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婚約者から「第二夫人になって欲しい」と言われ、キレて拳(グーパン)で懲らしめたのちに、王都にある魔法学校に入学した話  作者: 江本マシメサ
七部・一章 新学期を迎える前に

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ミリオン礦石

 ぐらり、と視界が歪んだように錯覚する。


「大丈夫か?」

「――!」


 ヴィルに支えられ、ハッと我に返った。

 こんなところで動転している場合ではない。しっかりしないと。


 まさか、ジルヴィードがミリオン礦石の取引に関わっていたなんて。

 ヴィルの暗殺未遂事件の当事者であるレイド伯爵は亡くなってしまったので、調査が難航していたのだ。


 ヴィルの横顔を見る。

 動揺しているようには見えない。

 冷静な様子でセイン・ローダーとの会話に言葉を返していた。

 そんな状況の中、ヴィルが問いかける。


「して、ここ最近の娘の容態は?」

「ジルヴィード様の宝石魔法のおかげで、すっかり元気になりまして」


 宝石魔法? すっかりよくなった?

 いったいどういうことなのか。

 そういえば先ほど、鑑定で調べたさいに、難病を抱える娘を持つという情報があったような。

 ジルヴィードが何か関わっているのだろうか?


「ミリオン礦石がもっと国内に流通していればよいのですが、去年発生した暗殺未遂事件の影響で、輸入が規制され、価格も高騰しているようで……」


 去年発生した暗殺未遂事件というのは、ヴィルが狙われた事件で間違いない。

 ここでふと気付く。

 ミリオン礦石は特定の病気の治療に使われる物で、病気を発症していれば薬として有効だということに。

 ジルヴィードはセイン・ローダーの娘の治療を行うためにミリオン礦石を入手し、宝石魔法を用いて治療をした、ということなのか。


「入国査証の延長許可証の発給に関しては、問題なかったか?」

「ええ、抜かりなく。上司の目を盗んで、こっそり行いましたので」


 難病を抱える娘を助けるために、不法な入国査証の延長許可証を発給したのだろう。


「感謝する」

「こちらのほうこそ、娘を救ってくださり、心から感謝します」


 ここでヴィルがセイン・ローダーにあるお願いをしていた。


「最近、忘れっぽいところがあって、もしも私が貴殿に入国査証の延長許可証について聞いたときは、〝側近のヴィルが持っている〟と伝えてくれないか?」

「はい、承知しました!」


 セイン・ローダーは深々と頭を下げ、去って行く。

 その場に残された私とヴィルは、同時にため息を吐いた。


「まったくあの男は、何をしているのかと思えば」

「いいんだか、悪いんだか、ですね」

「人助け自体は悪いことではないのだが……」


 ミリオン礦石の輸入に厳しい規制がかかっていることも、ヴィルは知らなかったらしい。


「病気を抱える者にとっては、大問題だろう」


 別に薬としてミリオン礦石を使うことはなんら問題ない。

 それなのにどうして規制をしているというのか。


「ミリオン礦石の輸入を規制することにより、私腹を肥やしている者がいるのかもしれない」


 その辺についても調査が必要だという。


「問題が次から次へと……」


 どうしてこうなってしまうのか、と頭を抱えたくなる。


「入国査証の延長許可証はどうするのですか?」

「ジルヴィード・フォン・サーベルトをおびき寄せる餌にするつもりだ」


 そういえば、先ほどセイン・ローダーにも、入国査証の延長許可証についてジルヴィードから聞かれたときは〝側近のヴィルが持っている〟と伝えるように頼んでいた。


「今日のところはこの書類を収穫とし、帰るとしよう」

「そうですね」


 きっと近いうちに、ジルヴィードはヴィルの前に現れるはず。

 そのときは速やかに捕獲し、黒い宝石について調べさせるようだ。

 

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