とっておきの一品
「パンに果物と生クリームを挟んだサンドイッチを、なんと言っていただろうか?」
「果物サンドね」
「そう、それだ」
果物サンド、と聞いてみんな訝しげな表情を浮かべる。
そうなのだ、かの果物サンドもこの国におそらく存在しない。エルノフィーレ殿下の反応を見るに、ルームーン国にもないのだろう。
諸説があるのかもしれないが、果物サンドというのはもともと日本発祥なのだ。
「パンに果物と生クリームを挟むなんて、聞いたことがありませんわ」
アリーセの言葉にノアは深々と頷く。
「でも、ミシャが作ったもんなら絶対おいしいに決まっている」
レナ殿下のお墨付きもあるのだ。きっとお気に召してもらえるはず。
ちょうど保冷庫に一斤のパンがあった。
「果物は……」
リンゴとオレンジしかないのだが、果物サンド向きではないような。
と思っていたら、コンポートがいくつかあるのを発見した。これで作ってみよう。
使うのはモモとサクランボのコンポート。シロップはしっかり切って使わないと、パンがしゃばしゃばになるから気をつけよう。
まず、生クリームをホイップする。砂糖ではなく、コンポートのシロップを混ぜてみよう。
「ねえエア、生クリームをホイップしてくれる?」
「おう、任せろ!」
力仕事はエアに任せ、私はパンを用意する。
パンはほどよい厚さに切り分けてから耳もカット。
「ミシャ、これくらいでいいか?」
「うーん、あと少ししてくれる?」
「わかった!」
果物サンドに使う生クリームは垂れないよう、普段使うものよりも少し固めに仕上げたい。
エアに再度頑張ってもらっている間、コンポートの果物の下ごしらえに取りかかろう。
まず綿布でシロップをよく取り除いたあとカットする。
「ミシャ、どうだ!?」
「うん、いい感じ! ありがとう」
エアが仕上げてくれたホイップをパンに塗る。続いて果物を載せてホイップで覆ったあと、パンを被せる。ワックスペーパーに包んで、ナイフをお湯に浸けたあと切り分けると、きれいな断面になるのだ。
「果物サンドの完成!」
みんなが拍手で称えてくれた。
全員分手早く仕上げて、試食タイムに移ろう。
エアとアリーセ、レナ殿下はモモ。
ノアとエルノフィーレ殿下、リンデンブルク大公と私はサクランボサンドに決めた。
みんなのお口に合うだろうか。ドキドキしながら見守る。
エルノフィーレ殿下が先陣を切って食べてくれた。
「まあ、これは――おいしい!」
エルノフィーレ殿下は目を大きく見開き、嬉しそうに言ってくれる。
「甘いサンドイッチというのはどういうものかと思っていましたが、こんなにパンと合うものなのですね!」
「ええ、そうなんです」
他の人も次々と絶賛してくれた。
もしかしたらこれまで作った試食品の中で、もっとも反応がいいかもしれない。
「もう一度、果物サンドを含めたもので投票をしてみましょう」
一度目のときはみんな悩んでいる様子だったが、二回目は記入が早かった。
すぐに集計となる。
「結果は――すべて果物サンドに投票されていたようです」
満場一致で果物サンドに決定となった。
ホッと胸をなで下ろしたのは言うまでもない。
その後、馬術の練習をしているヴィルの分も果物サンドを作り、差し入れることにした。
ちょうと終わった頃のようで、ヴィルは私を発見するなり満面の笑みを浮かべてくれる。
「ミシャ! どうしたんだ?」
「差し入れを持ってきたんです」
お腹がペコペコだというので、馬術を練習する人達専用の休憩室で渡すことにした。
「ミシャはいいのか?」
「私はもう、お腹いっぱいで」
放課後にいったいどれだけ試食したのか。お腹がパンパンなのだ。
「今日、馬術大会に出店するメニューの試作をしたんです」
「そうだったのだな」
これに決まった、と果物サンドを差しだした。
「生クリームと果物を挟んだ甘いサンドイッチなんです」
「ほう、珍しいな」
ヴィルは臆することなく頬張ってくれた。
「これは――想像していた以上においしい!」
「よかったです」
ヴィルは本当にお腹が空いていたようで、ぺろりと平らげてくれた。
「ミシャ、ありがとう」
「いえいえ」
あまり放課後の練習に参加できていないのだが、ヴィルは気にするなと言ってくれる。
「こうして顔を見せてくれるだけでも、私は幸せだ」
ヴィルはそう言って手を握ってくれる。胸に温かな感情が溢れるのを感じたのだった。




