バーチへ
ヴィルはセイグリッドの背中で御者役を務めるので、車内には私とミュラー男爵、それから部下の女性の三人が乗り込んだ。
部下は以前屋敷にお邪魔したさい、私に魔法を仕掛けてきた魔法使いだった。
申し訳なかった、と謝罪してくれた。
実を言えば彼女もわけありだと、ミュラー男爵が教えてくれる。
なんでも彼女は元国家魔法使いで、王妃殿下の侍女の不興を買って解雇されたらしい。
「私は血で魔法を使う闇魔法の研究をしておりまして、王妃殿下が興味がおありになっているということで、研究資料の一部を提供することになったのです」
しかしながらそのさい、昔王妃殿下が血を提供していることが明らかとなり、それを渡すようにと侍女がやってきたという。
「それは王妃殿下が出産のさい、へその緒から採取した血液でした」
なんでもそれは、体の再生治療に利用できるようで、国王陛下の希望で保管していたものらしい。
「いくら王妃殿下の希望とはいえ、国王陛下の許しなしに渡すわけにはいかず……」
拒否したところ、その翌日に解雇が言い渡されたという。
王妃殿下の侍女があることないこと報告して、退職に追いやったようだ。
「酷い……」
「本当に」
他にも、ミュラー男爵には正当でない理由で職場を追われた者が大勢いるようで、その大半が王妃殿下絡みだという。
「あの女は王妃様のすべてを奪っただけでなく、好き放題しているようで」
自分の言いなりになる、都合のいい人達で周囲を固めているという。
ミュラー男爵はそんな王妃殿下に牙を剥くため仲間を集め、来るべき瞬間に備えていたようだ。
「来るべき瞬間というのはまさか、エアが玉座を望んだときですか?」
「それはもちろんのこと、望まなくても、いつか取り返さなくてはと考えていました」
そのために徒党を組んで戦力を高めていたという。
「国王陛下についても、王妃が入れ替わっていることに気付かず、のほほんと暮らしていることについて腹を立てていましたが……」
国王陛下も命を狙われていて、臥せった状態だったというのは把握できていなかったという。
「あの女、まさか自らが玉座を狙っているつもりでは? と考えるようにもなり……」
それもおおいにありうるだろう。
この国の歴史に女王はいなかったが、君主たる国王がいなければ話は別である。
「これ以上、野放しにするつもりはありません」
そのために、ミュラー男爵は舞台裏で虎視眈々と復讐の機会を窺っていたのだ。
「まずは私の行動を邪魔するガイ・フォン・リチュオルを拘束し、それからミシャ・フォン・リチュオル、あなたの元婚約者であるルドルフと、その母親キャロラインを探さなければなりません」
叔父のことはツィルド伯爵の周囲をウロチョロしていたため、顔を把握していたという。
ルドルフは会ったことはなく、キャロラインについては顔立ちが変わっているだろうから、本人確認は私頼りになるという。
捜索が必要な叔父、ルドルフ、キャロラインの三名の顔を把握しているのが私だけという状況に、どうしてこうなってしまったのか、と頭を抱えてしまった。
ひとまず特徴を伝えたので、そこから画師に依頼して似顔絵を描いてもらうという。
それをもとに調査してくれるようだ。
「彼らも一応、すでに探すように命じていますが、やはり似顔絵があるのとないのでは、発見のしやすさが違いますからね」
そんな話をしているうちに、バーチに到着したようだ。




