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婚約者から「第二夫人になって欲しい」と言われ、キレて拳(グーパン)で懲らしめたのちに、王都にある魔法学校に入学した話  作者: 江本マシメサ
六部・三章 思惑渦巻く

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ミュラー男爵の過去④

 なんでも王妃殿下が国から連れてきた侍女が数名いたらしい。

 筆頭侍女を務めていたのは、サーベルト大公の姪であるキャロラインである。

 それとは別に、いつもメイドキャップを深く被って、顔があまり見えなかった侍女がいたという。

 それが王妃殿下の妹ソーレだったのだろう、とミュラー男爵は気付いたようだ。

 替え玉として連れてきていたのか、と問いかけると王妃殿下は違うと否定した。

 なんでもソーレは一緒についてきて、王妃となる姉を影から支えたい、と望んだという。

 しばらく傍において、国へ返すつもりだったようだ。


「最初は王妃様がいない代わりに、身代わりを務めてくれているのではないか、と思いました」


 けれども騒動についての記事を読んだ王妃殿下は、そうではないだろうと否定したという。


「もしも身代わりを務めるだけであれば、私を悪者にしないだろうと王妃様はおっしゃってくれました」


 誘拐されたのであれば、近衛騎士隊長が追跡し、捜索を続けているはず。

 そのため悪く書かないはずだ、と。


「私が悪者にされたことにより、王妃殿下の不在は不問として替え玉のソーレを王妃として立てるつもりなのだろう、と王妃様は冷静に事件を分析していました」


 諸悪の根源は王妃の座を乗っ取ったソーレなのか?

 ミュラー男爵は問いかけるも、王妃殿下はわからないと悲しげな様子でいっていたという。

 ソーレはしっかり者で姉思いの女性だった。王妃の座を姉から奪うような狡猾な一面は持ち合わせていない。そう王妃殿下は言ったという。

 では誰かの指示でそのような事件が起こったのか。

 それも、わからないという。

 双子の姉妹が入れ替わったとしても、特に国家間の関係に影響はない。

 だとしたらソーレの野心による犯行なのではないか、とミュラー男爵は思ったものの、王妃殿下は認めようとしなかった。

 その後、王妃殿下は心を閉ざし、体調も完全に治らないまま、伏せる日々が続いたという。

 幸いと言うべきか、王子は元気いっぱいだった。

 ミュラー男爵は怒りをどこへ向けていいのかわからない中、王妃殿下と王子を支えるため、ミュラー商店の仕事に精を出す。

 これまで手を出せなかった舶来品の取引を成功させるだけでなく、海域を侵していた海賊も殲滅せんめつさせた。

 商会もどんどん大きくなっていく最中、商会長が病で倒れる。

 商会長はミュラー男爵を案じ、財産を全て残すどころか、商会も引き継がせたという。

 これで王妃殿下や王子を支えられる。

 そう思っていた矢先、王妃殿下は王子を連れて下町に逃げていってしまった。

 これ以上、迷惑をかけることができないと言ったようだ。

 そんなことはないと否定するも、王妃殿下は最後までミュラー男爵の支援のすべてを受け入れなかったという。

 王妃殿下のアルテミスという名は、ソーレに奪われた。

 そのため、同じ月を意味するルーナと名乗り、弱った体で代筆の仕事を担い、日銭を稼いでいたようだ。

 ミュラー男爵は親子のもとを訪問しては、食料などを差し入れていたという。


「ただその暮らしは長くは続かず、王妃殿下は危篤状態となり――」


 今際のときに、王妃殿下は最後の命令を下した。

 どうかこの先誰も恨まず、復讐などをせず、幸せに暮らして、と。


「王妃殿下は最後まで、恨み言の一つも口にしませんでした」


 ミュラー男爵は大粒の涙を流しながら、語ったのだった。 

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