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婚約者から「第二夫人になって欲しい」と言われ、キレて拳(グーパン)で懲らしめたのちに、王都にある魔法学校に入学した話  作者: 江本マシメサ
七部・一章 新学期を迎える前に

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思ってもみなかった展開

 遊戯室と聞いてカジノみたいな薄暗いのにきらびやかな空間をイメージしていたけれど、実際は陽光がほどよく差し込む、健全な遊び場という感じだった。

 室内にはダーツにビリヤード、ルーレットなどがある。カードゲームをするテーブルもいくつか置かれていた。

 闘争心を剥き出しにしている人なんかおらず、ゆるくゲームを楽しんでいるように見えた。

 仲間同士で楽しげに遊ぶ中、ただ一人ビリヤード台でつまらなそうに玉突きしている男性ひとを発見する。


「あいつだ」


 ヴィルの元同級生、アンスガー・フォン・フィーリッツだという。

 波打った長い髪を紐でゆるくまとめていて、長身で手足が長く、雰囲気がある。

 街の広告に選ばれそうなスタイルの持ち主だが、同時に近寄りがたい空気を放っていた。


「あの、彼とはどのようなご関係で?」

「一度も話したことなどないし、相手も私を認識していないだろう」


 同じ学年だったが、絡むことはなく、他人も同然。

 そんな相手から招待状を譲ってもらうことなんてできるのか。

 何か作戦でもあるのか、と訊ねる前にヴィルはスタスタとアンスガー・フォン・フィーリッツのもとへ歩いていってしまった。


「アンスガー・フォン・フィーリッツ、少しいいだろうか?」


 ヴィルに気付いた彼は、目を見開いたのちにムスッとした表情を浮かべる。

 険悪な空気を発していた。


「魔法学校の万年首席、極めて優秀な監督生長様が、なんの御用ですか?」

「聞きたいことがある」

「処刑人の一族の者に、なんの用事だと言うのですか」


 ツィルド伯爵の夜会は話を聞く限り、素行が悪い者や、ワケアリの者達が招待される、普通ではない集まりである。

 そんな夜会に招待されるような人が、ここの紳士クラブに出入りなんてしているのか疑問だった。

 今、その理由が明らかとなる。

 家業が珍しい人も招待しているのだ。

 処刑人の一族を取り込んで何をするつもりなのか。

 なんて、ツィルド伯爵の目的について考えている暇はない。


「端的に言わせてもらえば、ツィルド伯爵の夜会の招待状を譲ってほしい」


 ヴィルの要望を聞いた彼は、「はっ!」と鼻先で笑った。


「この世でもっとも品行方正であるあなたが、ツィルド伯爵の夜会に興味を持つなんて、どういうことなんですか?」

「目的について話すつもりはない」


 そんな態度で譲ってもらえるのか。ハラハラしながら話を聞く。


「もしや、婚約者の束縛が苦しくなって、息抜きに出かけるのですか? あの夜会は、そういう一面もあると聞きましたが」


 仮面舞踏会は身分を隠し、一夜の恋を楽しむ場でもあるのだ。

 そういうことにしておけばいいのではないか、とヴィルを見るも、明らかに怒った顔でいる。


「お前と一緒にするな」

「なっ!?」


 アンスガー・フォン・フィーリッツも言い返せばいいものの、ヴィルは痛いところを突いてしまったようで言葉を失っていた。


「あなたはいつもそうだ! 正しいことばかり言って、この僕を悪人のように見る!」

「そのような言葉を交わした覚えはないのだが」

「記憶にないだけだ!」


 なんと言えばいいのか。

 つまりアンスガー・フォン・フィーリッツはヴィルを意識していたが、ヴィルはまったく無意識だった、ということなのか。

 なんて切ない関係なのか。


「私はいつも正しい道を歩いているつもりだ。後ろめたいことなど何ひとつない」


 やめて、これ以上彼を追い詰めるような発言をするのは!!

 アンスガー・フォン・フィーリッツが気の毒になってしまう。

 可哀想に、ぷるぷると震えていた。


「招待状を譲ってくれるならば、いかなる条件も呑もう」

「言いましたね」


 顔を上げたアンスガー・フォン・フィーリッツは、なぜか私を見てにやりと笑う。


「彼とビリヤード勝負をして、勝ったら招待状を差し上げましょう!!」


 どうしてなのか、想定外の勝負を仕掛けられてしまった。

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