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魔王様のご近所征服大作戦  作者: 京 高
第四章 解決!(元)魔王マン!?
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第二十二話 ヒントはいくつ?答えはなあに?

「不審者らしき奴がいる?」


 その一報を持って来たのは、菜豊荘の正面にある住宅地の一角に居を構える佐原だった。彼の孫は菜豊塾の生徒であり、漫画を持って弥勒の部屋に入り浸っている子どもたちの内の一人である。


「詳しくはその回覧板に書いてあるから見ておいてくれ。で、悪いんだけど、今回は内容が内容だから必ず全員が目を通すように相上さんに伝えてくれや」

「相上?ああ、イロハのことか。分かった、伝えておこう」


 地区で回している回覧板を管理人代理であるイロハに持って来たのだが、あいにく今日は大学に行っており不在だった。そこで、孫を通して顔見知りだった弥勒の所へ持ってきたという訳だ。そして弥勒はイロハの本名を忘れかけていたのだった。


「頼むよ。ところでうちの孫や他の子どもたちは迷惑をかけていないか?」

「問題ないな。大人しく、はしていないが怒って、叱り飛ばすようなことはしていない。むしろバカ雀と遊んでくれているから、こちらとしては大助かりだ」


 正確にはダイエットなのだが、そこまで詳しく言う必要はないだろう。


「弥勒さんの所の雀か。あいつえらく賢いよな?テレビにでも出れるんじゃないのか?まあ、それはともかく、子どもたちが迷惑をかけていないならいいんだけどよ。悪いことをしたら、叱ってやってくれていいからな」


それだけ言うと、佐原は帰っていった。


「それにしても不審者か……。元の世界の関係者かもしれんな。イロハに渡す前に確認しておくとするか」


 台所のテーブルに回覧板を置いて広げてみると、デカデカと不審者に注意と書かれている。その下に手書きのイラストで不審者らしき人物の風体と服装が詳しく書かれていたのだが、幸か不幸か弥勒には見覚えがなかった。


『ふうむ……。ジョニーよ、お前の方には見覚えはないか?』


 と声を掛けるが返事がない。どうしたのかと思い頭を巡らせると、ジョニーは寝室の定位置でツーンとそっぽを向いていた。


『どうした?』

『……バカ雀に聞いたところで何も分からないっすよ』


 どうやら佐原との会話を聞いていじけているらしい。ここで、そんなことはないといってもジョニーは聞く耳持たないだろうし、何よりおバカだと思っているのは本当のことなので、言い繕うつもりはなかった。


『そうか……、そろそろ本格的に魔法を教えてやろうと思っていたのだが、それもまた今度だな。仕方がない』


 そこで、ニンジンをぶら下げてみることにした。すると


『魔法!?まぢッすか!?何でも答えるっすよ!どんな魔法っすか!?』


 効果はてきめんだったようで、全速力で飛んできたのだった。


『こいつなら見たことがある気がするっす。でもどこだったかは覚えていないっす』


 それでも不審者が存在する確率は高くなった。見間違いや気のせいだとするのではなく、いることを前提に行動する方が良いだろう。


『悪いが、しばらくの間空を飛ぶ時にはこいつがいないか気を配ってくれ。服装は変わっているだろうから風体だけ頭に叩き込んでおけ』

『ラジャーっす。ところで魔法の件なんすけど……』

『場合によればお前も攻撃手段を持っておいた方がいいからな。今から特訓だ』

『うおお!燃えるっすよー!』


 弥勒の言葉にジョニーは張りきって玄関へと向かい、扉が開けられないので大人しく待っていた。


『そうだな、まずは風の魔法から教えていくか』

『ええー!?火の玉とかバンバン飛ばしたいっす!』


 指導を開始しようとしたところで早速ジョニーから不満の声が上がる。


『阿呆!お前のような派手好きにそんな魔法を教えたら至る所で火事が起きて大惨事になるわ。それに風の刃も十分な攻撃力を誇るし、何より鳥であるお前は風の魔法と相性がいいのだ。つべこべ言っていないで、騙されてやってみろ!』

