ノアの提案
なんでもパジャマパーティーはリンデンブルク大公の許可を得ているという。
男女混合なので、メイドや従僕を付けるのはもちろんのこと、そのままみんなで眠るのは禁止だという。また健全なパーティーをするように、と。その辺は皆、思春期でもあるのでわかっていたつもりである。
それにしても、リンデンブルク大公はどんな顔でノアにパジャマパーティーの許可を出したのか、気になるところだが……。
何をしようか盛り上がっていた私達だったが、アリーセが突然ハッとなる。
「アリーセ、どうかしたの?」
「いえ、その、わたくし、みなさまにお見せできるようなパジャマを所持していなかった、と思いまして」
パジャマパーティーで着用するのは普段着ているようなものではなく、ナイトドレスと呼ばれる屋敷内を歩き回れるような服なのだろう。
「言われてみれば、私も持っていなかったわ」
「そういや、俺もだ」
私服でパジャマパーティーをするのもなんか違うのだろう。
ここでノアが提案する。
「だったら、王都の商店街に買い物に行く?」
普段、ノアは商人を呼んで買い物をするようだ。ただここは特殊な場所にあるため、呼べないという。そのため、直接買いにいってはどうかと提案したようだ。
アリーセも商店に行ったことがないようで、興味があるようだが、エアが難色を示す。
「俺、ここから出ないようにおじさんに言われているんだ」
「どうして?」
「危ないからって」
「過保護な保護者だな」
ノアは事情を知らないので、そんなふうに思ってしまうのだ。
エアがレナ殿下の双子の片割れで、王子殿下だと知ったら納得してくれるのだろうが。
今は口外を禁じられているため、説明できるわけもなく。
「あ、でも、何か欲しい物があったら、〝魔法百貨店〟に買いに行けばいいっておじさんが言ってた」
「魔法百貨店だって!?」
「存在していたのですか!?」
驚くノアとアリーセだったが、私は初耳だった。
「エア、魔法百貨店ってなんなの?」
「知らないのか!? 魔法百貨店はドワーフ族とエルフ族が経営する、異空間に存在するお店なんだ!」
「選ばれた顧客しか行けないようになっていて、会員になるだけでも大変だと聞いたことがありますの!」
魔法使いならば誰もが憧れるようなお店だという。
エアはその魔法百貨店に入店できる権利を持っているようだ。
なんでも転移魔法を使って入店するらしい。
魔法の力で作られた、金色に輝く入場カードを見せてくれた。
「これがあれば、四人まで同行させることができるんだ」
そういえば、前世でも似たような会員制の倉庫型巨大スーパーがあったな、と思い出す。
一人暮らしの身だったので、行ったことはなかったが。
「でもどうして、魔法使いではないミュラー男爵が権利を持っているんだ?」
「なんか、数年前に経営難になっていたみたいで、おじさんが助けたらしい」
「そうだったんだ」
リンデンブルク大公家の別邸に滞在中、必要な物があれば魔法百貨店で購入するように、とミュラー男爵から言われていたらしい。
「魔法百貨店は今、おじさんの承認がない客は入れないから、安全だと思う」
現在、ミュラー男爵のお眼鏡に適う良客しか入れないようになっているのだとか。
さらに、エアが買い物をしているときは入店制限をかけるようで、身の危険を心配することはないという。
「至れり尽くせりですわね」
「本当に、過保護な保護者だ」
何はともあれ、そこで買い物ができるというのはありがたい。
ヴィルに報告したのちに、魔法百貨店とやらに向かうこととなった。




