ヴィルと一緒に
その後、ヴィル以外のメンバーと別れ、クラブ舎で国王陛下の料理を作る。
メニューは冬野菜のポタージュ、豚スペアリブのトマト煮込み、白身魚のポテトグラタン。
材料はヴィルが王宮から運んできてくれたものである。
ここはお城の厨房より規模が小さいからか調理しやすい。あそこは大人数の食事を作る場所なので、一人分の食事を作ることに適していないのはわかっていたのだが。
ヴィルと協力して料理を仕上げ、完成した物は転移の魔法巻物で国王陛下のもとへ届ける。デリバリー方式でのご提供となった。
これらの活動はレポートを提出すれば実績となるようだ。ヴィルが自動書記の魔法でまとめたものを提出してくれるという。
「自動書記の魔法、便利ですね」
「ああ、二学年で習うものだから、楽しみにしておけ」
「はい!」
作った料理は私達も食べていい、と許可をいただいているので、そのまま夕食としていただく。
「それにしても、リンデンブルク大公までクラブ活動に参加されるとは」
「私も驚いた」
ヴィルとノアの戸惑うような表情と、無表情でマシュマロを炙るリンデンブルク大公の姿は一生忘れないだろう。
食事を終えたあとは、ヴィルが馬術大会に一緒に参加する魔石馬を見せてくれるという。
一度ガーデン・プラントに戻ってモモンガ達を労ったあと、厩舎へ向かった。
すっかり暗くなってしまったが、背中が発光する亀がヴィルのもとへ大集合し、足下を明るくしてくれる。道を照らす魔石灯はあるものの、足下は薄暗いのでとても助かる。
「この子達を見かけるのは初めてですね」
「王宮の池で出会ったのだが、学校までついてきたようだ」
「それは、飼われていた子達ではなかったのですか?」
「ああ。陛下にも聞いたのだが、勝手に住み着いていたらしい」
「そうだったのですね」
亀は目的地までの道のりを明るく照らしてくれたのだった。
「ここだ」
「おお……!」
赤い屋根の大きな建物は馬術大会のためだけに利用する厩舎らしい。中には立派な魔石馬がずらりと並んでいた。皆、魔石の角を額から生やしている。
「これが魔石馬なんですね!」
近くでまじまじと見るのは初めてだった。普通の馬よりも体が少し大きく、瞳は宝石みたいにキラキラと輝いていた。
知性に溢れ、人間の言葉も理解しているという。
魔法との相性がよく、脚を早くさせたり背中から翼を生やしたりなど、付与魔法を用いて魔石馬自体の能力を向上することができるようだ。
「あれが私の馬だ」
純白の馬体にダイヤモンドみたいな美しい角を生やした魔石馬である。
毛並みは真珠みたいな照りがあって、しなやかな筋肉が美しい。
ヴィルがやってくると撫でろと言わんばかりに顔をすり寄せていた。
「よく懐いていますね」
「十年くらいの付き合いだからな」
魔石馬は六十年ほど生きるようでこの子は若手だという。
「お名前はなんていうのですか?」
「ビアンカだ」
「すてきなお名前です」
古い異国の言葉で〝白〟を意味するようだ。
「父からはあまりにも単純過ぎないか、と言われてしまったのを今でも覚えている」
「ははは」
リンデンブルク大公は同じ白という意味でも〝ブランシュ・コム・ネージュ〟という名前はどうかと提案したらしい。けれども当時のヴィルは長いから覚えられないと言って、自らが決めたビアンカという名前を貫き通したようだ。
その後、私はヴィルからビアンカのブラッシング方法について教えてもらった。
「ビアンカは猪毛で作られたブラシが好みで、毛の流れに沿って梳るだけなのだが、力加減にもうるさいんだ」
ヴィルが梳ってあげると、ビアンカは気持ちよさそうに瞳を細める。
「ミシャもやってみるか?」
「私が挑戦しても大丈夫なのでしょうか? 嫌がったりしません?」
「優しい馬だ。やらせてくれるだろう」
先にビアンカの斜め前で「ヴィル先輩の婚約者である、ミシャ・フォン・リチュオルです」と挨拶する。手の甲の匂いを嗅いでいただき、危険な人物ではありませんよ~とアピールした。
その後、ブラシを握って梳ってみたところ、大人しく受け入れてくれた。
ビアンカ、いい子……!
「大丈夫だっただろう?」
「はい。ビアンカさんは賢くって優しい子でした」
仕上げに保湿クリームを塗るようだが、一回で一缶使い切るらしい。
「このクリームは馬体の乾燥を防ぎ、毛並みを美しく保ってくれる」
「たしかに、塗ったらピカピカになります!」
二人がかりでクリームを塗ったあと、ヴィルは手入れが終わった旨をビアンカに語りかける。
「ビアンカ、訓練は明日から行うから、今晩はゆっくり休んでくれ」
今日はリンデンブルク大公家からやってきたばかりで、環境に慣れていないだろうから、と訓練は明日からにするようだ。
ビアンカに乗ったヴィルの姿を見るのが楽しみになった。




