出発地点まで戻るためには
ここから先は慎重に進まないといけない。
「ナイフを所持した男と遭遇しないことが第一だろう」
ならばどうすればいいのか。
アリーセが控えめな様子で挙手する。
「わたくしの使い魔、キティでしたら、耳と鼻がよいので、警戒しながら進むことができると思います」
「アリーセの使い魔を危険に晒すことになるが、いいのか?」
レナ殿下はアリーセがキティのことを溺愛し、自分の命よりも大切に想っていることを知っているのだろう。
「キティは頑張れるはずです。勇敢な子ですので……!」
「わかった。もしも何かあったときは、全力で守るから」
「はい、ありがとうございます」
すぐにキティが召喚された。
見慣れぬ森に呼びだされて、キティは困惑している。
「キティ、今、わたくし達〝にゃんこ大好き班〟は、たいへん困った状況にいますの。それであなたの協力が必要なのですが、頑張っていただけますか?」
アリーセがそうお願いすると、キティは甘い声で『にゃあ!』と鳴いた。
なんでもアリーセのキティは寮に引きこもってお昼寝するのが何よりも大好きで、一日の楽しみのようだが、私達のために頑張ってくれるらしい。
「キティ、この森にはナイフを持った危ない男がいるようです。察知できたら、教えてくれますか?」
『にゃあ!』
そう返事をするやいなや、キティは大きな一歩を踏み出した。地面はぬかるんでいるので、キティの美しい毛並みが泥で汚れてしまう。
それを見たアリーセは悲鳴をあげそうになったが、喉から出る寸前で呑み込んでくれたようだ。
「キティ、あとでお風呂に入れてあげますからね」
『にゃあ』
アリーセは盛大に気にしているようだが、キティは初めての触り心地に少しわくわくしているように思える。
これまでキティのことを深窓のお嬢様猫だと思っていたが、好奇心旺盛な性格のようだ。
『にゃ!!』
キティは勇ましい鳴き声を上げ、進み始める。
耳をピンと立てて、警戒しながら慎重に進み始めた。
ゆっくり、ゆっくり進んでいるので、けっこう時間がかかりそうだ。
けれどもこれくらい用心深く進むほうがいいのかもしれない。
途中、揺れる葉っぱに心を奪われたり、空を飛ぶ鳥系の幻獣にカカカ! と鳴いたりするのは猫の本能なのでご愛敬だろう。
しばらく進んだ先で、キティが立ち止まって鳴いた。
『にゃっ!?』
キティは何か発見したようだ。
彼女がジッと見つめた先に、ガサゴソという物音が聞こえてくる。
どくん、と心臓が跳ねた。
「誰だ!?」
鋭く叫び、草をかき分けるようにして私達のほうへやってくる。
エアとレナ殿下が私達を守るように先頭に立った。
相手はずんずん私達のほうへ接近し――姿を現す。
「なーんだ、エア達じゃないか」
その声を聞いてホッと胸を撫で下ろす。
やってきたのはクラスメイトの一人だった。
「驚かせやがって」
「それはこっちの台詞だ!」
エアもドキドキしていたのだろう。胸を押さえながら言い返す。
他のクラスメイトも続々と現れた。
別の班である〝攻撃魔法を極め隊〟と遭遇してしまったらしい。
彼らは薬草の採取をしていて、その手には草木を刈る目的でナイフが握られていた。
キティはそれに反応したのだろう。
そして、私達と同じように、この班の宿泊施設まで転移できる魔法札も、インクが滲んでいて使えないような状態になっていた。
おそらくうちのクラス全員、同じような状況なのだろう。
彼らに事情を話すかどうかは、リーダーであるレナ殿下に任せた。
警戒に越したことはないだろうと思って、ナイフを所持している男について報告した。
「うわ、怖え」
「どうしてこんなところにいるんだよ!」
「先を急ぐといい。そして、宿泊施設まで到着したら、誰でもいいから先生に報告してくれ」
「わかった!」
彼らとはここで別れ、私達は出発地点を目指すこととなった。




