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婚約者から「第二夫人になって欲しい」と言われ、キレて拳(グーパン)で懲らしめたのちに、王都にある魔法学校に入学した話  作者: 江本マシメサ
六部・三章 思惑渦巻く

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ミュラー男爵の過去②

 王妃殿下の出産は三十時間を越える難産だった。

 その間、ミュラー男爵は近衛騎士隊の隊長として、寝ずの番をしていたという。

 無事、赤子の産声が聞こえ、安堵する。

 代わりの騎士がやってきて、護衛役を交代すると言ってきた。

 そのとき、ミュラー男爵は一日半以上、眠っていなかったのである。

 王妃殿下からも大丈夫だから休むようにと命じられたミュラー男爵は、しばし休憩を取ることとなった。

 王妃殿下は無事、出産を終えることができた。

 男女の双子だという。

 母子ともに健康だと医者が言っていたので、心配は何もない。

 それなのに胸騒ぎがして、ミュラー男爵は王妃殿下の様子を窺いに行くこととなる。

 元気であることを確認できたら安心できるだろう。

 そう思っていたのに、まさかの状況に遭遇する。

 王妃殿下の部屋から侍女が何か抱いた状態で飛びだし、入れ替わるように男達が押し入ったのである。

 急いで部屋に入ると、王妃殿下の喉元にナイフが突きつけられた状態だった。

 泣く赤子の傍で、王妃殿下は命を狙われていたのだ。

 王妃殿下はミュラー男爵に気付くと、子どもを連れてここから逃げるように命じた。

 けれども初めて、ミュラー男爵は王妃殿下の命令に背く。

 彼は赤子と王妃殿下を連れて、王宮を飛びだしていったのだ。

 王妃殿下は訴える。命を狙う者がいるので、王宮には二度と戻れない、と。

 いったい誰が? そう問いかけても、答えることはなかった。

 その沈黙はわからないというよりは、言いたくない。そんな雰囲気だったという。

 ミュラー男爵はそのあと、命からがらの逃走劇を起こした。

 男達は地の果てまでミュラー男爵と王妃殿下、赤子を追いかけてきたという。

 外は雨で、産後の王妃殿下の体力は限界。

 このままでは捕まってしまう。

 ミュラー男爵はイチかバチかに賭け、川に飛び込んだ。

 赤子が水に浸からないよう、必死に腕を伸ばし、もう片方の手は王妃殿下を抱いて、溺れないように必死にもがいたのだ。

 結果、ミュラー男爵は運よくミュラー商会の商会長に助けられた。

 赤子は元気そのものだったものの、ミュラー男爵は襲撃のさいに負った傷が原因で、王妃殿下は産後の無理が原因で、ともに生死を彷徨さまよったという。

 商会長はミュラー男爵の必死な様子に同情し、事情も聞かずに匿い、看病をしてくれたようだ。

 その後、元気を取り戻したミュラー男爵は、事情を打ち明ける。

 すると、川から男女三名の水死体が上がったというデマも流してくれた。

 ミュラー男爵と王妃殿下、それから赤子は死んだものとされ、追手が探し回ることもなかったのである。


 元気になったら、犯人捜しをすればいい。

 ミュラー男爵はそう考えていたという。

 けれども新聞で報じられた内容に言葉を失う。

 記事にはバルコニーで笑顔を浮かべて手を振る王妃殿下と、王太子を胸に抱く国王陛下の様子が描かれていたのだ。

 なんでも昨日、お披露目があったという。

 王太子の名は――レナハルト。

 そんなわけがない、とミュラー男爵は否定する。

 国王夫妻の間に生まれた男児は、ここにいる。毎日元気いっぱい泣いて、ミルクをたっぷり飲んでいるのだ。

 国王陛下が抱いているのは王太子ではない。

 あの日、王妃殿下の傍にいなかった女児である。

 王女であることを隠し、王子としてお披露目したようだ。

 なぜ?

 ここでミュラー男爵は思い出す。

 襲撃を受ける前に、侍女が何かを抱いて飛びだしていった、と。

 あのとき胸の中にいたのは、王女だったのだろう。

 もしかしたら王子と間違えて、王女を連れて逃げてしまったのかもしれない。

 幸か不幸か、跡取りとなる王子と共にミュラー男爵は逃げてきたようだ。

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