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魔王様のご近所征服大作戦  作者: 京 高
第四章 解決!(元)魔王マン!?
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第二十五話 あちらのお宅の奥さんがですね

 事件に進展があったのは、それから三日後のことだった。将の襲撃から丸三日経っても菜豊荘の人々が普段通りの生活をしていた――ように見せかけていた――ので、犯人が油断したのだ。


『旦那!犯人らしき奴を発見したっす!手配書――回覧板のこと――に書いてあったとおりの体型っす。それ以前にこのくそ熱い中でサングラスにマスクって怪しさ爆発っす!』


 現在の時間は午前十時、夏の太陽は連日の猛暑の記録を塗り替えるような勢いで輝いていた。


『よし、そのまま監視を続けてそいつの行動パターンを探ってくれ』

『ラジャーっす!』


そうジョニーに指示する一方で、弥勒は菜豊荘に残っているメンバー全員を集めていた。既にこの三日の間で弥勒の出自は住人全員に知られることとなっていたのだが、特に大きな混乱もなく受け入れられたのだった。

 強いて問題を上げるとすれば、全員が魔法という超能力に興味を持っており――会うたびにキラキラとした期待に満ちた目で見られた――、この騒動が終わった後には必ず、魔法についての講習会を開かなくてはいけなくなったということであろうか。


「そういう訳で、今ジョニーが犯人らしき者を見張っている。この人物については不測の事態が起きたとしても対処できるだろう」

「ふむふむ。そうなると犯人がその人ではない、または複数いた場合が問題、ということになりますね」


 弥勒の説明に、イロハが問題点を指摘する。義則が協力を申し出た日以降、昼間はジョニーが空から、夜は義則が地上から警戒に当たっていた。梟のムゲツは気にはしておくと言っていたが、あまり当てにはできない状態だった。

 それでも見回るだけなら十分だったのだが、今回のように犯人らしき人物を発見した場合、どうするのかを決めていなかったために、緊急対策会議を開くことになったのだった。


「今の時期サングラスだけならおかしくないアルが、マスクまで付けているとなると無関係ということは考えられないアル。そのまま監視を続けるべきアル」

「同感だね。もしも複数であるならばどこかで合流する可能性もあるし、最低連絡は取り合うはずだよ。不審者情報と合致していたことだし、まずはその人を追いかけていればいいと思う」


 リィが監視の続行を提案し、孝もそれに賛成の意を示す。


「私もその意見には賛成だけど、付近の警戒ができなくなるのは不安だわ」


 言葉通り不安そうな表情を浮かべたまま腕の中の智由を見つめる祥子に、居合わせた一同は言葉をなくす。


「明日の昼過ぎには塾の子どもたちもやって来る事を考えると、警戒を怠るのは危険かもしれませんね……」


 こうなると動員できる数が少ないのが障害となって来る。


「いっそのこと僕や七瀬が見回りに出た方が良くありませんか?」

「こちらが気付いていることを相手に悟られかねないからダメだ。ついでに言っておくと外部に応援を求めるのもなしだ。ことが大きくなり過ぎて収集が付かなくなる可能性があるからな」


 将の立場や菜豊塾、ひいては菜豊荘への風評被害のことを考えると、できるだけ内々で内密に解決しておきたい。


「弥勒サンの魔法でどうにかできないアルか?」

「できなくはないが、現実的ではないな」


 菜豊荘の敷地だけならともかく周囲一帯となると、人の動きが激し過ぎて感知の魔法では使い物にならない。かといってジョニーのように動物たちを使役すると、悪目立ちしてしまうことになるだろう。


「負担が大きくなるが仕方がない、ジョニーが追っている人物が犯人だと断定できるまでは、彼に見回りを頼もう」

「彼?ああ、二条さんのことアルね。でも昼日中に出歩いても大丈夫アルか?」

「それなら平気だよ。昔小学校に来たこともあるし。というか、僕と七瀬が二条さんを始めてみたのがその時だから」

「ええ!?それ、怖くなかった?」


 リアル学校の怪談状態に、教師経験のある祥子が驚いて問い掛ける。


「もちろん怖かったです……。というか、その日の放課後に将から紹介してもらうまで生きた心地がしませんでした……」


 今でこそ信頼しているが、当時は相当恐ろしかったらしい。見ると微かに震えていた。


「おいおい、話が逸れてきているぞ。とにかく義則に頼むということで異論はないな。これもジョニーが相手の拠点となる場所を見つけるまでの辛抱だ。もうしばらくは我慢してくれ」


