潜入!
ジルヴィードも仮装しているので、余計に捜索の難易度が上がる。
ひとまず、二十歳前後でヴィルと同じ背丈の男性を探せばいいのか。
なんて思ったものの、その条件に該当しそうな男性はわんさかいた。
「ど、どうしましょう」
「心配いらない。あの男が、こういう場で目立たずにひっそりしているわけがないだろうから、人が集まっている場所を探したら見つかるだろう」
「たしかに!」
さすがヴィルだ。こういうときでも落ち着いている。
一通り、会場を歩いて回った。
もしかしたら思っていたよりも簡単にジルヴィードを発見できるかもしれない。
そう思っていたのに、仮面舞踏会は事情が異なっていた。
普通の夜会のように大勢で集まって楽しむのだが、仮面舞踏会は男女二人きりで会話を楽しんでいる者がほとんどだった。
その中で、ジルヴィードらしき男性は見つからない。
「彼は本当に参加しているのでしょうか?」
だんだん疑わしい気持ちになってくる。
イカサマまでして招待状を手に入れてやってきたというのに、無駄骨を折るような結果になりそうだ。
「ツィルド伯爵は屋敷のすべてを招待客に開放しているらしい」
「それはなんとも太っ腹ですね」
「まあ、しっかり警戒はしているようだが」
そう言って、ヴィルは視線をシャンデリアに向ける。
シャンデリアの周囲には魔法陣が浮かんでいて、なんらかの魔法が発動していることがわかった。
「あれは――」
「監視を目的とした魔法だろう」
「わあ」
同じような魔法が正門を抜けた先からいくつか展開されていたようだ。
「エントランスにも、大きな水晶があっただろう? あれもそうだ」
「まったく気付いていませんでした」
現役の魔法学校の生徒なのに、魔法に気付かないなんて情けない。
自分のことながら、節穴にもほどがあると思ってしまった。
「他の場所も見てみよう」
「ええ」
気をつけながら歩いてみると、監視魔法がいくつも設置されていることに気付く。
ツィルド伯爵の用心深さがわかるようだった。
いくつかの部屋を覗いてみたが、怪しい煙草を嗜んでいたり、人目を憚らずイチャイチャしていたり、賭け金が伴うゲームを楽しんでいたり、どうしようもないことをする人々しかいなかった。
庭も見ていたが、追いかけっこをしている男女か、盛り上がっている男女しかいなかった。
再度会場に戻ってみるも、ジルヴィードらしき青年の姿は見つからない。
「あの、どうします?」
これ以上の調査は無駄なように思えた。
夜も更けている。
時間が過ぎるにつれて、会場の雰囲気も怪しくなっていた。
そろそろ撤退したほうがいいのかもしれない。
ヴィルも諦めたのか、「そうだな」と返す。
なんというか、思っていた以上にいかがわしく、まともな集まりではないことが明らかとなった。
帰ろうと踵を返した瞬間、背後より声がかかった。
「そこにいらっしゃるのは、ジルヴィード様ではありませんか?」
「――!」
振り返った先にいたのは、道化の仮装をした中年男性だった。
どうやらジルヴィードと知り合いらしく、親しげな様子でヴィルに話しかけてくる。
「本日は騎士の格好をされると聞いていて、楽しみにしておりました。とってもお似合いの様子で」
何を思ったのか、ヴィルは「そうだろう?」と言葉を返す。
いったいどうして?
ヴィルを見上げると、自らの人差し指を唇に当てて、声をあげるなという仕草を取る。
どうやらこの男性から、何かを探ろうとしているようだ。




