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魔王様のご近所征服大作戦  作者: 京 高
第七章 魔王様 イン ザ フェステボー
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第五十二話 祭りの後に

あけましておめでとうございます。本年もよろしくお願いします。

 翌日の本祭りではヒトミの言った通り大獅子が走り回っていた。もちろん各地区の獅子たちも舞で色を添えていたし、奴に神輿と続き、祭りは盛り上がりをみせた。

 元の世界の祭りでは主催者としての立場があったために、自由に見ることができなかった。そのため、こうして自分の足で歩き回りながら祭りを見物することで、弥勒は新鮮な感動を味わうことができたのだった。

 ただ一つ、付いて回っていたヒトミとジョニーに新たに参戦していた出店のりんご飴を奢る羽目になったのは誤算であったが。

 そして夕方、片付けも終わり閑散とした境内はどこかもの寂しさを感じさせる。この世界にやってきた当初に比べて随分と早くなった日の入りや、低下した気温がそれに拍車をかけていた。


「楽しめたかしら?」


 特に何をするでもなく、この神社での定位置となった石の長椅子に腰かけていた弥勒に柔らかい少女の声が届く。「ああ」と答えながら声のした方に顔を向けると、いつの間にかヒトミが横に座っていた。


「終わったのか?」

「ええ。事故も怪我もなく終わったわ。……ふう、これでやっと一つ肩の荷が下りたわ」


 祭りの最後の仕事である道具やのぼりなどの片付けの監督――姿は隠していたのだが――が終わり、ほっと一息つく少女。


「それにしても百歩も離れていない所に跳躍するなんて、管理者の力を無駄遣いではないのか」

「無駄遣いじゃないわ。必要だからやっただけ」

「ヒトミが横着したのではなく、向こうが痺れを切らせたのか」


 弥勒が呟いた瞬間、ザワリと木立が不自然に揺れたかと思うと目前に女が現れていた。


「あらあら。気付かれていたのね」

「ヒトミがずっと付いて来ていたから、何かあるとは思ってはいた。まあ、最初は食い物をねだられているだけなのかとも思ったがな」

「ちょっと、それは酷くない!?」

「昨日会って早々にフライドポテトを寄こせと言われれば、そう考えても仕方がないと思うが?」

「ハイ、ゴメンナサイ」


 半眼で睨むと、ヒトミはあっさりと白旗を上げた。あの時は新しい出店のフライドポテトが食べてみたかっただけなので、言い訳のしようがないのだった。


「アハハハハ。その子が相手とはいえ、管理者相手にそこまで自由に振舞えるとは思わなかったわ」

「お褒めに預かり光栄だ。それで、ヒトミと同じ管理者のあなたが何の用だ?」


 弥勒の問い掛けに、女はそれまでとは打って変わって不機嫌を露わにし始めた。怒りのためか不健康そうな青白い顔に色がさしてきた。


「……その子にどういう態度で接しても構わないけれど、他の管理者にまでそれが通用するとは思わないことね」

「悪いがこういう口のきき方しかできないようになっているのでな。不愉快なら早々に立ち去るがいい」

「あら?どうして私が引く必要があるのかしら?」

「俺に引く理由がないからだ」

「言うじゃない。でもあなた、自分が排除されるとは考えないのかしら?」 

「思い通りにいかないからといって、力任せで何とかしようというのは頂けないな」

「ちっ!勇者程度を相手に尻尾を巻いて逃げだした負け犬風情が生意気な口を叩く」

「安い挑発だ。もっと商売の勉強をしてかあら出直してくるがいい」


 敗北したことは事実であり、そのことに関しては受け入れていたので、今更何を言われようが気持ちを乱されることはなくなっていた。勇者たちと子どものような言い争いをしていた頃とは違うのである。魔力だけではなく、心も成長している――はず――弥勒だった。

 二人の睨み合いが続く隣では、我関せずとヒトミがジョニーをお手玉のようにして遊んでいた。本格的に謎の球状生命体へと進化していきそうな勢いで、小さな手に弾かれてポーン、ポーンとはねている。

 ゴムボールも真っ青な軽やかさである。そんな姿が横目に入ってきたのか、女は急に張り詰めていた空気を緩めた。


「ふう、気が削がれたわ。その子に感謝するのね」

「言われなくとも日頃から感謝の念は抱いている」

「嘘お!?」


 驚愕したことで手元が狂ったのか、ジョニーが空高くかっ飛んでいく。『あーーれーーーー』とか言う余裕があるようなので心配する必要はなさそうである。


「……驚いているみたいだけれど?」

「男が軽々しくそんな言葉を口にできる訳がないだろうが」


 明後日の方向を見ているのは、はたしてその台詞が恥ずかしかったからなのか、それとも口から出まかせだったために誤魔化しているからなのか。


「とにかく今日の所は引いてあげる。でも次に会った時には――」

「しっかり白黒つけてやるから安心するがいい」


 ブワッと殺意が広がるが、次の瞬間には消えていた。先ほどの挑発の仕返しだと理解できる程度には冷静であるようだ。最後に一睨みするとかき消すように、その姿を消していた。


『おーちーるっすーーー!』


 それと同時にジョニーが帰って来たのだが、


『再び、あーーれーー……』


 足元の砂利に当たってポーンと境内のどこかにはねていった。


「喧嘩を売るつもりなら先にそう言っておいて欲しかったのだけど?」

「あんなことをするつもりは全くなかったのだが……。売り言葉に買い言葉とは恐ろしいものだな」

「勢いだけで管理者に啖呵切ったっていうの?あなた本当に命知らずね……」

「勢いというか会話のノリだな。向こうもヒトミが止めることを念頭に置いて煽ってきていたから、完全に当てが外れたという所だ」


 ブレーキのない暴走車が二台アクセルべた踏みで競争していたような状況である。事故にならなかったのは奇跡という他ない。

 最も、もし事故になっていたとしても、向こうは平気な顔で大破した車から出てきただろう。命拾いをしたのは明らかに弥勒の方だった。


「今日の所は何とかなったけれど、次回の勝算はあるの?」

「全くないな」

「偉そうに言わないで!はあ……。もう呆れ果てて言葉が出てこないわ」


 ヒトミは思わず頭に手を当てて首を振るという、少女の外見にそぐわない動きをしていた。


「そこで、何か管理者を圧倒できるような道具やら修行法が出てくるということを期待しているのだが?」

「そんなものある訳ないでしょ!漫画の読み過ぎなのよ!」


 やはり世の中そんなに上手くはいかないようである。それほど当てにしていた訳ではないが、ひょっとすると、と考えていたこともまた事実なのだった。

 それに元々相手は弥勒を潰すつもりであり、そのための口実作りに難癖をつけてきていた部分がある。衝突までの時間が稼げただけでも御の字といえるだろう。


「さて、どうしたものか」


 軽い口調とは裏腹に、弥勒の表情は険しいものへと変化していくのだった。


ボール化が進むジョニーでした。シリアスが台無しですね……。

今回で第七章は終わり、次章は急展開!になるのか?



次回更新は1月2日のお昼12時です。

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