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婚約者から「第二夫人になって欲しい」と言われ、キレて拳(グーパン)で懲らしめたのちに、王都にある魔法学校に入学した話  作者: 江本マシメサ
六部・三章 思惑渦巻く

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ミュラー男爵の過去③

 王妃殿下はここにいる。それなのに国王陛下の隣には微笑む王妃殿下が描かれていたのだ。

 国民を不安にさせないための替え玉だろう。

 このときのミュラー男爵はそう思っていたらしい。

 今はケガを治すことを先決にし、冷静に動かなければ。

 そう思っていた矢先に、二度目の王太子お披露目があることを知った。

 この目で状況を確認したい。そう思ったミュラー男爵は、商会長に支えられながらお披露目を見に行った。

 そこでミュラー男爵が目撃したのは、王妃殿下と瓜二つの女性だった。

 衝撃を受ける。

 似ているのは顔だけでなく、体格、雰囲気、身のこなし、何もかもがそっくりだったのだ。

 王妃ともなれば、替え玉の一人や二人いても不思議ではない。

 けれども王宮のバルコニーに立っていたのは、そのままの王妃殿下だったのだ。

 まさか、産褥熱とケガを負った体で王宮に戻ったのではないか?

 なんて思って帰るも、ミュラー男爵がよく知る王妃殿下は病床で苦しみ、子どもの名をうわごとのように口にしていた。

 女児をレナハルト。

 男児をエアハルト。

 お腹の大きさから双子だろうと思い、国王陛下と王妃殿下が考えていた名前である。

 本物の王妃殿下はここにいる。

 ならばバルコニーで手を振っていた王妃殿下はいったい誰なのか。

 混乱状態のミュラー男爵を追い詰めるような出来事が続けざまに起こった。

 新聞の一面に、〝王妃殿下の近衛騎士隊長ブランド・フォン・アーベル、生まれたばかりの王女を誘拐、翌日、愛人の侍女と共に水死体で発見される!?〟という記事が掲載されていたのである。

 ミュラー男爵が行方不明なのをいいことに、謎の男達による襲撃と、王女の連れ去りの罪をなすりつけられていたのだ。

 怒りで頭が真っ白になったミュラー男爵は、真実を話すために新聞社に乗り込もうとするも、商会長に引き留められる。

 どうせ言っても情報をもみ消されるどころか、騎士隊に突き出されて終わりだ、と説得したようだ。


「レヴィアタン侯爵、あなたは私を、犯罪者だと思って見ましたね」

「すまない」

「いいんです。二十年も前の話ですから」


 真実は明らかにされず、王妃殿下の近衛騎士隊長、 ブランド・フォン・アーベルの名誉は地に落ちたまま今に至っていたようだ。


 近衛騎士隊長の地位も、騎士である名誉も、これまで貯めてきた財産も、何もかも失ってしまった。

 落ち込むミュラー男爵を気の毒に思った商会長がある提案をする。

 養子にならないか、と。


「すぐに喜ぶことも、提案を受け入れることもできませんでした」


 ただ、ミュラー男爵はこれからの人生も生きなくてはならない。

 日々、すくすく育つ王子と王妃殿下を見捨てることもできなかった。

 ケガが治ると、ミュラー男爵はミュラー商店で働くこととなる。

 そうこうしているうちに仕事が認められるようになった。

 また、王子と王妃殿下を守るために、商会長の養子になろうと決意し、ブランド・ミュラーと名乗るようになったのである。

 そんな状況の中、王妃殿下の病状が快方に向かい、少しだけ話せるようになった。

 事情を打ち明けると、王妃殿下から驚きの真実が明かされた。


 ――今、王妃として陛下の隣にいるのは、わたくしの妹ソーレです。


 王妃殿下の替え玉を務めていたのは、まさかの双子の妹だった。

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