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婚約者から「第二夫人になって欲しい」と言われ、キレて拳(グーパン)で懲らしめたのちに、王都にある魔法学校に入学した話  作者: 江本マシメサ
七部・一章 新学期を迎える前に

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彼らの目的

 道化師の仮装をした男性は、ジルヴィードに用事があったらしい。ツィルド伯爵に頼んで確保していたという部屋へ案内してくれた。


「いいお酒をいただいたので、持ってきますね。しばしお待ちを」


 扉が閉まって足音が遠ざかったあと、ヴィルはある魔法を発動させる。

 それは部屋に展開された監視魔法を欺くものらしい。

 この魔法が発動している間は何の変哲もない部屋の様子が映し出されているという。

 なんでもヴィルは入ってすぐに、監視魔法の存在に気付いたようだ。

 ひとまず喋っても問題ないというので、こそっと耳打ちする。


「その、大丈夫なんですか?」

「もしも本人がやってきたときは、しらばっくれたらいいだけの話だ」


 どうしてこのような行動に出たのかも聞いてみる。

 なんでもヴィルはジルヴィードの交友関係について、以前から探りを入れたかったという。

 ジルヴィードの存在は見るからに怪しいのに、どれだけ調査しても何も発見されないのだとか。


「なかなか尻尾を掴ませない狡猾こうかつな男だ」


 私から見たジルヴィードは陽気でどこか抜けたところのある青年、というイメージだった。

 まあリジーとの婚約を利用し、あれこれ行動を起こそうとしていた点は、狡猾とも言えるのか。


 ジルヴィードは魔法学校の教師を辞めさせられたので、これ以上の長期滞在することは難しいように思える。

 彼はどんな手を使って、この国に居続けるというのか。

 なんて考え事をしていたら、先ほどの男性が戻ってきた。


「お待たせしました!」


 ワイングラスと酒瓶をテーブルに置き、栓を抜いて注いでくれた。

 しっかり密封されていた状態とはいえ、名前もわからない相手が勧めるお酒を飲もうと思わない。

 ヴィルも同じことを思っていたのか、ワイングラスを手に取るも、くるくる回して香りを楽しむ仕草を繰り返していた。


 男性の視線はヴィルに注がれている。私のほうはまったく気にしていなかった。

 私が行動を起こすしかない。


「大人の話はつまらないので、少し風に当たってきますわ」


 そう言って立ち上がり、バルコニーのほうへ向かった。

 男性の背後に立ち、鑑定魔法をヴィルに見えるように発動させる。

 魔法陣と共に、男性の個人データが空中に浮かび上がった。


 名前:セイン・ローダー

 年齢:44

 職業:外交官

 補足:難病を抱える娘を持つ


 ヴィルはすぐに気づき、こくりと頷いた。

 あとはヴィルに任せよう。

 そう思いつつ、宣言していたとおりバルコニーに出て待つ。

 外は風はないものの、ひんやりしている。

 まあ、我慢できないほどではない。

 雪国育ちで寒さに耐性があってよかった、と思う。

 が、ヴィルがやってきて、寒いだろうと言って連れ戻しにやってきた。

 別にここにいてもいいのだが、鑑定魔法を発動させるための行動だったので、お言葉に甘えるとしよう。

 改めて席につくと、男性――セイン・ローダーが一枚の紙を差しだす。


「お約束していた、入国査証の延長許可証です」


 どうやらジルヴィードは国内滞在の延長をするために、彼と取引をしていたらしい。

 こういう場所でやりとりしていたということは、よからぬ対価を渡しているに違いない。

 ヴィルも同じことを考えていたのだろう。

 探りを入れるような質問を投げかける。


「あれはどうだった?」

「はい! いただいたミリオン礦石こうせきは大変すばらしく!」


 その言葉を聞いて、胸がどくんと脈打つ。

 ミリオン礦石こうせき――それは国内では流通していない鉱物で、隣国ルームーンでしか採掘されない。

 さらにそれは、ヴィルを苦しめた毒物でもあった。

 

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