叔父の確保へ①
「まさかそんな状態まで持ち込んでいたとは……」
そもそも叔父は酒場や賭博場にいくお金すら持っていなかったので、いるはずがなかったのだ。
「よく一日で見つけられたな」
「偶然、食堂で座った席の隣に彼女がおりまして」
私の顔立ちがヘルタの亡き母に似ていたため、初対面にもかかわらず話してくれたのだ。
「父親から暴力や盗難にも遭っていたようで、そのまま家に帰してはいけないと思い、連れてきました」
「それが正解でしょう」
ミュラー男爵がヘルタの身柄を保護すると言ってくれたので、ひとまず安堵する。
「問題は叔父の確保ですね」
「婚約者の彼女に協力していただきましょう」
そんなわけで、ヘルタに軽く事情を話し、ミュラー男爵やヴィルに会ってもらう。
立派な方々を前にヘルタは萎縮しているようだったが、最終的には私達の事情を理解し、協力してくれると言ってくれた。
「あの人はだいたい夜にやってきて、うちで夕食を食べて、親父と酒を飲んでそのまま眠る、みたいな感じだったんだ」
ただ毎日やってきていたわけではないという。
ヘルタの実家以外に潜伏先があるのかと思いきや、呆れた話を聞いてしまう。
「たぶんだけれど、他の女性の家にも行っているんだと思う」
なんでも香水の匂いをぷんぷんまき散らしながらやってくる日があったらしい。
ヘルタは平然とした様子で語る。
「あの、ヘルタ。婚約者に他の女性の影あることを、おかしいと思わなかったの?」
「うちの父親も、そういうところがあったから、それが普通なんだと思ってた」
「婚約者や妻がいるのに他に女性を作ることは異常なことなの。病気だわ」
「そうだったんだ」
ショックを受けると思いきや、ヘルタはあっけらかんと言葉を返す。
おそらくだが、婚約者である叔父に対して実家を出るための手段としか考えていなかったので、そこまで衝撃を受けなかったのだろう。
ひとまず叔父についてはヘルタの家にやってきたところを捕獲、というシンプルな作戦でいくつもりだ。
「昼間、叔父さんが何をしているとか、聞いたことはある?」
「バカンス中だって言ってた」
何が長期休暇中だ。
叔父の人生なんて、毎日がバカンスと言っても過言ではないだろう。
「あの人がやってくるのは、ちょうど今くらいの時間だと思う」
「だったら――」
ミュラー男爵とヴィルを見たら、二人とも頷いてくれた。
「これからヘルタの実家に、叔父さんを捕まえに行ってもいい?」
「もちろん!」
そんなわけで、急遽、ヘルタの実家に行くこととなった。
◇◇◇
下町の近くまでミュラー商店の馬車で移動する。ここから先は道が細いので徒歩である。
この辺りは夜間、治安が悪いというので、ヴィルが姿消しと、暗い中でも視界が確保できる暗視の魔法を私達にかけてくれた。
街灯もなく、辺りは真っ暗だった。
道は舗装もされておらず、ガタガタで歩きにくい。
道行く人は酔っ払いばかり。春先といえど夜は酷く冷えるのに、道ばたで眠っている人もいた。
ヘルタ曰く、慣れっこだから心配ないとのこと。
迷路のような路地を通り抜けた先に、ヘルタの実家があった。
灯りはついておらず、洗濯物も干しっぱなし。
ヘルタが朝、出かけた状態となんら変わりはないという。
窓を覗き込むと、ヘルタの父親が酒瓶を抱えて眠っていた。
「あの様子だと、あたしが帰っていないことにも気付いていないんだと思う」
「そ、そう」
叔父もまだ来ていないらしい。
「どこに潜伏すればいいのかしら?」
辺りは家が密集している。隠れられるような場所はないように思えた。
「屋根はどうだ?」
ヴィルが提案するも、ヘルタが待ったをかける。
「雨漏りしているんだ。きっと大人が乗ったら、崩壊すると思う」
「なるほど」
さて、どうしたものか……なんて考えていたら、上機嫌な声が聞こえてきた。
「ヘルタちゃ~~~ん、婚約者様が、帰ってきたよお!」
この声は間違いなく、叔父のものだった。




