クラブ活動
放課後、クラブ舎に集まって料理クラブの活動を行う。
作るのは慈善市に出品するお菓子。売り上げを養育院に全額寄付するのだ。
週に一回だけの活動だからだろうか。今回もリンデンブルク大公はしっかり参加していた。
馬術の訓練を終えたヴィルも合流したが、リンデンブルク大公の存在にギョッとしつつ着席していたのだ。
ノアは少し慣れたのだろうか。ヴィルよりも落ち着いているように見える。
「今日はマシュマロヌガーを作ろうと思っているの」
皆、初めて聞くお菓子なのでポカンとしている。
「マシュマロヌガーっていうのは、溶かしたマシュマロにナッツや乾燥果物などを入れて混ぜて、固めたものをカットしたお菓子なの」
マシュマロを使って作るので生地から作る焼き菓子よりはお手軽に調理できるのが特徴だ。
前世で一時期流行ったお菓子だが、この世界ではないらしく、斬新だと褒めてもらえた。
「ミシャの故郷に伝わるお菓子なのか?」
「まあ、そんなところね」
マシュマロなんてラウライフでは売っていないが、この場では適当に誤魔化しておく。
何はともあれ、一回作ってみんなにレシピを覚えてもらおう。
みんなが私の周囲に集まったのだが、当然とばかりにリンデンブルク大公も覗き込んでくる。今日も調理に参加するつもりらしい。
私も慣れたつもりだが、やっぱり緊張する。一緒にヴィルがいるというのもあるのだろう。
混ぜる材料はバタークリームをサンドしたココアクッキー、ベリー系の乾燥果物、三種のナッツである。これらは食べやすいように砕いておくのだ。
「えーっと、まずバターを鍋に落として溶かし、そこにマシュマロを入れます」
マシュマロがとろとろに溶けたら砕いたクッキーなどを入れて、きれいに混ぜるのだ。
「材料が混ざったらバターを薄く塗った鉄板に入れて、伸ばしていきます」
保冷庫の中で冷やして固めるのだが、今日は私の雪魔法を使って時間を短縮させる。
マシュマロヌガーにワックスペーパーを上から被せた状態で魔法を発動させた。
「――しんしん降る、雪よ」
あっという間に雪が積もってマシュマロヌガーを冷やしてくれる。
「通常は保冷庫で冷やすだけで問題ありません」
冷やし固まったマシュマロヌガーをカットしていく。
包丁でザクザク切っていく感触が楽しい。
「これにて完成です!」
ワックスペーパーでキャンディ包みをしたら、販売しやすいだろう。試食として一口大にカットしたものを持っていくのもいいかもしれない。
「これは試食用だから、どうぞ召し上がってください」
まずエアが手に取って頬張った。
「んん! なんだこれ、おいしい!」
その言葉を聞いて安心したのか、みんなも続けて食べ始める。
アリーセは口にした瞬間、瞳がキラリと輝いた。
「なんて甘美なお菓子なのでしょう! とってもおいしいです!」
エルノフィーレ殿下もお気に召してくれたようで、二個目を食べている。
レナ殿下も「食感が面白いな」と評価してくれた。
ノアも「太ってしまう」なんて言いながら、実に幸せそうな表情で食べていた。
ヴィルやリンデンブルク大公もこくこく頷きつつ完食したようだ。そんな二人の所作があまりにも似ていたので、やっぱり親子なんだなと思ってしまった。
「では、今日もペアになって作ってみましょう」
そんな提案をすると、前回同様にエアとアリーセ、ノアとレナ殿下と別れていく。
「ミシャ、今回もご一緒してもよろしいですか?」
「もちろんです」
と、言ったところで、リンデンブルク大公とヴィルが取り残されていることに気付いた。
「そ、その、お二人で作られますか?」
リンデンブルク大公はヴィルの顔を見てから「致し方ない」と言った。
そんな反応に笑いそうになったのは言うまでもない。
みんな好みの材料でさまざまなマシュマロヌガーを作っていた。
エアとアリーセが作ったのはチョコレートチップとナッツがたっぷり入ったもの。
ノアとレナ殿下はマシュマロにキラキラした糖衣菓子とクッキーを混ぜたもの。
私とエルノフィーレ殿下はココアパウダーを混ぜたマシュマロに炒って香ばしくしたナッツを混ぜたもの。それぞれ完成させた。
リンデンブルク大公とヴィルは、マシュマロをベリーパウダーでピンク色に染め、乾燥ベリーをたっぷり入れた夢かわいい系のマシュマロヌガーを完成させる。
ヴィルとリンデンブルク大公は満足げな様子でマシュマロヌガーを眺めていた。
そんなわけで完成させたお菓子は、次の慈善市で販売される。
上手にできたので、売るのが楽しみだ。