 弥勒の言葉に各々が頷き、緊急対策会議はこれで終了となった。


「お、ロクちゃん!」


 すっかり会議室となってしまっている二〇二号室から外に出ると、克也がやって来るところだった。


「カツか。悪いが昼から仕事がある。飲み会ならまたにしてくれ」

「何でだよ!昼から飲んだりしねえよ!俺だって仕事があるよ!」

「おお!鋭い突っ込みアル。なかなかできる人アルね」

「リィちゃん、それは感心する所なの……?」

「それで何の用だ?」


 克也の突っ込みも外野の会話も一切無視して尋ねると、ぐったりした表情を浮かべていた。


「ロクちゃん最近容赦なくないか?ってそれはともかく、相上さんに祥子先生も一緒にいるって、何かあったのか?」


 立ち直りが早いのが彼の長所であることは知っていたが、どうやら勘もいいらしい。


「別に何もないぞ」


 こういう時には即答しておかないと相手に不信感を与えることになる。


「本当か?後藤もいるし、やっぱり何かあったんじゃないのか?」


 残念ながら効果がなかったようだ。


「……丁度時間があったので、皆でお茶にしていただけだ」

「嘘だろ」

「ちっ!カツのくせに妙に鋭いな」

「ちょっとそれ酷くね!?」

「今のは流石にどうかと思うアル……」


 思わず漏れ出た弥勒の黒い一言を聞いて、リィも克也に同情していた。


「そうだよな!……あれ?そういえば君とは初対面か?」

「言われてみればそうあるね。私は鈴麗、リィと呼んで欲しいアル」

「俺は前田克也だ。俺の方は好きに呼んでくれ。しかし、リィちゃんだっけ?チューカ弁とは分かってるね」

「それに気付く克也の方こそやるアルね」


 と自己紹介が終わる頃にはすっかり意気投合していた。どうやら二人は同好の士だったようである。


「それで、前田君は何か用事があったのではないの?」


 一向に話が進まないので、祥子が場を仕切る。普段であればパンパンと手を叩いて注意を引くのだが、あいにく今は智由を抱いているので両腕ともふさがっていた。


「うおっと、すんません。ロクちゃんに釣られて脱線してました」


 俺のせいにするな、と言いたかったのだがその前に祥子からジロリと睨まれてしまう。弥勒は無言の圧力に押されて黙るしかなかった。そして


『今、とんでもない寒気が走ったっす!?ダメっすよ!女性陣に逆らうのは自殺行為っすからね!』


 と、念話を通してジョニーの声が頭の中で響いていた。そんなことをしている一方で克也が本題を話し始めていた。


「不審者の件は知っていますよね?」


 つい先程までその件で話し合っていました、とは言えずに曖昧に頷く菜豊荘メンバー。


「うちの甥っ子なんですが、それが落ち着くまで塾を休ませて欲しいんですよ」

「「え?」」


 イロハと祥子が揃って驚きの声を上げる。


「本人は何とも思っていない様なんですけれど、親の方が心配していまして。特に母親が不安に思っているようで、友達の家に遊びに行くのにも車で送っている状況なんです」

「前田さんの所も同じか」


 割って入ったのは回覧板を持って来てくれた佐原だった。


「うちも息子夫婦が怖がってしまってな……。四谷さん、申し訳ないが塾はしばらく休ませて欲しいとのことだ」


 情報がない分、弥勒たちよりも不安に感じている――しかし、今の段階で情報を開示しても余計に不安を煽ることになっただろう――ようだ。


「そういう事情でしたら仕方がありませんよ」


 申し訳なさそうな顔をする彼らに気にしていない旨を伝える祥子とイロハ。弥勒は当事者である両親ではなく、こちらに顔なじみのある二人が来たことに多少の不快感を覚えながらも、自分の出る幕ではないと口を閉ざしていた。結局二人はイロハたちだけでなく、弥勒たちにまで謝罪の言葉を繰り返して去っていった。


「つまり他所者は信用できないってことかよ……!」

「タカ君、そんなこと言わないで。たまたまタイミングが悪かっただけよ」


 孝が珍しく荒っぽい口調で愚痴り、それを祥子が諭すように宥めていた。しかしその後、他の生徒の親からも同様の連絡が入って来る事になり、


「これは……予想外の方向に影響が出始めましたね」

「早期解決が必要アル」


 菜豊荘の住人達は、まだ見ぬ犯人に対して怒りを燃やすことになるのであった。


生徒たちの両親に孝が口にしたような意図はなかったのですが、克也や佐原氏は弥勒たち菜豊荘側の人々がそう捉えるかもしれないと感じていました。

祥子とイロハだけでなく、弥勒たちにも謝っていたのはそのためです。


人間同士の付き合いというのは色々と難しいですにゃあ……。



次回更新は11月19日のお昼12時です。


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