『分かったっす!……?あの、旦那?騙されたつもりで、じゃないっすか?』

『細かいことは気にするな!』


 強く言い切られて、ただの言い間違いだったのか、それとも意図的だったのかは有耶無耶となって、それ以降もジョニーが知ることはなかった。そして訓練が始まり数十分後、


『うおー!これは楽ちんっす!羽ばたかなくても空が飛べるっすよ!』


 風の魔法を使って飛び回るジョニーの姿があった。


『だから相性がいいと言っただろう。使いこなせれば、一日中でも飛んでいられるようになるはずだ』


 弥勒もその様子に満足そうだ。しかし、ジョニーはいつものごとく調子に乗って一気に高くまで舞い上がった所で制御に失敗して落下、必死に体制を立て直して地面への直撃だけは避けられた。


『お前というやつは、褒めるとすぐこれだ。少しは落ち着きというものを――』

『旦那!申し訳ないっすが、説教は後っす。イロハのねーちゃんが帰って来たのでオレは逃げるっす!』


 弥勒の小言を強引に遮ってジョニーは菜豊荘の屋根の上へと消えて行った。一人残された弥勒は呆れ顔でため息を吐くのだった。そうこうしている内にチリリンという軽やかなベルの音を響かせてイロハが帰って来る。


「やあ、おかえり」

「ただいまです。こんなところで何をしているのですか?」

「ん?まあ、ちょっとな……」


 ジョニーの魔法の訓練を、と答える訳にはいかず曖昧に言葉を濁す。


「おお、そういえば佐原から回覧板を預かっているぞ。ちょっと待っていろ、すぐに取って来る」


 話題を変えるのにちょうどいい物を思い出して、急いで部屋へと取りに戻るのだった。


「不審者ですか……」


 回覧板を見たイロハの第一声だ。


「ああ。危険性が高いので、全員が見るようにしてくれ、とのことだ」

「分かりました。佐原さんの畑にいくつも家が立って見通しも悪くなったことですし、菜豊荘でも防犯について見直した方が良さそうですね」

「そうだな。ところで、佐原の畑というのはどういうことだ?」

「佐原さんたちのお家が建っているその辺りは、元々佐原さんの持ち物で、田んぼとか畑だったんですよ。弥勒さんが入居する時にお話しした、菜豊荘の名前の由来、覚えていませんか?」

「それなら覚えている。建物の正面に菜の花畑があって……。ということはその菜の花を育てていたのが佐原か」

「正解です。それとあまり知られてはいないんですが、菜豊荘という名前には他にも由来があるそうですよ」

「ほほう、興味深いな」


 答えながら弥勒はイロハの名前についても聞きそびれていることを思い出した。


「そういえば、何故イロハというあだ名なのか答えを教えてもらっていないな」

「え?そうなんですか?」

「ああ。最初に孝には尋ねたのだが、その後は聞くのを忘れていた」

「うーん、弥勒さんはもう他の人たちと仲良くなっているから、教えてもいい気がしますけれど……。やっぱり、せっかくなので皆に聞いて下さい」


 ここまで拘るということは何か理由があるのかもしれない。もしかすると、本人の知らない所で意図せずに魔術的な何かが発動しているということもあり得る。なので、弥勒はこの件についてはのんびり取り組もうと考えていた。


「それでは楽しみに取っておくとしようか」

「……あのう、それほど大した理由じゃありませんからね?」


 弥勒の期待値が上がったことに不安を覚えたイロハがそう呟いていたが、弥勒は聞こえなかったふりをするのであった。


 将が刃物で斬ったような怪我をして帰って来たのはその日の夜のことだった。


菜豊荘という名前ののもう一つの由来、分かるでしょうか?

ヒントは住人の苗字です。


次回更新は11月16日のお昼12時です。

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