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婚約者から「第二夫人になって欲しい」と言われ、キレて拳(グーパン)で懲らしめたのちに、王都にある魔法学校に入学した話  作者: 江本マシメサ
六部・二章 王都での調査

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レヴィアタン侯爵邸にてその①

 十五分後――執事は思いがけない報告と共に戻ってきた。


「あの~、たった今、リンデンブルク大公のご子息、ヴィルフリート様がいらっしゃいまして、ミシャお嬢様さえよければ、同席してもよい、とのことでしたが、いかがなさいますか?」

「えー、その、はい、ご一緒させていただこうかな、と」


 ここにやってきてからというもの、ヴィルになんて説明しようかと考えていたのに、まさか今日会うことになるなんて。

 重たい足取りで執事のあとに続いた。


「ミシャお嬢様をお連れしました」

「お邪魔しておりました」

「ああ、ミシャ嬢、待っていたぞ」


 レヴィアタン侯爵は嬉しそうに立ち上がり、「よくやってきた」と優しく声をかけてくれた。


「申し訳ありません、転移巻物で直接やってきてしまい」

「ああ、気にするでない。そのほうが、いろいろ便利だろう」


 恐縮しきっていたら、ヴィルから探るような眼差しを向けられていることに気付く。


「ヴィル先輩も、その、お会いできるなんて……」

「ミシャ、なぜ、転移巻物でここまできたんだ?」

「そ、それは――」

「いいではないか、たまには移動時間を短縮したいときもあるだろうに」

「いいや、違う。彼女は楽をするために、転移巻物を使う女性ひとではないから」


 その通りである。あのときは本当に緊急事態だったのだ。

 ただ、ミュラー男爵邸から逃げるために使った、なんて言ったらヴィルがどう思うか。

 ミュラー男爵への調査は一緒にしよう、と約束していたのに、気が焦るあまり単独行動してしまった。

 その結果がこれである。

 ヴィルの言うとおり、一緒にいっていたら、結果は違っていたはず。

 私はなんて愚かなことをしてしまったのか。


「その……ヴィル先輩、の言うとおり、少し、事情が、あり……」


 言いよどんでいたら、ヴィルが突然立ち上がる。

 ツカツカと私のもとへやってきて、なぜか目の前で片膝を突いた。


「ミシャ、外套の裾に煤がついている。ガーデン・プラントで付着するようなものではないな」

「――!?」


 それを聞いた瞬間、ひゅ! と息を吸い込む。なんていう鋭い洞察力なのか。


「失礼……これは、闇魔法の発動に使う専用の白墨チョークだ」

「そ、そうだったのですね。その、知りませんでした」


 きっとミュラー男爵邸の客間で付着したものだろう。

 私やジェムを拘束した黒い蔓みたいなものは、闇魔法だったようだ。


「ヴィルフリート、そのように怖い顔で迫ったら、ミシャ嬢が萎縮して話せなくなるだろう。どうだ、座って話さないか」

「え、ええ……その、ありがとうございます」


 ヴィルは私の外套に付いた煤を叩いて落としてくれた。


「ありがとうございます、ヴィル先輩」

「気にするな」


 そう返したヴィルの表情はほの暗く、先ほどあった事件について余計に話しにくくなってしまった。


 レヴィアタン侯爵の斜め前に腰掛け、ヴィルは隣に座った。


「では、最初に転移巻物を使ってここにやってきたことについて聞きたいのだが」

「はい」


 腹をくくって説明する。


「先ほど、ミュラー男爵と面会したのですが、そのさい、危機的状況になり、逃げるために使わせていただきました!」


 一気に捲し立てるように説明する。

 シーーーーン、と静まり返ったので、恐る恐るヴィルのほうを見ると、血の気の引いた顔で私を見つめていた。 

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