話し合い①
「私は、エアも事情を知っていてもいいのではないか、と思っているんです」
きっと彼自身、自分の父親についてや出生について、気になっているはずだ。
知っていたからといって、エアが危険な行為を起こすことなどないだろう。
「事情を知る私達が、いつでも傍にいて守ってあげられるとも限りませんし」
自らについてわかっていることが、身を守ることになる可能性があるのだ。
「もしも王宮から迎えがやってきた、とエアが聞いても、真実を知っていたらのこのこついていくことはないでしょうから」
「それも一理あると思います」
反対すると思っていたミュラー男爵だったが、思いのほか同意を示してくれた。
「いつか、エアさんに話すつもりだったんです。でも、まだまだ子どもだと思い込んでいた部分もありまして」
たしかにミュラー男爵から見たらエアは子どもに見えるのだろう。けれども彼はしっかりしていて、冷静に物事を見ることができる。
きっと今回の件を聞いたら驚くだろうが、しっかり自分で考えて、受け止めてくれるはず。
「少し、気持ちの整理がしたいです」
「ええ」
長年独りで抱えていた事情である。すぐにエアに打ち明けろと言われても無理な話だろう。
「明日までにはなんとか」
意外と気持ちに整理がつくのが早くて驚いてしまった。
こういう判断の速さが、ミュラー商店を大きくしてきたのかもしれない。
ひとまず、エアに対する対応については一歩前に進みそうだ。
続いてもっとも大きな問題について話し合う。
それは黒幕はいったい誰なのか。
「まず、お聞きしたいのが、本物の王妃殿下が出産した日、レナハルト殿下を連れ出した侍女というのは――?」
「キャロライン・ド・サーベルトという、ルームーン国から王妃殿下が連れてきた侍女で間違いありません」
「やはり、そうでしたか」
通常、国から侍女を連れて嫁ぐことなどありえない。たいていは身一つでやってくるのがお決まりである。
けれども王妃殿下の場合は持病があったため、世話になれた侍女を連れていたようだ。
「ミシャ・フォン・リチュオル、彼女をご存じなのですか?」
「ええ。その、先日魔法学校で起きた事件と関わりがありまして」
彼女は魔王復活の鍵となる黒い宝石を所持していただけでなく、王妃殿下襲撃の日にも行動を起こしていた。
目的はなんなのか。謎が深まる。
「ただ襲撃があった日、彼女は王妃殿下の命令でレナハルト殿下をお連れした可能性もありますよね?」
「それはないかと」
なんでも事件があった日、王妃殿下は薄れゆく意識の中、赤子を確認したという。
「連れて逃げたのが王子であったことに、王妃様は驚いていらっしゃるようでした」
そのさい、侍女に襲撃のさい王子を連れて逃げるように命じたのかと聞くと、王妃殿下は首を横に振ったという。
「襲撃した男達は、侍女と入れ替わるように部屋に押し入っていました」
もしも王妃殿下と子の暗殺が目的であれば、赤子を抱いていた侍女のことも見逃さなかったはず。
「キャロライン・ド・サーベルトは襲撃した男達の仲間である可能性が高い、と」
「ええ」
あまりの情報量の多さに混乱状態となる。
キャロライン・ド・サーベルトはルドルフの母キャロライン・アンガードと同一人物で、逃げるようにラウライフに行き着き、死んだと思っていたのだが実は生きていて、その昔リンデンブルク大公とも関係し、ルドルフを生んだ。
「ああ、そうだ。この前ミュラー男爵にお見せした銀の首飾りですが」
「もう一度、しっかり見せていただけますか?」
「はい」
確認してもらうと、やはり王妃殿下が国から持ってきていた品で間違いないという。
「キャロライン・ド・サーベルトが、王妃様から盗んだのでしょう」
考えれば考えるほど、彼女が事件の中心になっているようにしか思えなかった。




