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魔王様のご近所征服大作戦  作者: 京 高
第十一章 魔王様と忙しい日々
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第七十九話 謎の魔法使い

 次の日、弥勒は〈森の館〉にヒトミたちを集めて機能の襲撃について話していた。客がいなくなったのを見計らって人払いの結界を張って臨時休業にしてもらったのだ。

 そのカウンターの裏には自分の世界から戻ってきた針生が落ち着いた様子で立っていた。

 機密という観点から見ればヒトミの神社から隠世に行った方が良いのだが、相手の次の手が分からないので、狙われる可能性のある針生たち三人とも情報を共有しておくべきだということになったのだった。

 また、昨夜はまだ混乱していたため、菜豊荘のメンバーにはまだ話をしていない。


「弥勒さんを倒した勇者さんのそっくりさん、ですか」


 そして話題は襲ってきた男の姿に移っていた。


「よくある他人の空似、ということではないの?」

「そうだろうとは思うのだが、どうにも引っ掛かってしまってな……」


 元の世界の勇者、ダッシ・フンニューについては異世界の出身という話は聞いたことがなかった。

 当時集めた情報では、魔族領から離れた所にある小さな国のそのまた辺境にある小さな村のそのまた外れに住んでいた羊飼いの家の出だったはずだ。

 村の祭りで行われた力自慢大会に遊び半分で参加したところを彼の師匠になる人物に見出され、その後、勇者として覚醒していくことになるのであった。

 それと、フンニューというのは神話の時代に邪悪な龍を倒したとされる伝説的な人物の名前だと語られていて、勇者と認められたもの――誰に、どうすれば認められるのかは不明だが、その発表は教会を通して行われることになっている――だけが名乗ることのできる栄誉ある名である。


「まあ、これに関しては留意しておくというくらいにしかできることがないのだがな。それよりも今重要なのは奴が言っていた幽霊退治に失敗した、という言葉だ」


 驚きで動くことはできなくなっていたが、聞くべき所は聞いていた。


「その幽霊というのは菜豊荘の、二条義則のことで間違いないでしょうね」

「つまり以前先輩たちが話していた謎の魔法使い、でしたっけ?神田君を操っていたというか洗脳していたというか唆していたのが、弥勒さんを襲った人と同一人物だということですか?」

「俺はそう考えている」

「山登に弥勒の情報を流した占い師風の男という線もあるわよ」


 場にいる者の考えが凝り固まってしまわないように、ヒトミが別の可能性を提示する。


「山登の話だとその男はやけに俺のことを怖がっていたそうだから、この男と謎の魔法使いが同一人物だとすると、昨日の男とはまた別人ということになるだろうな」

「確かに恐れている相手を襲うなんてことは、普通はできないでしょうね」

「しかし、普通ではなかったかもしれんぞ」


 弥勒やヒトミと一緒にカウンター席に座っていた玄人が話に参加してきた。


「どういうこと?」

「簡単。その男変な道具、持っていた。怖くなくなる、別の道具も、持っていた」


 玄人同様、それまで聞き役に徹していた艮が代わりに答えた。

 ちなみに弥勒を除くカウンターに座っている三人は身長が足りないので、椅子に腰かけて脚をブラブラさせていた。そしてそれを見たフミカが一人でキュンとしたりほっこりしたりしていた。


「所謂魔道具、というものになるのでしょうか?」

「それもとんでもなく高性能な品ということになる。何せ起動してもほとんど魔力の動きを感じなかったからな」


 グラスを拭きながら尋ねてきた針生にそう返すと


「なんですって!?」

「なんじゃと!?」


 針生と玄人の驚きの声が重なった。

 一般的に魔道具と呼ばれている物は、特定の魔法とそれを使用するための魔力があらかじめ込められた道具のことである。よって、その込められた魔法を発動する時には相応の魔力も発現することになり、それが魔力の流れ、または魔力の動きとして感知できる訳である。

 また、出来の悪い粗悪品ともなれば常時周囲の魔力を吸い続けたり、逆に込められた魔力が漏れ出して効果が薄れたりする物もある。

 当然そこには魔力の流れが発生するので、魔力感知能力に長けた者に居場所を察知され易い、という追加の不具合もあったりする。


 それに対して昨日の襲撃者が手にしていた魔道具は魔力の動きを感じることができなかった。

 油断もあっただろうが、囚われた時など周囲の景色が変わったことで初めて何かされたことに気が付いたくらいである。

 以前針生との雑談の中で出た話によると、魔力の存在がほんの一握りの存在にしか知られていないこの世界を除いて、どこの世界でも大体同じ認識と技術水準であるらしい。

 それにもかかわらず、最も発展し難いはずのこの世界で見たことも聞いたこともない様な高性能な魔道具が開発されていたというのだから、驚くのは当然のことだろう。


「これは……手駒となっている人間たちの数もそうだけれど、向こうの戦力が全く読めなくなったわね。フミカ、あなたは何か聞いたことがない?」

「ごめんなさい。あいつは私のことを完全に使い捨ての道具として見ていたようで、手の内を見せる様なことは全くしてきませんでした」


 ヒトミはゆるゆるとかぶりを振って答えるフミカを引き寄せて、悔しそうにしている彼女を撫で始めるのだった。


「同じ管理者相手には精神操作も通用しないだろうから、いざとなったら切り捨てられるようにしていたのだろう。なに、気にすることはない。それが分かったというだけでも収穫だ」


 フミカの事例から、例の管理者であれば他にも脅されたり弱みを握られている管理者がいるかもしれない


「そうね。あいつ以外の管理者なら戦わずに説得することができる、ということになるものね」


 後は刹那的享楽主義な管理者――「俺様は強え奴と戦えれば他のことはどうでもいい」的な変態――が協力していないことを祈るのみである。


「それと魔道具を研究している場所だが、一つ心当たりがある」


 弥勒は以前アルバイト中に出会った男と〈頭脳科学研究所〉について話していった。


「記憶に認識か。研究した成果がまず自分たちで試されているかもしれないというのは、皮肉なものね」

「それなら弥勒さんにもここで作られた幻覚か何かが掛けられていた、とは考えられませんか?」

「おお!高性能な魔道具を開発していたということより、そちらの方が説得力があるのう!」


 針生の考えに玄人が飛び付く。やはりドワーフとしてはそうそう簡単に高性能な魔道具を造りだすことはできないという思いがあるのかもしれない。そこに艮が釘をさす。


「作戦、考えるなら、最悪、基準にした方がいい」


 確かに最悪の状況に対処できるようにしておけば、いざという時にも立ち回ることが可能だ。安易に楽観視して対策を取らないのは愚の骨頂ともいえる。


「艮の言うことももっともじゃな。魔道具も魔法も両方あると考えていた方が無難じゃろう」


 反省したように言い直した玄人に、一同は真剣な顔で頷いた。

 こうして、敵対管理者との決戦を見据えた過剰ともいえる準備が、着々と進められていくことになったのだった。


奴は一体何者なんだー(棒)?



次回更新は2月18日のお昼12時です。

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