妨害
その日の夜、すべて終わらせたあと、ヴィルにジルヴィードから聞いた話を打ち明けた。
「王太子の証だと?」
「はい、何かご存じですか?」
「それはこの国を守護する純白の竜から送られた宝石ではないのか?」
その話を聞いて「あ!!」と声をあげてしまう。
「それって国立魔法博物館でみた、魔法仕掛けの絵画にあったものですか?」
「ああ、そうだ」
ホリデーの最終日にヴィルと一緒に国立魔法博物館で見たのを今になって思い出す。
「紛失しているとはどういうことなんだ? なぜそれをジルヴィードが知っている?」
「わかりません」
ひとまず国王陛下に相談にいくという。
「ミシャもいくか?」
「はい」
夜だが、王宮への出入りは許可されている。ついていっても問題はないだろう。
ヴィルと一緒に国王陛下への面談を行った。
国王陛下とお会いするのは久しぶりである。私の顔を見るなり近くに寄るように命じられ、国王陛下はそっと手を握ってくれた。
「君のおかげでだいぶ具合がよくなった。感謝する」
「もったいないお言葉です」
まだ語り足りない、といった様子だったもののヴィルは会話を制するように報告した。
「陛下、王太子の証たる品は今、どのようになっているのですか?」
「それに関しては王妃に任せてある」
なんでも王太子の証の管理は王太子が幼い頃は王妃が管理し、立太子の儀式を境に王太子の手に渡るという。
「ああ、先日立太子の儀式は終わらせたと言っていたな。おそらくレナハルトが所持しているだろう」
どうやら国王陛下は紛失に関しての情報を握っていないという。
「それがどうしたのだ?」
「いえ――――――!?」
ヴィルはおそらく紛失について報告しようとしたのだろう。けれども言葉を発することができない。そんな様子を見せていた。
彼だけではない。代わりに私が言おうと思ったのに、息が詰まったように喋ることができなかったのだ。
いったいどうして?
思わずヴィルと顔を見合わせる。
「どうしたのだ、二人して」
「いえ、なんでもありません」
おそらく口外できないような呪いがかけられているのだろう。これもジルヴィードの仕業なのだろうか。
筆談などもできないようになっているらしく、手の込んだ呪いだと呆れてしまった。
ひとまず今日のところは伝えることなどできないので、引き下がるしかない。
ヴィルと共に学校に戻ったのだった。
家にお招きし、薬草茶を振る舞う。ヴィルは眉間に皺を寄せ、考え込むような表情を浮かべていた。
「いったいどうして、口外させないような魔法をかけたんだ?」
「王家の者達が知ったら国家間の問題になるかもしれない、とジルヴィード先生は言っていました」
「用意周到な男め!」
おそらくレナ殿下へ聞こうとしても、同じように喋ることができなくなってしまうのだろう。非常に厄介な呪いである。
「明日、ジルヴィードを問い詰める」
「ケンカはしないでくださいね」
「心配するな。エルノフィーレ殿下にも同席してもらうよう頼み込むから」
エルノフィーレ殿下がいたら大きな騒動になど発展しないだろう。
「寮にこの国の創世についての本があるから、それを調――」
立ち上がった瞬間、ヴィルが突然意識を失う。
「なっ!?」
床に倒れ込む寸前でジェムがクッションを作って体を受け止めてくれた。
「う……ん」
すぐに目覚めたのでホッと胸をなで下ろす。
「ここは、ミシャの家か?」
「はい」
「おかしいな。さっきまで料理クラブのクラブ舎にいたはずなのに」
「え?」
ヴィルは起き上がったものの、頭が酷く痛むようで再度ジェムのクッションに体を預ける。
「もしかして、倒れて気を失っていたのか?」
「はい、意識がないのは数秒だったかと」
「数秒だと? どうして夕方から夜になっている?」
それを聞いて、ヴィルの夕方から夜までの記憶がごっそり抜けていることに気付く。
もしやこれも呪いの効果なのだろうか?
ゾッとしてしまった。




