叔父の行方
ミュラー男爵は後日、と言ったものの、翌日に訪問した。
ある情報を握って。
ヴィルは不在だったので、レヴィアタン侯爵と一緒に応対することとなる。
「ミシャ・フォン・リチュオル、あなたの叔父ガイ・フォン・リチュオルですが、高飛びしようとしていた痕跡を発見しました」
なんでも港から隣国ルームーンへ逃げようとしていたようだが、身分証が引っかかったらしい。
「どこかで手に入れた、偽装された身分証だったようで」
騎士に拘束されそうになるも、またしても叔父は運よく逃げ延びたという。
本当にどうしてそんなに騎士から逃げられるのだろうか。
悪運の塊としか言いようがない。
「それにしても、騎士隊の情報をよく入手できましたね」
「騎士隊内に、ミュラー商店の傘下が経営している売店があるんです。比較的自由に出入りできるので、店員に騎士達の会話を盗み聞きするように命じているんですよ」
まさかそこまで手広く商売を行い、情報収集を行っていたとは。
古くから騎士隊で売店を営む商会だったようだが、経営不振になったさいにミュラー商店が支援し、傘下へ引き込むことに成功したようだ。
騎士隊は知らないうちに、ミュラー商店を身内に引き込んでいたことになる。
その後、叔父の似顔絵を作成し、ミュラー商店の店舗を中心に調査したところ、すでに王都から脱出しているとのこと。
「しかしながら、そう遠くへは行っていないことでしょう」
所持金は騎士隊が没収していたようなので、そこまで逃走資金があるわけではないのだろう。
「いるとしたら、王都からもっとも近い〝バーチ〟でしょう」
王都に近接した街〝バーチ〟。
郊外では豊かな自然の中で豊富な作物が栽培され、さらにいくつもの工場もあり、魔法学校や花嫁学校なども建っていて、貴族の静養地としても名高い。
国内の産業、文化、観光を支える機能を持った街だという。
馬車で行けば八時間ほどかかるようだが、ヴィルの竜だと二時間ほどで到着するという。
レヴィアタン侯爵がヴィルを呼んでくれるというので、その間、ミュラー男爵とメイドが淹れてくれた紅茶を飲みつつ話をする。
「一応、すでにミュラー商店の者にバーチ内を調査させているのですが、似顔絵だけでは限界がありまして、ミシャ・フォン・リチュオルにも協力していただけると非常に助かるのですが」
ミュラー男爵を騙って商売していた叔父のことは、何があっても捕まえるという。
「すみません、身内なのに、このようなことを頼んでしまって」
「いいえ、お気になさらず。叔父については捕まえるべきだと思っていましたから」
ただ、騎士隊に引き渡すわけにはいかない。きっと叔父と繋がっている者がいて、逃がしてしまいそうだから。
「ガイ・フォン・リチュオルの身柄については、ミュラー商店に任せていただけませんか?」
魔法使い特製の、逃走不可能な部屋があるという。
叔父への制裁の権利はミュラー男爵にもある。任せておいて問題ないだろう。
「お願いします」
頭を下げると、ミュラー男爵は安堵の表情を見せたのだった。
一時間後、ヴィルと合流する。
バーチへ向かうのは、私とヴィル、それからミュラー男爵とその部下の四名。
ヴィルの使い魔であるセイグリッドが引く竜車に乗り、レヴィアタン侯爵の見送りを受けながらバーチを目指して飛び立ったのだった。




