぬも、長宗我部殿の胸先三寸。全ては長宗我部殿にお預け致す。」

「御意に。」

「此度の藤内の働きは流石と唸らせるものがあった。これからも未確定情報は未確定なりで良い、伝えてもらえると有り難い。」

「ははっ。」


手文庫から天正大判を1枚、藤内に渡す。


「地方では使いにくい天正大判。だが、ならばこそ、この大坂では泊が付く。そなたの手の者が大坂に集いし居りに城下での息抜きに用いるが良かろう。それを見せれば誰もそなた達を蔑む事は無かろう。」

「これは………お心遣い………………肝に刻み込みまする。」


大判を受取り、藤内が消える。

忍びか。忍びと言えば、何故に豊臣家ではコレと言った忍びを抱えて居なかったのだろう。他の有名処の大名家のような特定の忍び集団との繋がりが見受けられない。案外、片桐且元の方向音痴のような忠義はそこら辺りに原因があるのかもしれないな。そしてそれは福島正則や加藤清正も同様なのかもしれぬ。マトモな情勢判断が出来る者であれば、三成同様徳川と豊臣が並び立つ事など不可能と考えるはずなのだ。正則はともかく清正ならそれぐらい出来て当然。だが現実にはそれが出来なかった。それは豊臣家全体の君臣ともに共通する欠陥、情報不足なのだろう。


この時代、情報が勝敗を決しかねない事はまだまだ徹底されていないからな。………いや、それは現代でもさほど変わらないか。なまじ軍容や人口が大きいとか、技術の発展度合いが先に進んでいるとかで、相手を侮りがちなのはいつの時代も同様。俺も未来知識に足元を掬われないように注意せねばな………。





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