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婚約者から「第二夫人になって欲しい」と言われ、キレて拳(グーパン)で懲らしめたのちに、王都にある魔法学校に入学した話  作者: 江本マシメサ
五部・四章 馬術大会に向けて

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とっておきの一品

「パンに果物と生クリームを挟んだサンドイッチを、なんと言っていただろうか?」

「果物サンドね」

「そう、それだ」


 果物サンド、と聞いてみんな訝しげな表情を浮かべる。

 そうなのだ、かの果物サンドもこの国におそらく存在しない。エルノフィーレ殿下の反応を見るに、ルームーン国にもないのだろう。

 諸説があるのかもしれないが、果物サンドというのはもともと日本発祥なのだ。


「パンに果物と生クリームを挟むなんて、聞いたことがありませんわ」


 アリーセの言葉にノアは深々と頷く。


「でも、ミシャが作ったもんなら絶対おいしいに決まっている」


 レナ殿下のお墨付きもあるのだ。きっとお気に召してもらえるはず。

 ちょうど保冷庫に一斤のパンがあった。


「果物は……」


 リンゴとオレンジしかないのだが、果物サンド向きではないような。

 と思っていたら、コンポートがいくつかあるのを発見した。これで作ってみよう。

 使うのはモモとサクランボのコンポート。シロップはしっかり切って使わないと、パンがしゃばしゃばになるから気をつけよう。

 まず、生クリームをホイップする。砂糖ではなく、コンポートのシロップを混ぜてみよう。


「ねえエア、生クリームをホイップしてくれる?」

「おう、任せろ!」


 力仕事はエアに任せ、私はパンを用意する。

 パンはほどよい厚さに切り分けてから耳もカット。


「ミシャ、これくらいでいいか?」

「うーん、あと少ししてくれる?」

「わかった!」


 果物サンドに使う生クリームは垂れないよう、普段使うものよりも少し固めに仕上げたい。

 エアに再度頑張ってもらっている間、コンポートの果物の下ごしらえに取りかかろう。

 まず綿布ガーゼでシロップをよく取り除いたあとカットする。


「ミシャ、どうだ!?」

「うん、いい感じ! ありがとう」


 エアが仕上げてくれたホイップをパンに塗る。続いて果物を載せてホイップで覆ったあと、パンを被せる。ワックスペーパーに包んで、ナイフをお湯に浸けたあと切り分けると、きれいな断面になるのだ。


「果物サンドの完成!」


 みんなが拍手で称えてくれた。

 全員分手早く仕上げて、試食タイムに移ろう。


 エアとアリーセ、レナ殿下はモモ。

 ノアとエルノフィーレ殿下、リンデンブルク大公と私はサクランボサンドに決めた。

 みんなのお口に合うだろうか。ドキドキしながら見守る。

 エルノフィーレ殿下が先陣を切って食べてくれた。


「まあ、これは――おいしい!」


 エルノフィーレ殿下は目を大きく見開き、嬉しそうに言ってくれる。


「甘いサンドイッチというのはどういうものかと思っていましたが、こんなにパンと合うものなのですね!」

「ええ、そうなんです」


 他の人も次々と絶賛してくれた。

 もしかしたらこれまで作った試食品の中で、もっとも反応がいいかもしれない。


「もう一度、果物サンドを含めたもので投票をしてみましょう」


 一度目のときはみんな悩んでいる様子だったが、二回目は記入が早かった。

 すぐに集計となる。


「結果は――すべて果物サンドに投票されていたようです」


 満場一致で果物サンドに決定となった。

 ホッと胸をなで下ろしたのは言うまでもない。


 その後、馬術の練習をしているヴィルの分も果物サンドを作り、差し入れることにした。

 ちょうと終わった頃のようで、ヴィルは私を発見するなり満面の笑みを浮かべてくれる。


「ミシャ! どうしたんだ?」

「差し入れを持ってきたんです」


 お腹がペコペコだというので、馬術を練習する人達専用の休憩室で渡すことにした。


「ミシャはいいのか?」

「私はもう、お腹いっぱいで」


 放課後にいったいどれだけ試食したのか。お腹がパンパンなのだ。


「今日、馬術大会に出店するメニューの試作をしたんです」

「そうだったのだな」


 これに決まった、と果物サンドを差しだした。


「生クリームと果物を挟んだ甘いサンドイッチなんです」

「ほう、珍しいな」


 ヴィルは臆することなく頬張ってくれた。


「これは――想像していた以上においしい!」

「よかったです」


 ヴィルは本当にお腹が空いていたようで、ぺろりと平らげてくれた。


「ミシャ、ありがとう」

「いえいえ」


 あまり放課後の練習に参加できていないのだが、ヴィルは気にするなと言ってくれる。


「こうして顔を見せてくれるだけでも、私は幸せだ」


 ヴィルはそう言って手を握ってくれる。胸に温かな感情が溢れるのを感じたのだった。

 

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