レナがパジャマパーティーでやりたいこと
最後はレナ殿下のやりたいことをする。
皆、わくわくした表情を浮かべ、レナ殿下を見つめていた。
「私は――」
そう口にした瞬間、レナ殿下の表情が曇る。
いったいどうしたというのか。
ノアが心配し、レナ殿下の手にそっと指先を重ねる。
「すまない、私は……皆みたいに何もない」
「そんなことありません! 急にお誘いしたので、その、無理はなさらないでください」
「今日のことだけではない。私の中身は空っぽで、好きなことをするように言われても、まったく思いつかないんだ」
レナ殿下の言葉はあまりにも重たく、皆、返す言葉が見つからないようだ。
「空っぽなんかじゃないわ」
レナ殿下はこれまで、立派な国王になるよう教育を施されてきた。
普通の子ども達みたいに自由に遊び時間なんてなかっただろうし、行動にも制限があっただろう。
今日みたいなパジャマパーティーに参加することはありえないことで、突然好きなことをしてもいいと言われても困惑するばかりだったに違いない。
「きっと王太子として正しくあろうとしているだけ」
私がそう伝えると、レナ殿下は目を大きく見開く。
瞳は潤んでいて、瞬きをすると大粒の涙がぽろりと零れた。
泣かせてしまった!
しかしながら、誰も私を責めるような目で見ない。
「私は、皆に隠していることがある。正しい王太子であるわけがない」
隠していることとは、自らの性別についてだろう。
長年、苦しみながら抱えていた秘密に違いない。
もしかしたら皆との仲が深まれば深まるほど、後ろめたく思っていた可能性もある。
レナ殿下はノアが差しだしたハンカチで、涙を拭っている。
彼女の苦しみは、同じく性別を隠して生きているノアがもっとも理解しているだろう。
そんな様子を見ていたアリーセが、ここで思いがけない発言をする。
「よろしければわたくし達に、その秘密を聞かせていただけますか?」
「え?」
「もちろん、国家機密レベルの秘密だろうことは理解しております。けれどもわたくし達は口がとっても堅いですし、何かあったときに助けることができると思うのです」
この中で、レナ殿下が女性だと知らないのはアリーセだけだ。
その彼女が、レナ殿下の秘密を共有したいという。
「しかし、知ってしまえば、皆の重荷となるだろう」
「そんなことありませんわ! わたくし達、友達でしょう?」
アリーセの言葉に、ノアとエア、私も頷く。
レナ殿下の止まりかけていた涙が再び零れる。
「どうして、こんな私に、皆、よくしてくれるのか」
「気にするなよ!」
エアの言葉が、最後の後押しになったようだ。
レナ殿下は涙を拭い、まっすぐ私達を見つめて言った。
「実は私は、男ではなく、女なんだ」
「――!?」
本当に驚いた表情を見せたのはアリーセだけだった。
エアはなんとも言えないような顔でいる。それが衝撃を受けたような顔にも見えるので、心配いらないだろう。
「国王は男でなければならない。そんな理由で、私は男として育てられたのだ。そんな私の人生に、ノアも付き合わせてしまった。きっと辛い日々を送っていたことだろう」
ここでノアも男だということを皆に告白したようだ。
ノアはレナ殿下を抱きしめ、辛くなんてなかったと訴えていた。
そんな二人の様子を見て、アリーセは涙ぐんでいた。
エアは少しだけ、複雑そうに見ている。
秘密を打ち明け、スッキリした表情を浮かべるレナ殿下が羨ましいのかもしれない。
最後に、レナ殿下は本心を口にした。
「私はずっと、皆とこうして楽しく過ごしたい。それが願いだ」
「だったら今日は、眠くなるまで遊ぼうぜ!」
エアの言葉に、皆が応じる。
楽しいパジャマパーティーを夜通し過ごしたのだった。




